3.固定通信事業の動向

◆高速無線LAN規格などの承認、動向

 米国電気電子学会(IEEE)は、2009年に仕様を策定した高速無線LAN規格「IEEE 802.11n」に引き続き、「IEEE 802 11vht(very high throughput)」の仕様策定を進めている。
現在利用されている802.11nは、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)アンテナ技術および複数のチャネルを結合するチャネルボンディングにより、それ以前の規格に比べて伝送速度が格段に速い最大通信速度600Mbpsを実現した。これにより、無線LANは、家庭でのインターネット接続に利用されるだけでなく、企業においても有線LANに代わり導入され始めている。
今後、802.11vhtの標準規格が策定されると、1Gbps以上の最大通信速度が可能となり、通信速度で有線LANと遜色無いレベルとなる。このため、無線LANの企業ユースがさらに進むほか、従来の枠組みにとらわれない多様なサービスへの利用が期待されている。

 

◆クラウドの新たな動向

 クラウドサービスを導入する企業ユーザーの拡大に伴って、サービスのユーザビリティや相互接続性の問題がクローズアップされている。
多くのクラウドサービスベンダーは、他社と互換性のない独自のPaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastracture as a Service)を提供しているため、ベンダーロックイン(囲い込み)が起きやすい。一方で、ユーザーにおいては、複数のクラウドサービス間、クラウドサービスとオンプレミス(自社運用型)システム間の可搬性を確保したいという意向から、ベンダーロックインを回避したいというニーズが高まっている。
そこで、クラウドの技術仕様や相互運用性、セキュリティの標準化に向けた動きが活発化している。その代表的な動きが、2009年3月に、IBM、Cisco、VMWareなどの大手ベンダーが発表した「オープン・クラウド・マニフェスト」である。この中では、「クラウドの実装作業においてはオープン・スタンダードに従うこと」、「標準規格が存在する場合はそれを利用・適用すること」、「市場での地位を利用して特定のプラットフォームに囲い込まないこと」など、クラウドベンダーが順守すべき6項目の原則を掲げている。
2010年9月時点で370社を超える多くの企業・組織が賛同を表明している一方で、アマゾン、Google、マイクロソフトといったキープレイヤーが参加しておらず、業界の足並みは必ずしも揃っていない。
日本国内においても、政府系クラウドサービスの構築、各種規格の策定・標準化に取り組む「オープンガバメントクラウド・コンソーシアム」、クラウドの普及発展を産学官で連携して推進する「ジャパン・クラウド・コンソーシアム」(2010年12月22日設立)などが立ち上がっている。

 

◆IPv6の動向

 2010年12月14日、APNIC(Asia Pacific Network Information Center)は、2011年第4四半期にもIPアドレス(IPv4)が枯渇すると声明を出した。インターネットは、1990年代前半に商用サービスが始まったが、2000年以降、急速なブロードバンドサービスの普及により、232=約43億個のアドレス空間を使い切る事態となっている。
これを受け、ISP各社では、IPv6インターネット接続サービスに向けて準備を進めている。NECビッグローブやニフティ、ソネットエンタテインメントなどでは、各社とも、2011年4月以降、NTT東・西の「フレッツ光ネクスト」回線、KDDIの提供する「auひかりホーム」回線を対象にしたIPv6接続サービスの提供を予定している。なお、IPv6では、2128=約3.4×1038個あり、アドレス数は事実上無限といわれている。
また、KDDI、日本インターネットエクスチェンジ、NECビッグローブ、ニフティ、朝日ネット、ヴェクタント(グローバルアクセスと合併し、現在は丸紅アクセスソリューションズ)の6社は、新会社「日本ネットワークイネイブラー」(JPNE)を2010年8月30日に設立し、ISPがIPv6サービスを提供するためのVNE(バーチャル・ネットワーク・イネイブラー)事業を開始すると発表した。これにより、現在、IPv4サービスを提供しているISP事業者は、自社で設備を構築しなくても、VNEサービス(IPv6ローミングサービス)を利用することにより、エンドユーザーに対してIPv6サービスを提供することができるようになる。

