1.電気通信事業の規制動向

◆周波数オークション

 周波数オークションとは、特定の周波数の利用免許を割り当てる際に、オークション(競争入札)の結果に基づき免許人を決定する方法のことで、海外では多くの国々で実施されている。
 日本では、これまで比較審査方式により周波数の割り当てが行われてきたが、総務省は、2010年12月に策定した「『光の道』構想に関する基本方針」の中で、周波数オークションの導入についても検討の場を設けて議論を進めることとした。これを踏まえ、2011年3月2日、「周波数オークションに関する懇談会」(座長:三友 仁志  早稲田大学国際学術院アジア太平洋研究科教授)が発足し、同年3月から12月の間に合計15回の会合が開催された。懇談会では、わが国での周波数オークション導入に向けたさまざまな課題について検討が行われるとともに、事業者・有識者からのヒアリングや意見募集も実施され、同年12月20日に「周波数オークションに関する懇談会 報告書」が公表された。
 報告書では、オークションの対象について、当面は電気通信事業用の移動通信システムを対象とすることが適当としながらも、放送など移動通信システム以外のシステムについても、将来的にオークションの対象とすることの可能性を検討することが望ましいと付け加えている。また、導入時期については、2015年に実用化が想定される第4世代移動通信システムに用いる周波(3.4GHz~3.6GHz)の割り当て時からオークションを実施することを念頭に、必要な法律案を速やかに国会に提出するとともに、オークション実施のための体制整備等を図っていくべきとした。
 オークションの導入時期を巡っては、政府の行政刷新会議が2011年11月21日に開催した「提言型政策仕分け」において、「3.9世代携帯電話システム用周波数(700/900MHz)の割り当て時からオークションを実施すべき」との提言が行われた。その後、川端 達夫 総務大臣が衆参両院の総務委員会において、急増するトラフィックに対応するための周波数割り当てが急務であるとして、700/900MHz帯の割り当てについて、総務省は規定の方針どおり手続きを進めるとの考えを示し、オークションの早期導入は見送られることとなった。
 2012年3月9日、政府は、周波数オークション制度の導入を盛り込んだ電波法改正案を閣議決定した。同法案は同日、国会(第180回通常国会)に提出された。

 

◆ブロードバンド普及促進のための競争政策

 総務省は、2010年12月に、2015年頃を目途とした全世帯でのブロードバンド普及の目標を実現するための「基本方針」等を策定している。その後、NTT東・西の利用部門(小売り部門)と設備部門(アクセス網などの保有部門)の社内分離(機能分離)等に関する改正電気通信事業法と、NTT東・西による県間サービス(活用業務)を認可制から届出制にすることを盛り込んだNTT法の改正が、2011年5月に成立し、同年11月に施行された。
 電気通信事業法の改正など既に取り組んでいる施策もあるが、ブロードバンド普及促進を図る観点からは、事業者間競争の活性化に必要な取り組みを総合的に推進することが重要である。このため、情報通信審議会ではIP、モバイル、ブロードバンド化の進展という環境変化も踏まえ、2011年12月に、「ブロードバンド普及促進のための環境整備の在り方」について答申した。その中で、公正競争環境の検証制度や次世代網(NGN)のオープン化などについても方向性が示されている。

(1)公正競争環境の検証制度
 現在は、電気通信サービスをモニタリングし、競争が適切に働いているか分析・評価し、政策に反映するための「競争評価」と、指定電気通信設備制度の範囲やNTT等に係る公正競争要件の有効性について定期的に検証するための「競争セーフガード制度」があり、双方が連携を図ることで公正競争環境を整備している。
 答申では、現行の検証の枠組み、検証項目については今後も引き続き必要であるとの考えが示されているが、「基本方針」が、規制の遵守状況のみならず、料金の低廉化や市場シェアなどの動向、「光の道」構想に関する取り組み状況などの検証を掲げていることを踏まえ、「競争セーフガード制度」に代わる新たな仕組みとして「ブロードバンド普及促進のための公正競争レビュー制度」(以下「公正競争レビュー制度」という)の創設が望ましいとされた。「公正競争レビュー制度」では、従来の検証 項目に加え、次の2つの柱を設けることが必要であるとの考えが示された。

