3.海外の動向

◆米国のブロードバンド普及促進政策

 オバマ大統領の就任以来、米国ではブロードバンドの普及促進を情報通信分野の最優先課題として掲げている。2010年3月には、連邦通信委員会(FCC)が米国初の本格的なブロードバンド国家戦略である「全米ブロードバンド計画(National Broadband Plan:NBP)」を発表し、ネットワーク、デバイス、コンテンツ・アプリケーションなどを含めた「ブロードバンドエコシステム」を健全に保つため、FCC、議会、政府などが取るべきアクションについて200件以上の勧告を行った。
 2010年10月、FCCは、NBP勧告に基づいてユニバーサルサービス基金改革を実行し、基金による補助の主要対象を音声からブロードバンドへと段階的に移行させることを決定した。
 改革の主なポイントは次のとおりである。

  • 現行の音声向け高コスト基金に代えて、「コネクトアメリカ基金」と「モビリティ基金」の2つの新基金を設立し、実効速度下り4Mbps/上り1Mbpsのブロードバンドと、3G以上のモバイルブロードバンドを全米で利用できるようにする。
  • 補助の対象地域は、民間ビジネスでは不採算となる地域のみとし、補助を受ける事業者は競争入札により決定する。
  • 消費者および企業によるユニバーサルサービスへの負担を最小限にするため、基金の年間予算を定める。 2017年までは現行の基金と同レベルの年45億ドルを維持する。

 ユニバーサルサービス基金改革と並んで、ブロードバンド普及政策の重要な柱と位置づけられているのが、無線ブロードバンド用周波数割り当てである。米国では現在、ブロードバンド接続の約半数を無線ブロードバンドが占めており、今後も普及のけん引役として期待されている。NBPでは、2020年までに無線ブロードバンド向けに500MHzの追加周波数を割り当てることを勧告、そのうちの120MHzはインセンティブオークション(周波数を返還した免許人にオークション収入の一部を還元)を通じて、放送用周波数から転用することを想定している。
 2012年2月、インセンティブオークションの実施権限をFCCに付与するための法案が連邦議会の上下 両院で可決され、その後、オバマ大統領の署名を経て成立した。法律は整備されたものの、実際にオークションが行われ、通信事業者が周波数を使えるようになるにはまだ数年以上を要する。また、インセンティブオークションへの参加は任意であるため、実際にどの程度の周波数を放送事業者から回収できるかは明らかではない。そのため、Verizon Wireless、AT&Tといった大手通信事業者は、市場取引を通じて周波数を確保することにより、データトラフィック急増によるネットワーク容量の逼迫に対処しようとしている。

◆米国における著作権侵害防止法案(SOPA・PIPA)の動向

 ネット上の著作権侵害への対策は世界各国で多くの提案が出されているが、特に近年、大きな議論を呼んだのが、2011年5月に米国の上院に提出されたPIPA(Protect Intellectual Property Act、PROTECT IP法案)と、同年10月に下院に提出されたSOPA(Stop Online Piracy Act、オンライン海賊行為防止法案)という2つの法案である。詳細な規定は若干異なるが、内容はいずれもほぼ同様である。
 両法案では、著作権侵害を行っている、あるいは助長していると認められるウェブサイトについて、米国司法省や著作権者からの申し立てに基づき、裁判所が当該ウェブサイトの資金源となっている広告サービスやオンライン決済サービスに対し、取引を停止する命令を出すことができると規定されている。さらには、検索エンジンの検索結果からの削除や、ISPが当該ウェブサイトへのアクセスを遮断するための手続きまでもが含まれている。
 これは、米DMCA(デジタルミレニアム著作権法、1998年発効。日本のプロバイダ責任制限法と同様の内容を含む)における、いわゆるノーティス・アンド・テイクダウンの原則、つまり著作権侵害に該当する「特定の」コンテンツについて、権利者からの申し立てがあった場合にウェブサイト側が個別コンテンツの削除 を行うという、広く受容されている従来の著作権侵害 対応プロセスを大きく変更することを意味する。
 両法案は、主にハリウッドや音楽産業といった著作権者団体からの強い要請を受けて提出されたものであったが、インターネット上の活動全般に与える影響の甚大さや、表現の自由への制約の観点から、Wikipediaの抗議自主閉鎖をはじめとする世界中のネット企業や消費者団体等からの強い反対運動を呼び起こすこととなり、その結果として、2012年1月には、議会での立法審議・評決を無期限延期することが発表されている。

