4.海外の動向

◆米オバマ政権の情報通信政策 〜ブロードバンド振興とネットワーク中立性のルール化〜

 米オバマ政権では、情報通信分野における最重要課題として、ブロードバンドの普及促進に力を入れている。
2009年2月に成立した景気対策法では、予算総額約7900億ドルのうち約72億ドルが、ルーラル地域におけるブロードバンド網整備、ブロードバンドに関する教育、トレーニングプログラムへの補助、融資等に割り当てられ、現在、連邦政府の関係機関による補助金交付手続きが進められている。また、同法によるブロードバンド振興策の一環として、米連邦通信委員会(FCC)は、全米ブロードバンド計画(National Broadband Plan: NBP)を、2010年2月17日までに策定することが義務付けられている(注1)。NBPは、今後数年間の米国のブロードバンド政策の指針となるものであり、ユニバーサルサービス基金によるブロードバンド支援、無線ブロードバンド向けの新たな周波数割り当てといった内容が盛り込まれる予定である。
一方、これらブロードバンドの普及促進と並んで重要視されている課題が「ネットワーク中立性のルール化」である。2009年10月、FCCは、既存のネットワーク中立性4原則(注2)(コンテンツへのアクセス、アプリケーション・サービスの利用、端末機器の利用、競争の享受)に、非差別的取り扱い義務、ネットワーク管理に関する情報開示義務の2原則を追加するとともに、有線、無線を問わず、すべてのプラットフォームを対象とした規則とすることを提案し、関係者からの意見募集を開始した。FCCは、2010年後半にはネットワーク中立性の規則を制定したい考えだが、AT&Tをはじめとする通信事業者各社からの反発も強く、また、FCCの規制権限を疑問視する声もあることから、FCCの思惑通りにネットワーク中立性の規則の制定が進むかどうかは不透明な状況である。

(注1) 2010年1月7日、FCCは連邦議会に対し、NBPの提出期限を3月17日まで延長するよう要請。
(注2) 2005年8
にFCCが採択した「インターネット政策宣言」。正式な規則ではない。

◆アプリケーションストア

 スマートフォンをはじめとしたモバイル端末向けアプリケーションを、携帯電話ネットワーク、無線LAN経由で販売するオンラインストアを指す。2008年7月に米Appleが、iPhone、iPod touch向けに開設した「App Store」は、2010年1月時点で、登録アプリケーション数10万本、累積ダウンロード回数30億回超という驚異的な実績を挙げている。また、2008年10月、米Googleは、同社のオープンプラットフォーム「Android」向けに「Android Market」を開設している。これらを契機に、カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)による同社BlackBerry向けの「App World」、フィンランドのNokiaによる「Ovi Store」等が相次ぎ開設されている。
端末メーカーが自社端末でのみ利用可能なアプリケーションを提供している一方、通信事業者が運営するアプリケーションストアでは、複数のメーカー、OSに対応するアプリケーションを提供している。中国移動が「Mobile Market」を、韓国のSKテレコムが「T Store」を、端末に依存しないアプリケーションストアとして開設している。英ボーダフォンは、まずは市場シェアの高いシンビアンOS向けアプリケーションの提供に注力し、その後、リナックスOS向けアプリケーション等に対象を広げていく構想を打ち出している。

◆欧州の通信規制改革

 欧州連合(EU)は、2009年12月18日、新たな通信規制(新指令等)をEU官報で公布し、翌19日より発効した。
新たな通信規制は、主に、通信市場における競争と消費者の権利の強化、域内の高速ブロードバンド接続の普及促進、単一通信市場の完成に向けた新たな独立機関の創設などに焦点が当てられ、具体的に以下の12項目が改革点として挙げられている。

1. ナンバーポータビリティ(固定/移動)手続き期間の短縮
2.より適切な消費者への情報提供
3. 消費者のインターネットアクセスの権利保護(新インターネットの自由条項)
4. オープンかつニュートラルなインターネットの保証(ネット中立性)
5.個人情報の侵害とスパムからの消費者の保護
6.緊急サービス番号「112」へのアクセス改善
7.各国規制機関の独立性の強化
8.「欧州電子通信規制機関(BEREC)」の創設
9. 競争上の是正措置に関する欧州委員会の発言権の強化
10.競争上の問題解決手段としての機能分離
11.ブロードバンド・アクセスの普及促進
12. NGA(次世代アクセス網)における競争と投資の促進

 通信規制の改革については、2007年11月に、欧州委員会が現行指令の改正を提案し、2009年5月に概ね承認されたが、インターネットアクセスの制限と利用者の権利保護が争点として残り、議論が継続されていた。2009年11月に、利用者の権利を強化する「新インターネットの自由条項」(司法の関与なく一方的にインターネットアクセスを停止することはない等)を盛り込むことで最終合意に至った。
今後、EU加盟27カ国は、2011年6月を期限として、新指令を国内法化することになっている。また、欧州電子通信規制機関(BEREC)の設立は、2010年春に予定されている。

