1.電気通信事業の規制動向

◆ネットワークの中立性確保に向けた環境整備

 ネットワークの中立性とは、「通信ネットワークは誰のものか」という観点から議論される問題である。その概念は広範であるが、高速化し、ブロードバンドが進展したインターネットや、次世代通信網におけるネットワークの在り方を、主に「利用の公平性」と「コスト負担の公平性」といった角度から議論されることが一般的である。  こうした議論の一つに、トラフィック制御の問題がある。ブロードバンド化の進展とともに、通信事業者は、音楽・映像コンテンツのダウンロードやファイル転送等によるトラフィック増加への対応が求められているが、通信事業者は設備容量を増設するか、トラフィックを何らかの方法でコントロールする必要に迫られる。特定の発信者やコンテンツ・アプリケーションを対象としたアクセス制限等を行った場合、通信の秘密やネットワークの中立性に抵触する可能性があることから、事業者団体が運用基準(「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」)を定め、現在、各事業者は、これに基づいたネットワーク運用により、設備への負荷を低減している。  こうした議論は、総務省主催の「ネットワークの中立性に関する懇談会」(2006年11月~2007年9月)で行われたが、2008年2月から、これを引き継いだ「インターネット政策懇談会」において、IPアドレス付与の問題(IPv4からIPv6への移行)といった問題まで含めて、幅広い議論が行われている。

 

◆ユニバーサルサービス基金制度の見直し

 ユニバーサルサービスとは、「国民生活に不可欠なサービスであり、誰もが利用可能な料金など適切な条件で、あまねく日本全国において公平かつ安定的な提供の確保が図られるべきサービス」と位置付けられている。具体的には、電気通信事業法の省令で指定されており、加入電話については、「加入者回線(基本料部分に相当)」、「離島特例通話」、「緊急通報(110・118・119)」が該当する。また、第一種公衆電話と呼ばれる、電気通信事業法に定める一定の基準に基づいて設置される公衆電話からの「市内通話」や緊急通報等も、これに該当する。  ユニバーサルサービスを提供している通信事業者は、NTT東・西であるが、当該サービスを提供するためのコストについて、他の電気通信事業者も応分の負担を行う仕組みを「ユニバーサルサービス基金制度」という。同制度は、2002年に制度化されたが、実際に、NTT東・西が基金制度の運用に必要な申請を行い、発動したのは2006年度からである。  基金制度の運用開始後も進展するブロードバンド化、光IP電話の増加や加入電話の減少など、市場環境の変化に適切に対応するため、2008年4月から情報通信審議会において、ユニバーサルサービス制度の在り方の見直しが進められた。対象となるサービスの範囲(携帯電話、IP電話)や、コストの算定方法、事業者間の負担方法等について、時間軸を分けて(2010年代初頭まで、初頭以降)議論が行われ、2008年12月に答申が出された。同答申では、2009年度から2011年度までは基金による補填の対象を引き続き加入電話とした上で、携帯電話・光IP電話については次期の見直しに向けて注視すること、コスト算定において加入電話から光IP電話への移行を踏まえた補正を行うこと等が提言された。また、IP網への移行が完了すると想定される2010年代初頭以降については、サービスの種類に関わりなく、アクセス網を経由して一定の要件を満たすサービスが利用可能となる「ユニバ-サルアクセス」の導入に係る検討の必要性が示された。

 

◆通信プラットフォームの在り方検討

 通信プラットフォーム機能とは、通信サービスを提供する上で必要となる認証・課金機能、QoS制御機能、デジタル著作権管理(DRM)機能、あるいはポータル機能等、幅広い機能を指すが、2008年2月から本年1月まで総務省で開催された「通信プラットフォーム研究会」(座長:相田仁東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)の報告書では、「通信レイヤー上でコンテンツ・アプリケーションを円滑に流通させる機能」と定義されている。  通信プラットフォームの概念には、固定通信、移動通信といった区別は無いが、主にモバイルインターネットにおけるプラットフォームの在り方を中心とした議論が行われてきた。「通信プラットフォーム研究会」の主な検討事項は、認証・課金機能、ポータル機能の多様化であるが、具体的には、携帯電話によるダウンロードコンテンツのポータビリティや、ユーザーIDの連携による課金・決済方法の多様化、現在の携帯電話事業者のポータル以外の「競争ポータル」、位置情報提供機能の弾力化といった課題である。  また、複数の認証基盤の連携により、一つのIDでさまざまなコンテンツやアプリケーションの利用が可能になる「シングル・サイン・オン」を視野に入れた「IDポータビリティ」の実現も検討に含まれている。  通信プラットフォーム研究会の報告書により取りまとめられた課題は、今後、総務省が主催する検討の場や、事業者間のフォーラム等で継続して検討される予定である。  