◆EU国際ローミング規則改正の提案

 2011年7月6日、欧州委員会は、携帯電話の国際ローミングに対するさらなる競争促進を目的として、国際ローミング規則の改正案を発表した。2007年6月に制定された国際ローミング規則は、国際ローミング料 金の引き下げのため、音声通話の料金に上限を設定し、2009年7月の改正では、従来の音声通話に加え、SMSやデータサービスの料金(データサービスは事 業者間料金のみ)にも上限を設定した。
 欧州委員会では、国際ローミング規則の制定により 料金が値下がりしたことを評価しつつも、国際ローミング市場における競争は十分に進展しないとして、国際ローミング規則を改正することを提案したものである。改正案では、従来規制の対象外であったデータサービスのユーザー料金にも上限を設けるとともに、そのほかの料金の上限額のさらなる引き下げを求めている。また、従来の規則にはなかった「構造的施策(structural measures)」と呼ばれる規制が含まれており、自国内での携帯電話サービスの契約と国際ローミングの契約を分離するとともに、MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)が国際ローミングを容易に展開できるような施策も提案している。
 その後、2012年3月28日、欧州委員会は改正案について、欧州議会およびEU理事会と大筋で合意したと発表した。改正案は、欧州議会およびEU理事会の正式な承認後、2012年7月1日から施行される予定である。

◆EU新データ保護規則の提案

 EUの個人情報保護は、1995年に制定されたデータ保護指令に基づき実施されてきたが、その後、インターネットの劇的な普及や、Google、Facebookなどの出現・成長により、個人情報を取り巻く環境は大きく変化した。このため欧州委員会は、個人情報保護をEU域内で統一的に強化するための法案を2012年1月25日に発表した。
 従来、データ保護指令に基づき各国がそれぞれ規制策を法制化していたため、国により規制が微妙に異なっていたが、今回の提案では、加盟国を直接拘束する「規則」による規制に転換している。
 個人の権利の拡充については、プライバシーを重視した初期設定(privacy-friendly default setting)の推進や「Privacy by Design原則」(手続き・システムの設定にあたり当初からデータ保護策を考慮する)の導入のほか、自らの個人情報の消去を要求する権利(忘れられる権利)や事業者が保有する自らの個人情報をほかの事業者に自由に移行させる権利(ポータビリティ権)を個人に与えることを提案している。
 また、新規則のEU域外への適用を明確化するとともに、違反企業に対して全世界の総売上の最大2%の罰金を科すことも提案している。
 今までの規制内容を保護強化に向けて大きく見直す提案のため、今後、欧州議会やEU理事会において激しい議論になることは確実である。なお、新規則は、法案成立の2年後から施行される。

◆欧州各国で進む4G向け周波数の割り当て

 欧州各国で4G向け周波数の割り当てが活発化している。割り当て対象となっている周波数帯は、800MHz帯(地上デジタル放送への移行に伴う空き周波数。いわゆる「アナログ跡地」)および2.6GHz帯であるが、従来、2G/3Gに割り当てられていた周波数帯(900MHz/1.8GHz帯等)の再割り当ても実施されている。800MHz帯は、特に過疎地におけるモバイルブロードバンド展開への活用が期待されている。
 4G向け周波数の割り当て方法としては、ほとんどのEU加盟国で“オークション方式”が採用されており、スペイン、イタリア、フランスなど、これまで比較審査方式により免許付与が行われてきた国でも、2011年に初めてオークションが実施された。フランスでは、落札者の選定に当たって、入札金額のみならず、MVNOの受け入れや人口カバー率の自主的なコミットメントも評価するなど、比較審査的な要素を加味している。
 EU加盟国のうち、2011年12月時点で、2.6GHz帯のオークションを完了しているのは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、オランダ、デンマーク、ドイツ、オーストリア、スペイン、フランス、イタリア、ベルギー、ポルトガルの各国である。また800MHz帯に関しては、6カ国(ドイツ、スウェーデン、スペイン、フランス、イタリア、ポルトガル)がオークションを実施済みである。英国では、2012年中に800MHz帯および2.6GHz帯のオークションが予定されている。
 一方、アジアにおいても、2011年8月に韓国初の周波数オークションが実施され、既存事業者3社(800MHz帯:KT、1.8GHz帯:SKT、2.1GHz帯:LG U+)が落札した。

◆海外のLTE動向

 2009年12月、スウェーデンのテリア・ソネラの商用LTE(Long Term Evolution)サービス(FDD方式:周波数分割多重方式)開始を皮切りに、2012年1月5日時点で世界29カ国49キャリアが商用LTEサービスを展開している(業界団体GSA:The Global mobile Suppliers Association)。
 FDD方式が多数を占める中、2011年9月にサウジアラビアのモビリーが世界初となるTDD(時分割多重)方式によるLTEサービスを開始。携帯電話加入者数世界一を誇る中国移動も、TDD-LTEサービス開始に向け試験を始めている。
 LTE上で音声サービスを提供するVoice over LTE(VoLTE)の導入に向けても、各社は開発を推進しており、現在、世界一のLTE加入者数を抱える米ベライゾン・ワイヤレスは、2013年に全米規模のVoLTEサービスを開始すると報道されている。しかし、各国キャリアともLTE上でのキラーアプリはまだ見いだせていない状況であり、顧客は動画やウェブ閲覧といった既存サービスをよりスムーズに利用できるという状態にとどまっている。
 なおGSAによれば、2011年10月時点でのLTE商用デバイスの数は197機種(モバイルWi-Fiルーター: 70機種、USBモデム:47機種、スマホ:27機種等)。LTEの利用料金はデータ従量制が主流となっている(一部キャリアは定額制を維持)。LTEはその高速性に加えて、3G比での周波数利用効率の高さから、急増するモバイルデータトラフィックに対する解決策の一つとしても期待されている。

