2.移動通信事業の動向

◆携帯電話通信規格の動向

 ITU-R(国際電気通信連合 無線通信部門)では、3G(第3世代携帯電話)規格であるIMT-2000の後継として、4G(第4世代携帯電話)規格とされるIMT-Advancedの検討が進められている。現在、IMT-Advancedの規格候補として、LTE-AdvancedとWirelessMAN-Advancedが挙げられている。
前者は、3GPP(Third Generation PartnershipProject)が提案する、いわゆる3.9Gとして商用化済みのLTE(Long Term Evolution)を改良して1Gbpsまで高速化させた規格、後者は、IEEE(米国電気電子学会)802.16委員会が提案する、Mobile WiMAXとして商用化済みのIEEE802.16eを改良して330Mbpsまで高速化させた規格(IEEE802.16mに相当)である。
ITU-Rでは、これら2つの規格のIMT-Advancedとしての勧告化について、2011年3月頃開催の会合で決定する見込みである。なお、LTEは、国内ではNTTドコモが「Xi(クロッシィ)」のサービス名で2010年12月に商用サービスを開始し、Mobile WiMAXは、UQコミュニケーションズが「UQ WiMAX」のサービス名で2009年2月から商用サービスを提供している。

 

◆携帯電話網におけるデータオフロード

 iPhoneやAndroid搭載機など、スマートフォンの普及に伴い、米国・欧州・韓国・日本などでモバイルデータトラフィックが急増している。日本では、2010年6月からの3カ月間でモバイルデータトラフィックは 3%増加し、今後も年1.6倍の爆発的なペースで増加していくと見込まれている(総務省調べ)。このような状況に対応するため、モバイルデータトラフィックを携帯電話網以外のネットワーク(インターネット網)へ流す技術が重要視されており、この技術を「データオフロード」と呼ぶ。
携帯電話事業者各社は、Wi-Fi対応の無線LAN機器やフェムトセル(小型の携帯電話用基地局)を活用したデータオフロードへの取り組みを活発化させている。ユーザーが在宅時は、携帯電話機搭載の無線LAN機能を利用して、宅内に設置された無線LAN親機を経由し(フェムトセルが設置されている場合はフェムトセル経由)、そこから自宅のFTTHやADSLなどのインターネット網へ接続する。外出時は、公衆無線LAN事業者が空港・ホテル・カフェなどに設けたアクセスポイントを経由し、そこからインターネット網へ接続する。

 

◆スマートフォン市場の動向変化とプラットフォームの変遷

 2010年は、通信事業者各社でフィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトが鮮明になった。NTTドコモは、「Xperia」(ソニーエリクソン製Android端末)を4月1日に、「GALAXY S」(Samsung電子製Android端末)を10月28日に発売。ソフトバンクモバイルは、6月24日に「iPhone4」を発売。KDDIは、「IS02」(東芝製Windows phone)を6月24日、「IS01」(シャープ製Android端末)を6月30日、「IS03」(シャープ製Android端末)を11月26日、「IS06」(Pantech製Android端末)を 2月23日に発売した。
NTTドコモ、KDDIのスマートフォンは、その多くがAndroidを搭載している。2010年に入り、Android携帯の販売台数は世界的に大幅に増加しており、iPhoneを追撃しつつある。また、AppleのiPhone向けアプリは数十万に上る一方、GoogleもAndroid向けアプリの拡充を急いでおり、スマートフォン向けプラットフォームの覇権競争は一段と激しさを増している。通信事業者が提供するスマートフォン向けポータルサイトとして、NTTドコモが「ドコモマーケット」を4月1日から、KDDIが「au one Market」を6月30日からそれぞれ提供を開始した。
スマートフォンの機能、サービスの拡充も進んでおり、KDDIのIS03では、フィーチャーフォンに搭載されているワンセグやEメール機能に加え、おサイフケータイ機能にも対応している。また、通話やインスタントメッセージ(チャット)が楽しめる「Skype|au」サービスの提供も開始した。
さらに、2010年は、スマートフォンのほか、タブレット端末や電子書籍端末の発売も相次ぎ、多様化が進んでいる。ソフトバンクモバイルは5月28日、「iPad」(Apple製タブレット端末)Wi-FiモデルとWi-Fi+3Gモデルの日本国内販売を開始した。NTTドコモも11月26日、「GALAXY Tab」(Samsung電子製Androidタブレット)を発売した。シャープは12月10日、電子書籍向けのメディアタブレット「GALAPAGOS(ガラパゴス)」を全国23,000余りの店舗のコンビニエンスストアで取次を開始した。KDDIは12月25日、電子ブックリーダー「biblio Leaf SP02」および電子書籍配信サービス「LISMO Book Store」の提供を開始した。

 