◆次世代ネットワーク(NGN)に関する接続ルール

 NTT東・西は、2008年3月31日から、「フレッツ光ネクスト」等のNGNサービスの商用提供を開始した。  商用提供を前に、公正競争条件の確保の観点から、2007年10月より情報通信審議会での審議(「次世代ネットワークに係る接続ルールの在り方について」)が行われ、2008年3月27日に答申が出された。同答申では、NGNは、ボトルネック性を有するアクセス回線と一体として設置される設備であり、第一種指定電気通信設備に指定することが必要であるとされたことから、これを踏まえた省令改正が2008年6月に行われた。  また、同答申では、NGN機能のアンバンドル化や接続料算定方法等についても、一定の方向性が示されたため、総務省は「次世代ネットワークの接続料算定等に関する研究会」(座長:東海幹夫青山学院大学経営学部教授)を開催し、費用の配賦に必要なコストドライバーや需要算定の在り方などについて検討を行い、12月に報告書を公表した。  報告書では、費用の配賦についてトラフィック(パケット/帯域)比、ポート容量比といった考え方や映像系サービスへの過剰な費用配賦を抑えるための一定の換算係数の考慮といった考え方が示された。また、2009年度までの暫定コストドライバーと、2010年度以降の正式ドライバーとを分けて適用することが適当としており、暫定ドライバーとしては、ポート容量比を使用する方向性が打ち出された。なお、2009年度の接続料は、2008年12月に取りまとめられた同研究会の報告書の内容を踏まえて算出されている。  

◆通信・放送融合法制の法体系見直し

 通信、放送に関連する現在の法体系は、電波法、電気通信事業法、放送法、有線テレビジョン放送法、電気通信役務利用放送法、日本電信電話株式会社等に関する法律(いわゆる「NTT法」)等、9つの法律で構成されている。  インターネットのブロードバンド化に伴う映像配信サービスや、光ファイバーをアクセス回線とするIPマルチキャスト方式等による多チャンネル放送サービス、ビデオ・オン・デマンド(VOD)、あるいは携帯電話での映像コンテンツ配信サービス等の出現により、通信と放送の垣根が低くなってきた。これは、同一インフラの通信・放送による共用や、通信・放送の両方に利用できる端末の出現ととらえることができる。  こうした背景を踏まえ、情報通信審議会の委員会(「通信・放送の総合的な法体系の在り方に関する検討委員会」:2008年2月~)において、現在の9つの法律を、伝送設備規律、伝送サービス規律、コンテンツ規律等のレイヤー型法体系へと再構築する方向での議論が行われている。従来の「放送」を「メディアサービス」、インターネット上の公然性を有するコンテンツを「オープンメディアコンテンツ」と呼称するなど、通信・放送の融合時代に対応した概念整理を行い、どのような規律を適用すべきかを検討している。  2009年12月頃に予定されている答申を経て、2010 年の通常国会への関連法案提出を目指す。   

◆携帯端末向けマルチメディア放送サービス

 地上波のアナログ放送が2011年7月24日までに停波(終了)することから、その空いた周波数帯域を利用して、携帯端末向けの新しいマルチメディア放送サービスを提供することが検討されている。  マルチメディア放送の在り方については、総務省の「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会(2007年8月~2008年7月)」(座長:根岸哲甲南大学法科大学院教授)において、ビジネスモデルや社会的役割の在り方、制度的・技術的課題について検討が行われた。  このマルチメディア放送は、大きく2つの形態があり、VHF帯ハイバンドを利用する全国向け放送と、 VHF帯ローバンドを利用する地方ブロック向け放送が計画されている。いずれも、ハード/ソフト分離(ただし、ハード事業者による一部ソフト事業兼業も想定)の事業モデルを想定している。  このうち、全国向けマルチメディア放送には、 MediaFLO方式ではKDDI陣営(メディアフロージャパンとKDDI)が、ISDB-Tmm方式ではNTTドコモ陣営(マルチメディア放送企画)とソフトバンク陣営(モバイルメディア企画)が、サービス提供に向けて、それぞれ検討や試験等を進めている。  今後、技術的条件等の検討を進め、2009年中には技術面、制度面で必要となる法改正、省令改正等を、 2010年半ばには、サービス提供事業者の選定を予定している。最終的な事業者数は、ハード事業者で1~ 2、ソフト事業者で2~4程度となる見込みである。  

