1.電気通信事業の規制動向

◆グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース

 2009年8月30日の衆議院選挙における民主党の圧勝により、同年9月16日に発足した鳩山連立政権の下、 ICT政策の見直しも新たな枠組みにより実施されることとなった。
少子高齢化の急速な進展による経済成長への影響等が懸念される中、グローバルな視点から、競争政策を環境変化に対応したものに見直すとともに、ICTの利活用により、直面する経済的、社会的課題等の解決に向けた新たなICT政策を検討することを目的として、同年10月、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」が発足した。
政治主導を掲げる鳩山政権の意向を踏まえ、同タスクフォースは、原口一博総務大臣、内藤正光総務副大臣(情報通信担当)および長谷川憲正総務政務官、ならびに各部会の座長・座長代理から構成される「政策決定プラットフォーム」が設立され、その下に以下の四部会が設置された。
① 過去の競争政策のレビュー部会
② 電気通信市場の環境変化への対応検討部会
③ 国際競争力強化検討部会
④ 地球的課題検討部会
2009年10月30日に第一回会合(四部会合同)が開催された後、各部会とも2009年中に検討を開始し、12月10日の①②合同部会では、電気通信事業者等からのヒアリングも実施された。今後、1年程度をかけて議論を進めていく予定である。

 なお、NTTの組織問題については、2006年6月20日付の「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」の中で、「2010年の時点で検討を行い、その後、速やかに結論を得る」とされ、鳩山連立政権下での扱いが注目されていたが、同タスクフォースの議論を通じてNTTの在り方に関する検討が行われることになった。

 

◆ICT利活用に関する政策的取り組み

 世界最先端レベルにあるといわれる日本のブロードバンドインフラであるが、ICTの利活用の面での遅れや課題が指摘されている。これらを克服するため、政府はさまざまな取り組みを進めている。
政府主導の国家戦略は、IT戦略本部により2001年1月に発表された「e-Japan戦略」に遡る。そこでの IT基盤整備を経て、2003年7月に発表された「e-Japan戦略Ⅱ」でIT利活用重視が打ち出され、その後、 2006年1月の「IT新改革戦略」に引き継がれることとなった。
これに対応して、総務省は2004年から「u-Japan 政策」を推進。「ブロードバンドからユビキタスネットへ」をテーマとしつつ、「ユビキタスネット社会」を2010年までに実現することを目標とし、具体的検討を進めるために、さまざまな取り組みを行ってきた。
まず、2006年10月に「ICT国際競争力懇談会」を立ち上げ、2007年4月に最終とりまとめを公表。これを踏まえ、同年5月、総務省は「ICT国際競争力強化プログラム」を策定するとともに、官民が継続的に ICT産業の国際競争力を強化するための中核的機能を有する「ICT国際競争力会議」を立ち上げた。同会議は、今後3年程度を展望した行動計画として、2009 年6月に「ICT国際競争力強化プログラム2009」を策定し、国際競争力に関するさまざまなデータや指標を公表した。
これと並行して、2008年2月、デジタル技術を活用する「個」の才能開花、安心・安全かつ便利で豊かな社会の実現、日本の競争力向上等の方策を幅広い見地から戦略的に検討することを目的とする「ICT 成長力懇談会」を立ち上げた。同懇談会は、同年7月に最終報告書「“xICT”(エックス・アイ・シー・ティ)ビジョン」を公表し、世の中の「原則」を変え、ICT の徹底活用を促す改革のコンセプト(xICT:あらゆる産業・地域とICTとの深化した融合)を打ち出した。
さらに、ブロードバンド・ゼロ地域を解消し、地上デジタル放送への移行を完了する2011年以降の「完全デジタル時代」を展望し、「ユビキタスネット社会」をさらに発展させていくための総合的なICT政策のビジョンを検討することを目的として、2008年10月、「ICTビジョン懇談会」を開催。2009年6月、報告書として「スマート・ユビキタスネット社会実現戦略」を取りまとめた。
その後、2009年9月の鳩山連立政権の発足に伴い、同年10月に新たなICT政策について検討するため「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」が発足し、さらなる取り組みが進められている。また、原口総務大臣が同年12月に公表した「原口ビジョン」の中で、2050年を見据えたICT関連のさまざまな達成目標を盛り込む「ICT維新ビジョン」を打ち出し、ICTによる電子行政の実現や教育・医療・農業の改革、グリーン化を通じたCO₂削減や「緑の分権改革」などを施策例として掲げた。