◆米国OTT(Over‐the‐Top)事業者の動向

 ブロードバンドの普及に伴い、消費者が映画やテレビ番組を見る形態も変化を見せている。米国では、従来、地上波(放送電波)・衛星放送・ケーブルテレビ回線により家庭のテレビで見ていた映像を、インターネット経由でPCやタブレットなどに配信するサービスが拡大している。こうしたインターネットで配信する映像や音楽などのサービスはOTT(Over‐the‐Top)、それを提供する事業者はOTT事業者と呼ばれる。
 多くのOTT事業者は、コンテンツや配信ネットワークをメディア企業や通信事業者に依存し、プラットフォームだけを提供する。そのため、メディア産業や通信業界の関係者ではない新興事業者でも参入しやすく、ネットワーク構築などの費用がかからないため低価格でのサービス提供が可能である。
 米国最大手のOTT事業者Netflixは、DVDレンタル事業者として創業した。その後、映像ストリーミング配信サービスを始め、現在の配信サービス加入者は約2200万人と、米国最大のケーブルテレビ事業者Comcastに匹敵する。だが、月額料金はComcastの半分以下の8ドルで、売上は十分の一に過ぎない。一方で、当初は安かったコンテンツ調達コストが年々拡大し、経営を圧迫しつつある。
 他方、映像産業の主流であるメディア企業もOTTへの対策を始めた。各社とも自社コンテンツのインターネット配信を行い、Disney、FOX、NBCはOTTを提供するHuluを共同で設立した。Huluは見逃し番組の視聴により利用者を次回のテレビ視聴へ導くことを狙いとし、広告収入を得ることにより、利用者には無料で提供するビジネスモデルで運営している(一部は有料)。しかし、結果として、親会社のインターネット配信サービスと競合したため、2011年夏にこれらの親会社が売却を検討したが、最終的には条件が折り合わず断念した。
 なお、YouTubeやGoogle、Amazon、Appleなどの プラットフォーム事業をOTTに含める場合もある。

◆インド2G周波数汚職事件

 インドでは、2008年に122件の2G周波数免許が不正な手続きと不当に安い金額で付与されたとして、当時の通信IT大臣A. Raja氏とその側近が2011年2月に逮捕された、それにより、免許を取得した通信事業者やその幹部など多数の関係者が起訴されるに至ったインド史上最大の汚職事件である。
 申請期限が突然前倒しされるなど、特定の申請者に有利になるような不透明な手続き変更が行われたほか、免許取得一時金は2001年の実績に基づき、全国免許の場合で166億ルピー(274億円*)という格安な金額が適用された。会計検査院によれば、これにより政府は1兆7665億ルピー(2兆9147億円)の損失を被ったとされる。
 免許を不正に取得したとされる事業者の中には、それまで通信事業とは無縁の会社や免許基準を満たさない会社も含まれ、中には、後に外国事業者に株式を売却したことから、最初から転売目的であったとの疑いのある会社やRaja氏に贈賄したとされる会社もある。事件の捜査は主として中央捜査局(CBI)が行ったが、議会内にも調査委員会が設置されるなど、複数の機関による調査が行われた。
 2012年2月、最高裁は当該の122件の免許を取り消し処分とする判決を下した。判決を受けて、インド事業からの撤退や別会社設立などの動きが出ている。Raja氏やその他関係者の裁判は、特別CBI裁判所で継続中である。
*換算レート:1ルピー=1.65円(2012年4月2日TTMレート)

◆Appleとメーカーとの特許権侵害訴訟問題

 米Appleは、2010年3月に台湾の携帯電話メーカーであるHTCを、2011年4月には韓国の携帯電話メーカーであるサムスンを、それぞれ特許侵害で提訴した。その後、HTCやサムスンによるAppleへの逆提訴があり、現在も特許侵害にまつわる係争は続いている。実際に、Appleの提訴によって製品が販売停止へ追い込まれた事例もあり、2011年8月には、サムスン のタブレット端末「Galaxy Tab 10.1」が、Appleの提訴によりオーストラリアで販売停止となった。
 Appleが携帯電話メーカーを提訴する背景としては、スマートフォンのOSを巡る覇権争いが挙げられる。英調査会社のガートナーによると、2011年10月~12月の世界におけるスマートフォンOSシェアは、Googleの提供しているAndroidが50.9%と過半数を超える一方、Appleの「iPhone」に搭載されている iOSは23.8%にとどまっている。Appleは、Androidスマートフォンの主要メーカーであるサムスンやHTCを提訴することで、Androidの勢いを抑えようとしているといわれている。
 大きな話題となった、2011年8月のGoogleによるMotorola Mobility買収は、AppleとAndroid陣営の特許紛争において、GoogleがMotorola Mobilityの持つ特許を獲得することで、Android陣営をサポートするためといわれている。