◆ICT成長力懇談会最終報告書「“xICT”ビジョン」の公表

 日本においては、u-Japan政策の下、有線系のブロードバンドをはじめとする世界最高水準の情報通信基盤環境を達成し、ユビキタス社会の実現に向けて着実に歩を進めている。その一方で、「国際的な存在感の低下」と「地域間格差の拡大」が喫緊の課題となる中、総務省は、2008年1月に「ICT成長力懇談会」(座長:村上輝康野村総合研究所シニアフェロー)を設置し、「グローバル成長力」と「地域成長力」についての検討を開始した。  同懇談会では、ICTの徹底活用を促す改革のコンセプトとして、“xICT”(エックス・アイ・シー・ティ)を打ち出し、最終報告書として「“xICT”ビジョン」を同年7月に取りまとめ、公表した。  “xICT”は、ICTを掛け合わせる(掛け算する)という意味であり、さまざまな産業や地域が、“e”(電子)の世界から“u”(ユビキタス)の世界へ進む中で、ICT利用を深化させることにより、生まれ変わることを示している。  世界最高水準の情報通信基盤環境を達成した日本では、ユビキタスネット社会の実現によって、ICTの利活用がより進化する時代を迎えようとしているが、産業と地域がICTと深化した融合を遂げ、生まれ変わることによって、成長力が強化されることが期待されている。  

◆違法・有害情報に対する取り組み

 インターネット上の違法・有害情報から青少年を守ることを目指し、2007年10月、IT安心会議(インターネット上における違法・有害情報等に関する関係省連絡会議)により、携帯電話やパソコン等に対するさらなるフィルタリングの導入促進、保護者等への啓発に関する方策「インターネット上の違法・有害情報に関する集中対策」が取りまとめられた。   2008年4月には、インターネット上のコンテンツの評価を行う第三者機関として「モバイル・コンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」ならびに「インターネット・コンテンツ審査監視機構(I-ROI)」が設立され、事業者による自主規制に向けて組織的枠組みが構築された。この動きを受けて、総務大臣から携帯事業者およびPHS事業者の4社等に対して、フィルタリングの導入促進についての再度の要請が行われている。  なお、携帯電話におけるフィルタリングソフトの提供については、あらかじめサイトの内容を確認した上で、フィルタリングの目的に合致していると思われるサイトだけをリスト化し、利用者からのサイト閲覧要求があった際に、このリスト中に含まれる場合のみ閲覧を許可する「ホワイトリスト方式」と、あらかじめ閲覧を不可とするサイトのリストを作り、利用者からサイト閲覧要求があった際に、このサイトを見せないようにする方式「ブラックリスト方式」の2種類が携帯事業者により用意されている。ホワイトリスト方式では、制限される対象が違法有害でないものの、携帯事業者の非公式サイトとして閲覧制限をされる場合もあり、利用者の利便性を損なう恐れもあることから、ソフトの選択にあたっては親権者の同意を得てどちらかが選択できるように対応が進められている。  さらに、2008年6月には、「青少年インターネット利用環境整備法」が成立し、携帯電話やパソコン等へのフィルタリングにかかわる規定が定められ、2009 年4月の施行に向けて、関係省庁において政省令の整備等が進められている。また、同法の公布以降、政府・関係官庁の検討を経て、現在、行政の支援の下、電気通信事業者および利用者による自主的な対応が促進され、表現の自由に配慮しつつ、利用者各人がインターネットの利便性を享受できるような環境の整備に向けて、各種の検討・取り組みが進められている。  これらの流れを受け、通信事業者や通信機器メーカーをはじめ、PTA団体の代表や学識経験者らが発起人となり、任意団体として「『安心ネットづくり』促進協議会」を設立する発起人総会が2008年10月に開催され、その後の会員募集を経て、2009年2月27日、同協議会の設立総会が開催された。同協議会は良好なインターネットの利用環境を民間主導で構築することを目的に、①総合的なリテラシー向上の推進、②民間の自主的取り組みの推進、③インターネット利用環境整備に関する知見の集約という3点を柱として活動する。