4.海外の動向

◆FCCの全米ブロードバンド計画

 米オバマ政権は、情報通信分野の最優先課題としてブロードバンドの普及促進を掲げている。
2009年2月の米国復興・再投資法(通称「景気対策法」)では、総額約7900億ドルの予算のうち、ルーラル地域のブロードバンド整備のために約72億ドルを割り当てるとともに、米連邦通信委員会(FCC)に対し、今後数年間のブロードバンド政策の指針となる「全米ブロードバンド計画(National BroadbandPlan:NBP)」の策定を義務付けた。その後 年間、FCCは、このタスクを最優先課題として取り組み、2010年3月、360ページに及ぶ計画書を発表した。NBPの中でFCCは、2020年までの目標として、全米 億世帯に対して100Mbpsのブロードバンドサービスを手頃な料金で提供すること、学校、病院、政府庁舎などの主要公共施設において、1Gbpsのブロードバンドサービスを提供することなどを掲げるとともに、ネットワーク、端末機器、コンテンツ、アプリケーションなどをすべて含めた「ブロードバンドエコシステム」を健全に保つため、FCC、議会、政府などが取るべきアクションについて、200件以上の勧告を行った。さらに、ブロードバンドをあらゆる産業分野の基盤と位置づけ、医療、教育、エネルギーなど他分野におけるICT利活用策も提示している。
NBP勧告の主要な柱として、連邦ユニバーサルサービス制度改革、無線ブロードバンド向けの周波数追加割当が挙げられる。目下FCCは、勧告に基づき、ブロードバンド向けユニバーサルサービス基金の創設、放送周波数の無線ブロードバンドへの転用などの課題に取り組んでいるが、制度の複雑さ、関係者の利害調整の難しさなどの理由から、その進捗は遅れ気味であり、NPB勧告の実現までには相当の時間を要すると見られる。

 

◆FCCによるネットワーク中立性のルール化

 米連邦通信委員会(FCC)は、2010年12月21日、ネットワーク中立性に関する規則を採択した。
ブロードバンド事業者に対して、コンテンツやアプリケーション、端末によって利用者を不当に差別することを禁じる一方、合理的な理由によるネットワーク管理を認める内容となっている。
FCCは、オープンインターネットの保護を目的に掲げ、2009年10月から既存のネットワーク中立性の原則(*)を正式な規則とすることを提案し、関係者からの意見募集を実施した。当初案は、有線、無線を問わず、すべてのブロードバンドプラットフォームを一律に規制するものであったが、最終的に採択された規則は、モバイルブロードバンドが発展途上にあることを考慮し、固定ブロードバンドと区別して扱うこととされている。
規則の主なポイントは以下のとおり。

 ■ 固定およびモバイルブロードバンド事業者は、ユーザーやアプリケーションなどの開発者に対し、サービス提供条件、サービスのパフォーマンス、ネットワーク管理慣習などについて情報を開示すること。

 ■ 固定ブロードバンド事業者は、合理的なネットワーク管理のために必要な場合を除き、合法的なコンテンツ、アプリケーション、サービス、ネットワークに害を与えない端末をブロックしてはならない。

 ■ 固定ブロードバンド事業者は、合法的なインターネットトラフィックの伝送に関して不合理な差別を行ってはならない。ただし、合理的なネットワーク管理は、不合理な差別にはあたらない。

 ■ モバイルブロードバンド事業者は、合理的なネットワーク管理のために必要な場合を除き、合法的なウェブサイトへのアクセスをブロックしてはならず、また、自社の音声および映像サービスなどと競合するアプリケーションをブロックしてはならない。

 就任前からネットワーク中立性を支持してきたオバマ大統領は、「インターネットの自由とオープン性を維持する一方で、技術革新を促進し、消費者の選択肢や言論の自由を保護するもの」とFCCのアクションを評価する声明を発表している。

(*) 2005年8月にFCCが採択した「インターネット政策宣言」。正式な規則ではない。

 

◆EUの超高速インターネットアクセス実現施策

 2010年5月、欧州委員会は今後10年間のICT政策「欧州デジタルアジェンダ(Digital Agenda for Europe)」を発表し、同年5月31日、EU閣僚理事会が承認した。
同年9月、欧州委員会は「欧州デジタルアジェンダ」で確認されたブロードバンド整備の数値目標(2015年までにブロードバンド、2020年までに高速および超高速ブロードバンドへ加盟国の市民がアクセス)を実現するために、以下の3つの施策を採択した。