1)ブロードバンド普及促進に向けた取り組み状況の検証
 ブロードバンドに係る「基盤整備率」と「基盤利用率」を定点観測しつつ、料金や市場シェアの推移状況などを評価する。料金については、利用者料金に加えて接続料も補完的なデータとして活用し、市場シェアについては、契約数ベースのシェアと回線数ベースのシェアの推移状況を観測すべき。また、実効速度などの利用条件を含む利用環境についても併せて評価することが望ましい。

2)規制の遵守状況の検証
 2011年5月の電気通信事業法およびNTT法の改正により、NTT東・西の機能分離や業務委託先子会社等の適切な監督に係る規定の導入、NTT東・西の活用業務に係る手続きの認可制から届出制への変更が行われており、これらの運用状況についても、公正競争要件の新たな検証の対象とされた。
 実施時期については、2012年度から2014年度までの3年間とし、運用状況や検証結果を踏まえ、2014年度の検証に併せて包括的な検証を実施することとされた。

 なお、NTTグループを巡る公正競争問題として、2012年に入り、以下のような動きがある。
 NTTグループは7月からNTTファイナンスを通じて、NTT東・西、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズの4社の料金請求を一本化することとしているが、本施策に対して、KDDIやソフトバンクテレコムなど7社・団体が、電気通信事業法第172条に基づいて意見申出を行っている。この申出は、NTTグループの施策に対して、法令に違反していないかなど、早々の調査と本施策の実施延期や見直しを含む指導の検討や、オープンな場で今後の公正 競争確保の観点から十分な調査審議を行い、必要な措置を取ることを求めたものである。このオープンな場の例として、本答申を行った情報通信審議会下の「ブロードバンド普及促進のための競争政策委員会」を挙げている。

(2)NGNのオープン化
 2008年3月にNTT東・西が商用サービスを開始した次世代網(NGN)は、当初より、第一種指定電気通信設備に指定され、IP電話サービスに係る機能など、具体的な提供形態やニーズが把握しやすい既存機能についてアンバンドルが行われた。その後、3年が経過し、NGNは光提供エリア全域をカバーし、「発展期」に移行していると考えられるが、新たな機能のアンバンドルは行われていない。
 機能のオープン化にあたっては、1「具体的な要望があること」、2「技術的に可能であること」という考え方に基づき、3「過度な経済的負担がないことに留意」しつつ情報通信審議会が判断しているが、これらに照らしてアンバンドルするとの判断に至らなかった事例が複数存在している。

 答申では、創意工夫で新たなサービスを生み出すことが期待されているNGNの特性や、既存電話網(PSTN)からIP網への移行動向も踏まえ、NGNにおける公正競争環境を整備し、ブロードバンドの普及促進を図る観点から、今後必要となる機能の取り扱いに関し、3つの考え方について、 NGNの段階的発展に対応した適切な整理を行うことが必要とされた。