◆電子書籍を巡る市場とプレーヤーの動向

 電子書籍をめぐる動きが活発になっており、一部メディアは、2010年を「電子書籍元年」と呼んでいる。
ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社は、7月1日付で共同設立した電子書籍配信事業準備会社を、11月4日付で「ブックリスタ」として事業会社化した。ブックリスタは、コンテンツの収集・電子化や管理、顧客認証や課金システム、プロモーション業務など、コンテンツ販売に関連するサービスのためのオープンなプラットフォームを構築していくとしている。同プラットフォームを利用することで、端末メーカーやストア事業者は、ネットワーク上に各社のストアを設置し、各種端末向けに魅力的なコンテンツを提供することが可能となる。同社は、文芸書、ビジネス書、エッセイなど多様なジャンルを取り扱い、今後、コミック、新聞、雑誌などへ取り扱いを拡大する予定である。
一方、大日本印刷(DNP)とNTTドコモ、DNP子会社のCHIグループは、紙と電子の書籍を販売するハイブリッド型総合書店を運営することを目指して、共同事業会社「トゥ・ディファクト」を12月21日に設立した。この共同事業会社の設立により、スマートフォンやタブレット型端末など多様化する端末で、ユーザーがいつでもどこでも利用できる電子出版市場の発展と、紙の書籍と電子出版コンテンツのハイブリッド型サービスの普及を促進していくとしている。
さらに、ソフトバンクモバイルは、スマートフォン向けアプリケーションとして、書籍、コミック、写真集などを中心に幅広いジャンルの電子書籍が楽しめる「ソフトバンク ブックストア」を提供開始するとしている。
なお、出版社31社が参加する日本電子書籍出版社協会が3月24日に設立され、また、大日本印刷と凸版印刷を中心として、電子出版制作・流通協議会が7月27日に設立された。電子書籍用のファイル・フォーマット規格には、米アマゾンのAZW、欧米共通規格であるEPUB、シャープが採用するXMDFなどがあり、電子書籍の普及には日本語対応も含めた規格の統一も鍵となっている。

 

◆SIMロック解除などの事業者間接続に関する動向

 現在、日本においては、電気通信事業者が販売する携帯電話端末の多くには、SIM(Subscriber Identity Module)ロックと呼ばれる設定がされ、当該端末を販売する事業者以外の事業者のSIMカードを差し込んで使用することはできない。
総務省は、携帯電話端末のSIMロックの在り方に関して、2010年4月に携帯電話事業者などからのヒアリングを実施。ヒアリングや意見募集の結果を踏まえ、総務省は「SIMロック解除に関するガイドライン」を策定し、6月30日に公表した。同ガイドラインでは、事業者はその主体的な取り組みにより、対応可能な端末からSIMロック解除を実施することが求められている。
NTTドコモは、同ガイドラインの策定を受けて、2011年4月1日以降に発売する端末にはSIMロック解除の機能を搭載すると表明している。一方、iPhoneを販売しているソフトバンクモバイルは、SIMロック解除には慎重な姿勢をとっている。
なお、現状においては、SIMロックが解除された場合、端末に他の事業者のSIMカードが差し込まれたとしても、通信方式、周波数、プラットフォームの仕様などが事業者によって異なるため、通信サービス、アプリケーションなどの利用の全部または一部が制限されることが起こり得る。

 

◆近距離通信の広がり

 最近国内外で、FeliCaの通信方式と互換性があるISO(国際標準化機構)国際標準規格である近距離無線通信NFC(Near Field Communication)が注目を集めている。
携帯電話にFeliCaが搭載されたのは2004年7月、NTTドコモが最初で、2005年8月にはKDDI、2005年9月にはボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)の携帯電話に搭載され、「おサイフケータイ」が利用できるようになった。しかし、日本で発行されている公的カード(運転免許証、パスポートなど)に搭載が始まっている非接触ICカードはFeliCaの通信方式と異なるため、おサイフケータイをそのまま利用することは難しいことから、両方式に対応するNFC携帯電話が注目されている。
このような動きを受けて、KDDI、ソフトバンクモバイル、韓国最大の携帯電話会社であるSK Telecomは、NFCを活用し、日韓両国で、携帯電話をかざすことによる決済やクーポンなどのサービスと、それらを実現する設備の相互利用の可能性を検討する覚書を2010年7月7日に締結した。
他方、NTTドコモは、ポスターなどに貼り付けたICタグにおサイフケータイをかざして情報を読み取ることができるアプリケーション「iCタグリーダー」を開発したと2010年11月10日に発表した。NTTドコモはソニーなどとともに、NFC技術の標準化団体であるNFC Forumのスポンサーメンバーになっている。
なお、Googleが、2010年12月6日発表したAndroid 2.3(Gingerbread)はNFCをサポートしており、モバイル決済などの新機能を備えている。