◆フランス違法ダウンロード規制法(HADOPI法)

 HADOPI法とは、インターネット上のデジタルコンテンツの著作権を侵害する違法ダウンロード(P2Pファイル共有)を繰り返す者に対し、インターネットへのアクセス制限を規定するフランスの法律である。同法は2009年5月に一度成立したが、その後の同法の一部の違憲判決(2009年6月)および当該違憲部分を修正する法律の制定(2009年10月)を経て、2010年1月以降に施行される予定である。
同法では、違法ダウンロード監視機関「HADOPI」を設立し、違法利用者へのアクセス規制を次の3段階で行う(「スリーストライク(三振)」法とも呼ばれる)。
第1段階:メールによる警告、第2段階:書面による警告、第3段階:司法(裁判官)の命令によるアクセス停止。
著作権保護に重点を置く同法については、インターネットへの自由なアクセスを国民の基本的権利とする考え方との対立が、フランス国内のみならず欧州の通信規制改革でも大きな争点となった。違反容疑者に対し、聴聞の機会を与えないままアクセス停止措置を実施する形態が同国民法上の「無罪の推定」の原則に合致しないのではないかと、依然懸念されている。

◆中国、検閲ソフト「グリーン・ダム」のPC搭載義務を否定

 中国工業・情報化省(工業和信息化部)は、2006年から、未成年者向けフィルタリングソフト「グリーン・ダム」の導入を進めてきた。中国企業が研究開発した2種類のソフトを選定し、学校やネットカフェへの普及を進めているもので、2009年5月には、同省は、「国内で生産販売されるコンピュータへの同ソフトの搭載を義務付ける」とも受け取れる公文書を発布した。
これに対し、インターネットへの安心アクセス、プライバシー確保に関する“ネチズン”の懸念が噴出し、李毅中(リ・イージョン)工業・情報化相は2009年8月13日の記者会見において、「公文書は明瞭な表現に欠け、当該ソフト自身にも欠陥があるので改良を進めている。フィルタリングソフトの使用については消費者の選択を尊重し、同ソフト搭載を強制しない。ソフトについても多様化、市場化を進める」と表明した。
なお、これに先立って、文化省は、2008年からカラオケ検閲システムの導入を本格化し、2009年までに約3000店に配備した。同システムのブラックリストに登録されている歌を利用客が注文すると自動的に遮断される。

◆主要通信事業者の新興・開発途上国市場への進出

 スペインTelefonicaによる中南米進出、フランステレコムによるアフリカ進出など、歴史や言語を背景とした新興・開発途上国市場への進出は以前からみられたが、近年、先進国の国内市場飽和と新興・開発途上国市場の旺盛なニーズ、ポテンシャルの飛躍的増大を背景とした、同市場への積極的な進出が相次いでいる。
後者の例としては、シンガポールテレコムが中心となり、11の事業者が加盟している「Bridge Alliance」(2004年11月に結成)が挙げられる。最近の例では、2009年3月、NTTドコモがインドのTataグループに属すTata Teleservicesに26%出資、Tata DoCoMoのブランドで、通信コストに敏感なインド市場に 秒単位課金サービスを投入し、インド国内各社も追随した。また、ノルウェーの通信事業者Telenorとインドの不動産会社Unitechとの合弁会社Unitech Wirelessは、2009年12月、インドで携帯電話サービスを開始した。
一方、インドの主要事業者(Bharti Airtel、Reliance)がアフリカ諸国に足場を持つ南アフリカの通信事業者MTNとの統合を、2008年から2009年に交渉した経緯がある。バーレーンの通信事業者Zainも中東・アフリカ諸国に足場を持つが、インドの政府系事業者BSNLとMTNLがZain株式の46%取得に動くとの情報も浮上した。また、中国移動は、途上国市場を標的に投資してきたルクセンブルクのMillicom International Cellularの買収に動いたことがあるが、2007年、同社から加入者増が顕著なパキスタンの携帯電話事業者Paktel(現CM Pak)を個別に買収した。中国移動の2008年度売上、純利益はそれぞれ約5兆4000億円、1兆5000億円であり、主要携帯事業者には新興国における事業も含まれる時代となった。