 

◆通信と放送との融合の動向

 通信と放送の融合は、インターネットや光ファイバー通信の普及などによる通信ネットワークのデジタル化・ブロードバンド化や放送インフラのデジタル化に伴い、通信と放送を連携させたサービスが創出されたり、通信業界と放送業界の相互参入が進展したりする現象を指す。
サービス・伝送路・端末・事業体、それぞれで融合が進展しており、サービスではインターネット上でテレビ番組やラジオ番組を流すインターネット放送やデータ放送、伝送路では通信衛星を利用した放送やCATV網を利用した固定電話サービスやインターネット接続サービスなどの通信サービスが挙げられる。2010年3月からは、在京ラジオ7局、在阪ラジオ6局が、地上波ラジオ放送をそのままインターネット上で配信するIPサイマルラジオ「radiko」の試験放送を行い、2010年12月に電通を加えた計14社で「株式会社radiko」を設立し、本格運用を開始している。
端末では、2010年10月に発売された「GoogleTV」など、インターネット接続を通じてインターネット上で提供されている動画配信サービス「YouTube」などのユーザー投稿型の映像・ネットコンテンツやTwitterなどのソーシャルメディア・WEBアプリの利用が可能なテレビ受信機(インターネットテレビ)も登場し、視聴環境が多様化してきている。
事業体の観点では、CATV事業者が放送サービスに加えて固定電話サービスやインターネット接続サービスを、通信事業者がFTTHにより固定電話・インターネット接続に加えて映像サービスを提供するトリプルプレイサービスを契機に、日本においては放送事業者と通信事業者の事業体間の連携や融合も生じている。
2005年9月には、KDDIがCATV事業者向けに「ケーブルプラス電話」を、2007年2月には、ソフトバンクテレコムが「ケーブルライン」サービスを提供し、CATV事業者が電話サービスをすぐに開始できるよう、設備・課金システムなどを提供している。NTT東・西は、2008年7月にスカイパーフェクト・コミュニケーションズとその子会社であるオプティキャストと運営会社を設立し、フレッツ光を利用した多チャンネル放送「光パーフェクTV!」を開始。2008年10月には、地上デジタル放送、BSデジタル放送も視聴可能な「フレッツ・テレビ」を開始した。
KDDIは、2006年2月にCATV事業者であるJCN、2010年1月には、ジュピターテレコム(JCOM)の株式を取得し、CATV事業者との連携を図っている。トリプルプレイに加えて携帯電話サービス分野での協力、番組コンテンツの共同製作や共用などに取り組んでいる。

◆クラウドの広がり

 クラウドサービスは、世界的な広がりを見せており、2010年度の市場規模は前年比16.8%増の683億ドルに達する見込みである(米ガートナー調べ)。特に、米国が世界市場の60%を占めており、市場をけん引している。
日本国内においても、「拡張性」「可用性」「俊敏性」「経済性」といったクラウドサービスの持つメリットが認識され始め、導入事例が広がりつつある。欧米では、不特定多数のユーザーを対象にしたパブリッククラウドが主流となっているが、日本では、企業が「安全性」「信頼性」を重視する傾向が強いため、大企業を中心にプライベートクラウド(特定企業向けの占有型サービス)の導入が進みつつある。特に、ソリューションベンダーの積極的な提案により、大企業のオンプレミス(自社運用型)システムをプライベートクラウドで再構築する動きが活発化している。
一方、パブリッククラウド市場においては、SaaSの占める割合が高く、今後もパッケージソフトの代替やCRM/SFA、グループウェア、メールなどの情報系システム用途として導入が見込まれる。PaaS、IaaSは、ITリテラシーが高く、バースト通信(突発的に大容量化する通信)対応の必要な業種、即時性・柔軟性が求められる用途において利用が拡大していくものと見込まれる。