① NGA勧告
次世代アクセス(NGA)に関する競争確保と投資促進を目的とした勧告。NGAに関連する設備の開放義務を検討する上で、「NGAの機能や提供区間(線路敷設基盤やFTTH、ビル内配線、卸ビットストリームサービスなど)」と、「市場支配力(SMP)を判断するために画定する市場」との関係を明確化。

② 無線周波数政策プログラム決定案
無線ブロードバンドを含んだ5年間の周波数割当プログラム。主な割当周波数帯は以下のとおり。
・2012年まで
900/1800MHz帯、2.6GHz帯、3.4-3.8GHz帯
・ 2013年 月(特例的に2015年までの延長可)まで
800MHz帯

③ ブロードバンドに関するコミュニケーション(政策文書)
公的資金(EU、国、地方自治体)を活用することも含めて、加盟各国にブロードバンドの整備・普及について具体的な整備計画を求めるもの。

 

◆EUの消費者保護政策行動ターゲティング広告のプライバシー問題

 消費者の行動履歴(ライフログ)を利用した行動ターゲティング広告(Behavioral Targeting Advertising:BTA)のプライバシー問題への対応が各国で課題となっている。

 EUでは、EU全体のプライバシー保護水準を定めた1995年のデータ保護指令においては関連する規定は置かれておらず、2002年の電子プライバシー保護指令において消費者がBTAから離脱可能とすること(オプトアウト)を義務付け、2009年の同指令改正では事前の許諾を取得すること(オプトイン)を求めた。さらに2010年には欧州委員会が、消費者の求めに応じてインターネット上のサービスから、当人に関連する情報を完全に消去する権利を与える形での指令改正の方向性を示すなど、BTAに対する規制強化が進められている。
包括的な個人情報保護法制を持たない米国では、BTAを含むプライバシー問題全般に関して、連邦取引委員会(FTC)が業界全体を監視し、関連業界団体の自主規制基準策定を後押しする対応を進めてきた。しかし、近年では消費者団体や政府からのプライバシー保護強化への要請が高まっており、2010年には2つの規制強化法案が下院で提出されるほか(未可決)、商務省としてもFTCのほかに新たな専門部局を創設するなどの方向性を示している。
BTAを含むライフログ技術は、今後の活用・発展が強く期待される分野であり、適切なプライバシー保護と継続的な技術革新を両立するための施策が求められるところである。

 

◆SNS上の青少年保護

 インターネット上の有害情報からの青少年保護の問題について、近年、欧米ではモバイル・固定を問わず、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)への対策が課題となっている。
EUでは、1999年に開始されたSafer Internet Programにおいて、EUレベルでの消費者意識啓発や民間による自主規制の促進などを行ってきた。同年の違法コンテンツ通報を受け付けるホットラインの国際的ネットワークであるINHOPEの設立や、2007年には携帯電話事業者団体GSMA Europeと共同で、EUにおけるフィルタリング方針を策定するほか、2008年にはEU内で活動する大手SNS事業者と共同で「欧州SNS原則」を締結するなど、SNSが自主的に満たすべき包括的な安全基準を提示している。
米国では、2006年にSNS上のトラブルが原因で13歳の少女が自殺した事件などを受け、幾度かの規制強化法案も提出されたが可決には至らず、FTCが青少年・親権者向けのガイドラインを提示するなどの対応を進めている。さらに、2008年には、MySpaceおよびFacebookが、米国各州の司法長官との間で「安全なSNSのための共同宣言」を締結するなど、EU同様、SNSの自主規制を促進するための取り組みを行っている。
SNSの問題はプライバシーにも及んでおり、特に、2010年にFacebookが開始したソーシャルグラフを第三者企業に提供するOpen Graphは各国で議論を呼んでおり、青少年保護と合わせた総合的な安全施策が模索されている。

 