(3)移動体通信市場の活性化

1)第二種指定電気通信設備制度の見直し
 一定以上のシェアを有する電気通信事業者が相互接続交渉上の優位性を背景に、不当な差別的取り扱いや協議の長期化等を引き起こすおそれがあることに鑑み、公正競争の促進や利用者利便の増進を図る観点から、非対象規制としての指定電気通信設備制度が設けられている。移動体通信事業者については、携帯電話などの端末シェアが25%を超える場合に、当該端末設備と接続される伝送路設備等を第二種指定電気通信設備(以下「二種 指定設備」という)として指定し、同設備を設置する移動体通信事業者(以下「二種指定事業者」という)に対し、接続約款の作成・公表・届出などの規律を課している。
 情報通信審議会における検討では、モバイル市場の環境について、制度創設時と比べ、上位3社 (NTTドコモ、KDDIグループ、ソフトバンクモバイル)の接続交渉上の優劣の差は縮小、第4位の事業者とは大きな開きがあると分析。これを踏まえ、 非対称規制の枠組みを維持しつつ、必要な見直しを行うことが必要との考え方から、「二種指定設備 制度に係る規制の適用対象を見直し、拡大することが適当」と答申した。
 これを受け、2012年2月21日から意見募集が行われた電気通信事業法施行規則の一部を改正する 省令案では、二種指定設備の指定の新たな基準について、従来の25%超から10%超に変更する内容となっている。この基準は、上位3社事業者を指定しつつ、新規参入の機会も考慮したものである。意見募集は3月22日まで行われ、5月29日、二種指 定事業者の指定基準を端末シェア25%から10%に変更する電気通信事業法施行規則の一部改正を発表した。この基準によりソフトバンクモバイルも新たに二種指定事業者となる。

2)MVNO事業化ガイドラインの見直し
 仮想移動体通信事業者(MVNO)の参入促進に関しては、総務省が2002年5月に「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」(以下「MVNO事業化ガイドライン」という)を策定し、これまでも2007年、2008年に改定され、2007年の改定では、MVNOは「卸電気通信役務」と「接続」の形態の双方でネットワークの提供を受けることが可能であることが明確化された。「卸電気通信役務」の場合、比較的自由な形態でネットワークの接続が可能であるが、設備ベースの移動体通信事業者(MNO)等には応諾義務がないため、ネットワークの提供を受けられないケースも想定される。
 一方、「接続」でネットワークの提供を受ける場合、MNO等には応諾義務があり、電気通信事業法に規定する限定的な事由に該当しない限り、接続請求に応諾する義務が課されている。しかしながら、厳格な接続義務があるため、「MVNOの参入促進によるモバイル市場の発展」という趣旨にそぐわない態様での接続請求が行われるおそれが指摘されている。このような状況を踏まえ、これまでの累次の解釈を整理し、MVNO事業化ガイドライン等において接続拒否事由の明確化を図ることが求められている。

(4)光ファイバの利用促進
 情報通信行政・郵政行政審議会(審議会)は、「加入光ファイバ接続料の算定に関する検討」について答申した(平成24年3月29日)。これは「東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の第一種指定電気通信設備に関する接続約款の変更の認可(平成23年度以降の加入光ファイバに係る接続料の改定)」に関する答申(平成23年3月29日) において、分岐単位接続料の設定の適否について、引き続き検討を行うとされたことを受けたものである。
 審議会では、1芯の加入光ファイバを複数のユーザに分岐して利用する方式(シェアドアクセス方式)において接続料を分岐単位で設定するにあたり、光信号伝送装置(OSU)を複数事業者で共用することを検討したが、各事業者において実現方式に関する認識が異なることから、費用・期間等の見解の隔たりが大きく、また、「サービス競争」の基本イメージも事業者ごとに異なる等、意見が収斂しなかった。
 議論の過程では、同時に「技術的な部分でNTTに何かを押しつけるというよりは、別の解があるのではないか」、「参入を容易にするような料金体系を考えるということも含めて、技術面以外の解決策を考える方が、これまでのような議論をこのまま進めるよりは良いのではないか」という意見が示され、他の手段でFTTH市場における競争の一層の促進やブロードバンドの普及促進を図るべく議論が行われた。
 その結果、1つの局外スプリッタ(1芯光ファイバ)がカバーする区画を拡大することにより、収容率の向上を目指す「光配線区画の拡大」がNTT東・西に求められることとなった。
 光配線区画の問題についてはNTT東・西からも概ね前向きに検討する意向が示されており、今後、接続事業者は、新たに設定した接続事業者向けの光配線区画とNTT東・西が自ら利用する光配線区画について効率化の観点から見直しを行った既存の光配線区画のいずれも選択できるようになる見 込みである。
 なお、NTT東・西からは光配線区画の見直しまでには、事業者間協議およびトライアル等のプロセスを踏む必要があり、少なくとも2~3年を要するとの見通しも示されている。この点については、十分な光配線区画の拡大策が講じられるまでの間における暫定的な措置として、FTTH市場への参入の弾力化の観点からシェアドアクセス1年目の接続料を一定程度差し引き、最低利用期間(3年を想定)を設けた上で、差し引き分を後年の接続料に上乗 せして回収する「エントリーメニュー」の創設が求められた。