 

◆通信・放送の総合的な法体系の在り方

 通信・放送に関連する法体系は、電気通信事業法、電波法、放送法、有線テレビジョン放送法等、多くの法律で構成されている。こうした現在の法体系は、ケーブルテレビ事業者によるインターネット接続サービスや、IPインフラによる放送・映像配信サービス、携帯端末向けワンセグ放送が提供されるなど、通信と放送の垣根が低くなる中で見直しが求められていた。
これらを背景に、情報通信審議会は、「通信・放送の総合的な法体系の在り方に関する検討委員会」での検討を経て、2009年8月に答申を出し、「コンテンツ」「伝送サービス」「伝送設備」の各レイヤーごとに新たな法体系見直しの方向性を打ち出した。その後、政権が交代したが、総務省は基本的には同答申をベースに、NTT法を除く8つの法律を統廃合し、4本に再編する法案を2010年通常国会へ提出する準備を進めている。統廃合の概要は、以下のとおり。

コンテンツ:
放送関連四法のうち、有線テレビジョン放送法、有線ラジオ放送法、電気通信役務利用放送法の三法を廃止し、放送法に統合。コンテンツ規律は、従来の「放送」にとどめるとともに、放送施設の設置と放送の業務の両方を一事業者で行うか、複数事業者で分担して行うかについては、事業者が選択して申請できる制度とする。

伝送サービス:
有線放送電話法を廃止し、電気通信事業法に統合。放送・有線放送に係る放送中止事故に関する報告義務等、消費者利益を保護する。

伝送設備:
電波法、有線電気通信法は併存。電波利用の柔軟化・手続きの簡素化等により、無線局免許を通信・放送の双方に利用可能とし、迅速な新サービス・新製品の導入を促進する。

 こうした法体系の統廃合と併せ、特定の企業が複数の放送局を支配することを禁じる「マスメディア集中排除原則」の基本的な部分を法定化するとともに、地方放送局の経営状況に鑑み、出資規制を緩和する方針である。これにより、放送局への出資の上限を従来の20%未満から3分の1未満に引き上げる。

 

◆電気通信市場の環境変化に対応した接続ルールの在り方

 固定通信・移動通信市場の環境変化に対応し、公正競争環境を維持・確保する観点から、2009年2月より情報通信審議会(電気通信事業政策部会および接続政策委員会)において接続ルールの在り方に関する審議が進められ、同年10月に答申が出された。各市場における公正競争環境整備の概要は、以下のとおり。

モバイル市場の公正競争環境整備:
NTTドコモとKDDI(au)・沖縄セルラーが対象となる第二種指定電気通信設備制度は、現行の枠組みを維持する。アンバンドル(他事業者が、指定電気通信設備のうち必要な設備・機能のみを細分化して使用できるようにすること)が必要と考えられる機能についても、まずは「注視すべき機能」と位置づけ、一定期間、事業者間協議を注視する。接続料算定における販売奨励金等の営業費算入は原則不適当とする。

固定ブロードバンド市場の公正競争環境整備:
NTT東・西が設置する戸建て向け屋内配線は、第一種指定電気通信設備に該当すると整理。DSLサービスに関する回線名義人確認について、DSL事業者名の申込スキームの導入や、名義人と申込者が不一致の場合の通知方法に係る新たな取り組みを行う。

通信プラットフォーム市場・コンテンツ配信市場への参入促進のための公正競争環境整備:
課金機能、情報料回収代行機能、大容量コンテンツ配信機能、GPS位置情報の継続提供機能、SMS接続機能等は「注視すべき機能」と位置づけ、事業者間協議の進展状況を注視。次世代ネットワーク(NGN)の通信プラットフォームについても、接続事業者からの要望に応じて、適宜、アンバンドルの要否を検討することが適当。