◆新興・開発途上国におけるICTによるBOPビジネス

 BOP(Base of  Pyramid、またはBottom of Pyramid)とは、所得別人口構成のピラミッドの底辺層を指す。現在、世界人口の約7割(40億人)が年間所得3000ドル未満のこの底辺層を構成しており、その市場規模5兆ドルは、日本の実質国内総生産に相当するといわれている。この市場規模に着目し、企業が途上国のBOP層を対象にビジネスを行いながら、生活改善や社会的課題の解決といった社会的責任も同時に達成する「BOPビジネス」が注目を集めている。
通信事業者の新興・開発途上国市場への進出(「主要通信事業者の新興・開発途上国市場への進出」参照)はもとより、ICTを通じたBOPビジネスも活発になってきている。
貧困者向け無担保少額融資を提供するグラミン銀行(バングラデシュ)の「グラミンフォン」(携帯電話を貸与し、公衆電話サービスを提供させ、収入を融資返済に充当)は、その先駆けとして有名である。携帯電話を使った国際送金サービス(Mobile Money Transfer・MMT)も広がりを見せている。  途上国の子供たちへのPC普及を目的に100ドルPCの開発で注目を集めたNGO「One Laptop Per Child財団」の活動は、その後、クラウドコンピューティングの動きとも相まって、ネットブックPCに代表される低価格PCの開発にも影響を与えたといわれる。
KDDIは、2009年11月12日、途上国の人々の生活水準向上に注力している米国デフタ・パートナーズと、途上国への新規事業展開で提携。その第1弾としてバングラデシュのISP大手であるbracNet社へ出資した。

◆海外のWiMAXサービスの動向

 WiMAXフォーラムの発表によると、2009年12月現在、世界146の国・地域で519のWiMAXネットワーク(固定・モバイル)が展開され、このうち約8割は、固定WiMAX(IEEE802.16d規格/主に3.5GHz帯)が占めている。  モバイルWiMAXサービス(IEEE802. 6e規格)では、米ClearwireやロシアYotaが2.5GHz帯でサービスを拡大している。この2社とKDDI系のUQコミュニケーションズは、2009年9月15日、国際ローミングサービスの実現に向け、覚書を締結した。
Clearwireは、2009年1月、オレゴン州ポートランドでモバイルWiMAXサービス「Clear」を開始し、約1年で27の地域へと拡大した。スプリント・ネクステルのEV-DO Rev. AとモバイルWiMAXの双方に対応したモデム「U300」も発売している。出資者でもあるCATV事業者のコムキャストおよびタイムワーナーも、ClearwireのMVNOとしてモバイルWiMAXサービスの販売を行っている。同社のWiMAX契約者数(固定・モバイル)は、米国と欧州4市場を合わせ55.5万(2009年9月末)となった。
ロシアYotaは、2009年6月、モスクワとサンクトペテルブルクでモバイルWiMAXサービスを開始し、インターネット接続とコンテンツ(楽曲や動画)をセットにした定額プランを提供している。契約者数は、同年10月に20万を超えた。同社は、中南米や東欧諸国への海外展開に向けて、2009年に約5億米ドルを投資しており、中米ニカラグアでは、7月に2.5GHz帯免許を取得して 12月に試験サービスを開始した。
韓国のモバイルWiMAX(韓国開発のWiBRO/2.3GHz帯)事業者KTとSKTも、海外進出を強化する方針を明らかにした。2009年5月にはSKTがヨルダンで、12月にはKTがアフリカのルワンダで、それぞれWiBROサービスを開始している。

◆モバイル送金サービスの広がり

 携帯電話のSMS(Short Message Service)を利用して送金を行うMobile Money Transfer (MMT)サービスが、銀行インフラの行き届かない開発途上国や、移民の多い国々を中心に広がっている。  携帯電話事業者によるMMTサービスは、フィリピン、マレーシア、東アフリカ等で盛んである。フィリピンでは2004年に、マレーシアでは2007年に、主に国外労働者をターゲットとしたMMTによる国際送金サービスが始まった。東アフリカでは、先行するボーダフォングループ(ケニアSafaricom等に出資)を追って、2009年、クウェートZainと南アMTN等が市場に参入した。
MMTサービスでは、現金の引き出し場所を拡大するため、Western Unionといった送金専門業者や銀行等との提携が進んでいる。また、公共料金の支払いや株主配当金の受け取りなど、MMTの利用シーンも広がっている。なお、NTTドコモが2009年7月21日に開始した「ドコモ ケータイ送金」もMMTの一種である。
さらに、携帯電話事業者以外からのMMT参入も発表されている。端末メーカーのフィンランドNokiaは、2009年8月、MMTサービス「Nokia Money」の提供計画を発表した。このサービスは、米モバイルペイメント事業者Obopay(Nokiaが出資)のプラットフォームをベースとし、2010年に東アフリカからサービスを開始する予定である。

携帯電話事業者による主なモバイル送金サービス

携帯電話事業者 MMTサービス
フィリピン Smart Communications Smart Money Smart Padara
Globe Telecom G Cash
マレーシア Maxix Communications M-money
Celcom Celcom Air Cash
ケニア Safaricom M-PESA
Zain Kenya ZAP
タンザニア Vodacom Tanzania M-PESA
Zain Tanzania ZAP
ウガンダ Zain Uganda ZAP
MTN Uganda MTN MobileMoney