◆大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方

 2011年3月11日の東日本大震災では、大規模な地震とともに太平洋沿岸を中心に津波が発生し、東日本全域に甚大な被害が及んだ。通信インフラについても、設備の倒壊・流失、ケーブルや管路等の損壊、 携帯電話基地局の倒壊などの大きな被害が発生した。具体的な被害としては、固定通信において約190万回線が被災し、移動通信で約2万9千局の基地局が機 能停止した。基地局の停止は伝送路の被災の影響のほか、電力供給の停止に伴うものも多く存在した。なお、これらのインフラは、一部エリアを除いて4月末までには復旧された。
 また、地震の発生直後から、固定電話、携帯電話の双方で音声通話が急増し輻輳状態となったため、固定電話では最大80%~90%、携帯電話でも最大70%~95%の規制が行われ、電話がつながらないという状況が生じた一方で、メール・インターネットなどのパケット通信は音声通信に比べてつながりやすい状況にあった。また、インターネット通信が確保できた地域については、ソーシャルメディアを利用した情報交換や安否登録サービスなどが利用された。
 こうした状況を受けて、震災からの復旧・復興を図るとともに、今後の大規模災害等に対応できるようにとの趣旨で、総務省において、2011年4月から「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」を開催。その後、本検討会での度重なる議論を経て、12月末に最終とりまとめが公表された。
 具体的には、1緊急時の輻輳状態への対応の在り方、2基地局や中継局が被災した場合等における通 信手段確保の在り方、3今回の震災を踏まえた今後のネットワークインフラの在り方、4今回の震災を踏 まえた今後のインターネット利用の在り方について検討を行い、アクションプランとして、それぞれの検討 と項目について、国・電気通信事業者等の各主体が今後取り組むべき事項を整理した。

◆利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題 (スマートフォンを経由した利用者情報の取り扱い)

 近年、インターネットの利用を前提とした高機能携帯端末であるスマートフォンの普及が進み、インターネットを経由してさまざまなアプリケーション、ソーシャルメディアなどを利用する機会が増加している。
 スマートフォンでは電話やメール、アプリケーションなどの利用履歴、電話帳に記録される連絡先やGPSで取得される位置情報など、利用者に関係する多種類の情報が蓄積される上、常に携帯することから利用者との接触時間が長く、情報量も多くなると考えられている。
 これらの情報は、アプリケーションの機能を介して、アプリケーションの提供者などインターネット上のサービス提供者によって収集・利用されるが、アプリケーションによる本来の利用目的以外にも、収集した 情報が利用されたり、第三者に提供されたりする可能性もある。しかしながら、そのような状況を、利用者が十分認識できていない場合も多いと考えられるため、総務省では「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の下に、「スマートフォンを経由した利用者情報の取り扱いWG」を設置(2012年1月20日)し、スマートフォンにおける利用 者情報が安心・安全な形で活用され、利便性の高い サービス提供につながるよう、諸外国の動向を含む現状と課題を把握し、利用者情報の取り扱いに関して必要な対応等について検討を行っている。
 本WGでは、2012年4月に、スマートフォンの利用者が注意すべき事項について取りまとめた「スマート フォンプライバシーガイド」を発表した。その後も検 討を続け、関係事業者等が取るべき対応として、スマートフォンにおける利用者情報の取り扱いに関する「基本原則」および具体的事項を示した「スマートフォン利用者情報取扱指針」を策定し、利用者に対する情報提供・周知の在り方、国際的連携の推進を含んだ 最終取りまとめを2012年6月に研究会に報告した。