◆中国政府の「三網融合政策」推進

 2010年1月13日、温家宝首相主催の国務院常務会議は、通信網、放送網、インターネット(三網)の融合推進を決定した。会議は、①【2010~2012年】通放相互参入トライアルを行い、三網融合の秩序ある展開を保障する政策体系と機構の在り方を検討、②【2013~2015年】トライアルの経験を総括し、三網融合とそのアプリケーション事業を全国普及させるとともに、ふさわしい新型の管理監督体系を創造、の二段階スケジュールを示した。
当決定を受け、2010年7月1日、国務院官房は、第一次三網融合トライアル地区(北京市、大連市、ハルビン市、上海市、南京市、杭州市、アモイ市、青島市、武漢市、湖南省長株潭地区、深圳市、四川省綿陽市の計 2都市)を発表し、国務院三網融合タスク協力チームは「三網融合トライアル地区の課題に関する通知」(2010年7月20日)を発出した。
上海市は2010年11月30日、「5つの率先」(①三網融合基礎設備の能力、②トライアル業務の規模、③事業管理モデル、④アプリケーションサービスのレベル、⑤重点産業の発展)を打ち出し、全国の模範となる意欲を示した。

 

◆中国政府の「光ファイバーブロードバンド網建設に関する意見」通達

 中国政府7部門(工業和信息化部、国家発展和改革委員会、科学技術部、財政部、国土資源部、住房和城郷建設部、国家税務総局)は、2010年4月8日、「光ファイバーブロードバンド網建設に関する意見」(工信聯通〔2010〕105号)を各省、自治区、直轄市等および3大通信事業者に通達した。
同意見は、①光ファイバーブロードバンド網(光BB網)建設の重要性を十分認識し、共同でネットワークの建設発展を推進、②光BB網建設を加速し、基礎情報設備の能力をレベルアップ、③光BB網建設の施策セットを整備し、ネットワーク建設をサポート、④アプリケーションの創造を牽引することで光BB網建設を推進、⑤その他関連する施策セットを完備し、光BB網建設を保障、⑥組織的指導を強化し、各実施項目の達成を確保、の6項で構成されている。
特に、②では、2011年までに光BB網に接続されるポート数を8000万超とし、都市顧客の平均アクセス速度8Mbps以上、農村顧客では同2Mbps以上、商業ビル顧客では基本的に100Mbpsを実現し、3年以内に光BB網建設投資を1500億元超、新規ブロードバンド顧客数を5000万超とする、との具体的目標が示された。

 

◆韓国のスマートフォンショック

 韓国では、2009年11月のiPhone発売を契機に、スマートフォンの普及が急速に進んだ。
KTが提供するiPhoneに対抗して、SK TelecomがGALAXY Sを投入。韓国においては、モバイル分野では音声通信が中心であったが、この動きに伴って、データトラフィックが急増し始めた。そのため、公衆無線LANアクセスポイントの数で優位に立つKTは、さらにアクセスポイントを増設して盛んに宣伝。これに対抗し、SK Telecomも、アクセスポイントを増やすとともに、2010年8月には3Gデータ定額制を導入した。KTとLGU+もこれに追随するなど、事業者間の競争が激化した。
その結果、韓国のスマートフォン利用者は同年月時点で570万人、iPhone発売前に比べて1年で12倍に増加した。これに伴い、スマートフォンやタブレットPCなどが利用可能な電子政府、教育、医療、金融分野などへのICT利活用の動きも活発化した。

 

◆韓国のWiBroの海外展開

 韓国では国内でなかなか普及が進まなかったWiBro(韓国版WiMAX)を、政府主導で海外に展開する動きが活発化した。
2010年6月に、韓国放送通信委員会(KCC)委員長がアフリカのエジプト、南アフリカ共和国、アンゴラの3カ国を訪問し、WiBroをはじめとする韓国標準の技術の売り込みを図った。KTは2009年12月にルワンダにWiBroを導入していたが、さらにスーダン、コンゴ、アルジェリアなどでWiBro網の構築や設計コンサルティング業務などを請け負った。
また、KTは、ロシアやインドへのWiBro展開を見込み、サムスン電子およびインテルと合弁会社を設立した。