 この他、固定と移動の融合を踏まえた接続料算定に関して、ビル&キープ方式(通信の発信側事業者が着信側事業者の網も含めてエンドエンドで利用者料金を設定することとし、接続料は互いに支払わない形態)も検討されたが、現時点での導入は時期尚早とされた。
総務省は、同答申を踏まえ、関係法令の改正等、所要の措置を講ずる予定である。

 

◆携帯端末向けマルチメディア放送

 地上波のアナログ放送が2011年7月に停波(終了)することから、その空いた周波数帯域を利用して、携帯端末向けマルチメディア放送を提供するための制度整備が進められている。中でも、2009年4月の電波法および放送法改正により、移動受信用地上放送に係る開設計画の認定制度や受託放送・委託放送制度(いわゆる「ハード・ソフト分離」)が導入されることとなった。
制度整備を進める総務省は、2009年8月に「携帯端末向けマルチメディア放送の実現に向けた制度整備に関する基本的方針」を公表。参入希望調査を実施しつつ、同年10月に技術的条件を公表するなど、大詰めの段階に入っている。
参入形態は、「受託国内放送(受託放送をする無線局の免許を受けた者)」「委託放送(委託放送業務の認定を受けた者)」について、それぞれ「全国向け放送」と「地方ブロック向け放送」があり、全部で4区分となっている。同年11月に公表された参入希望調査の結果によると、全国向け受託国内放送に3者、全国向け委託放送業務には 6者が参入希望・検討をしている
MediaFLO方式のKDDI陣営(メディアフロージャパン企画)と、ISDB-Tmm方式のNTTドコモ陣営(マルチメディア放送)は、全国向けの受託国内放送・委託放送業務いずれにも参入意思を表明。ISDB-Tmm方式で実証実験を進めてきたソフトバンク陣営(モバイルメディア企画)は、全国向け委託放送業務へのみ参入を表明している。
2010年2月3日、総務省が公表した受託国内放送に関する省令改正等の必要な制度整備案においては、申請できる帯域幅は 4.5MHzとされ、受託国内放送の参入枠は1社(1方式)とする方針案が出された。今後、意見募集手続きや電波監理審議会の答申を経て制度整備が実施され、開設計画の認定に係る手続きが行われる予定。その後、委託放送業務の認定に係る手続きが実施される予定である。

 

◆ICTの安全・安心への取り組み

 第169回国会(2008年1月~6月)において成立した「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(青少年インターネット環境整備法)」および「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)の一部を改正する法律」の趣旨を踏まえ、2009年1月、総務省は「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」の最終報告書を公表し、これまでのインターネット上の違法・有害情報に対する取り組みを整理した上で、今後のインターネット利用環境整備の方向性を明らかにするため、「安心ネットづくり」促進プログラムを策定した。
「安心ネットづくり」促進プログラムは、青少年インターネット環境整備法第3条の基本理念と方向性を共有し、(1)「安心を実現する基本的枠組みの整備」、(2)「民間における自主的取り組みの促進」および(3)「利用者を育てる取り組みの推進」の3つを柱とした総合的な政策パッケージを提示している。
具体的施策としては、携帯電話フィルタリングの導入促進、フィルタリング推進機関の支援、自主的取り組みを推進する法制の検討、特定電子メール法(いわゆる迷惑メール防止法)の着実な執行、国際連携推進のための枠組みの構築といった「安心を実現する基本的枠組みの整備」のほか、「民間における自主的取り組みの促進」として、コンテンツ・レイティングの普及促進、違法・有害情報対策に資する技術開発支援など、さらに「利用者を育てる取り組みの促進」として、家庭・地域・学校における情報モラル教育などが挙げられている。
例えば、(2)「民間における自主的取り組みの促進」では、従来のISPにおける違法情報対応ガイドラインや、違法・有害情報に関する事業者相談窓口である「違法・有害情報事業者相談センター」の取り組みなどに加え、関係者が広く参加し、違法・有害情報対策に取り組むための「自主憲章」の策定、レイティングの実証実験、ブロッキングによる児童ポルノ対策の実証実験などの取り組みを支援する旨、示されている。
なお、2011年には同プログラムの検証を行う場を設け、インターネット上の違法・有害情報対策全般について、総合的な検証が実施される予定である。