◆インドのM&A・事業者再編の動向

 インドは、携帯電話加入者数では中国に次ぐ世界第2位の市場であるが、国営2社を含む15社(2010年末現在)が激しい料金競争を繰り広げており、各社は生き残りをかけて、事業再編の動きを活発化させている。
インドの加入者シェア第1位の携帯電話事業者Bharti Airtelは、クウェートZainからのアフリカ15カ国の携帯電話事業の買収を20 0年6月に完了し、19カ国で加入者数2億780万件(同年12月末時点)を有する携帯電話事業者となった。
また、インドの地場コングロマリットRelianceグループは、これまで兄弟で事業分野を分け、兄のReliance Industries(RIL)が石油精製・石化製品製造を中心とする事業を、弟のReliance Communicationsが通信事業を行い、互いに相手の事業分野には進出せず、競争しないという合意を行っていたが、2010年5月にガス発電事業を除き、この合意を解除し、RILが通信事業に進出、同年6月に終了したブロードバンド無線アクセス用周波数のオークションで、唯一全国免許を取得したInfotelを買収した。

 

◆BlackBerryサービス規制の動き

 中東やアジアの一部で、安全保障上の懸念を理由に、情報・治安当局による傍受・監視が困難なBlackBerryサービスを禁止する動きが出ている。BlackBerryは、カナダのResearch In Motion社(RIM)が開発したスマートフォンで、ビジネスマンを中心に全世界で5500万人の利用がされている。
アラブ首長国連邦(UAE)は、2010年8月1日、BlackBerryサービスが同国の通信規則に合致しておらず、安全保障上などの懸念を引き起こすとして、BlackBerryによるインスタントメッセージング、電子メールおよびWEBブラウジングを同年10月11日から禁止すると発表し、直前の10月8日になって、同サービスがUAEの要求を満たしたとして、サービス継続が認められた。
サウジアラビアは、UAEと同様の理由により、2010年8月6日から同サービスの禁止を決定したが、その後、RIMとの協議に進展があったとして、同月10日、サービスの継続を認めた。インド政府も、2010年8月12日、BlackBerryのメッセージングサービス(Blackberry Enterprise ServiceおよびBlackberry Messenger Service)への治安当局による傍受を、同月末までに可能とするよう命令した(その後10月末まで期限を延長)。10月29日、RIM側が暫定的な対応策を策定し、2011年1月31日までには最終的な解決策をRIM側が提示することを保証したとして、同サービスの継続が認められた。しかしながら、インド政府は、12月3日に、音声、SMSおよび電子メールの傍受は可能となっているが、メッセージングサービスについては、いまだ傍受が不可能であるとする声明を発表し、RIMへの圧力を強めている。

 

◆データ津波

 2007年のiPhone登場を契機に、世界各国ではスマートフォンの普及が急激に進んでおり、これに伴って、モバイルデータトラフィックが爆発的に増大している。
米国内のモバイルデータトラフィックは過去3年間で30倍に増加し、特にiPhoneを独占提供していたAT&Tでは50倍にもなり、「Data Tsunami(データ津波)」と呼ばれる状況になっている。米国のほかにも、英O2では2009年モバイルデータトラフィックが前年比18倍に、スウェーデンTeliaSoneraでは2008年トラフィックが前年比5倍に、豪Telstraでは8カ月ごとにモバイルデータトラフィックが倍増しており、モバイルデータトラフィックの激増は世界中で進行している。
世界のモバイルキャリアは、この対策として、Wi-Fiなどを用いたデータオフロードや周波数効率の良いLTEの導入を進めている。併せて、データ定額制を廃止して従量制料金の導入、ヘビーユーザーの利用を制限する帯域制限などを進めている。

 

◆WAC(Wholesale Applications Community)

 2010年2月15日、携帯電話事業者の事業者団体GSMA(GSM Association)と世界の主要なモバイル通信事業者および携帯電話端末メーカーは、世界規模での共通アプリ配信基盤構築を目的としたコミュニティとして、WAC(Wholesale Applications Community)を設立した。
発足当初のメンバーは、米Verizon Wireless、米AT&T、独Deutsche Telekom、英Vodafone、西Telefonica、NTTドコモ、ソフトバンクテレコムなどの24のモバイルキャリア、および携帯電話端末メーカー3社(韓国LG、韓国Samsung、英Sony Ericsson)である。KDDIも同年10月にWACへ加入しており、同年 月時点での加入メンバーは57社となっている。WACは、同年10月に携帯電話端末向けの仕様WAC1.0をリリース。WACに準拠した最初の携帯電話端末のリリースは、2011年5月頃になる見込みである。