3.海外の動向

◆第二期オバマ政権の情報通信政策

 2012年11月6日の大統領選挙で、民主党オバマ大統領が勝利し、2013年1月20日から政権二期目に突入した。情報通信分野においては、第一期目の優先課題であったブロードバンド普及促進、オープンインターネットの保護に加え、サイバーセキュリティ、オンラインプライバシーを重視した政策が掲げられている。
 2013年2月に行われた一般教書演説で、オバマ大統領は、米国は急激に高まりつつあるサイバー攻撃に 直面しており、国家の安全や経済にとって、真の脅威を黙って見過ごすわけにはいかないと訴え、サイバーセキュリティ強化に向けた取り組みに関する大統領令に署名したことを明らかにした。大統領令では、連邦政府機関に対し、重要なインフラを持つ民間企業との間で、サイバー脅威に関する情報共有を促進するための手段を講じることや、重要なインフラへのサイバーリスクを低減するための基本枠組み、業界ごとの自主的なベストプラクティスを策定することなどが指示されている。
 オンラインプライバシーに関しては、ホワイトハウスが2012年2月に発表した「プライバシー権利章典」に基づき、商務省電気通信情報庁(NTIA)を中心に、政府、産業界、消費者団体等のマルチステークホルダーが参加するプロセスを通じて、業界別の行動規範の策定が進められる見通しである。また、連邦議会において、包括的プライバシー保護法の制定に向けた議論が活発化すると予想される。
 連邦通信委員会(FCC)の2013年の最優先課題は、無線ブロードバンド向け周波数の確保である。FCCは、放送周波数を無線ブロードバンド向けに転用するため、2014年に任意参加のインセンティブオークション(周波数を返還した免許人にオークション収入の一部を還元する方式)を実施することを目指し、ルールの策定を進めている。また、FCCは、Wi-Fiの混雑解消や高速化を図るため、5GHz帯の一部を免許不要帯として、新たに開放する施策を提案し、関係者からの意見募集、同帯域を利用している既存免許人に有害な干渉を与えないための対策の検討などを進めている。

◆ソフトバンクによる米Sprint買収

 2012年10月15日、ソフトバンクは、米国第3位の携帯電話事業者、Sprint Nextel(Sprint)の株式の70%を約201億ドルで買収することに合意したと発表した。買収総額のうち約121億ドルは、Sprintの株主に支払われ、80億ドルは、同社の財務体質の強化等に充てられる。買収完了後の新SprintのCEOには、現Sprint CEOのDan Hesse氏が就任し、新Sprintの取締役10名のうち6名は、ソフトバンク側が占める予定となっている。
 ソフトバンクによる買収合意から約2カ月後の2012年12月17日、Sprintは、米無線ブロードバンド事業者Clearwireの株式の約50%を22億ドルで取得すると発表した。Sprintは、既にClearwireの株式の過半数を保有しており、取引が実現すれば、ClearwireはSprintの100%子会社となる。Sprintは、Clearwireの持つ2.5GHz帯周波数資産を活用し、米無線市場におけるSprintのポジションおよび競争力を強化することを目指したい考えである。
 2013年4月15日、米大手衛星放送事業者のDish Networkは、Sprintに対して買収を提案したが、ソフトバンクは、同社とSprintの取引は、すでに必要な承認を得られる段階にきており、これまでに合意している条件で同年7月1日には完了する見込みと発表している。
 いずれの取引も、米連邦通信委員会(FCC)および司法省(DOJ)反トラスト局による認可、各社株主の承認が必要となる。また、ソフトバンクによる Sprint買収については、国家安全保障の観点から外国投資委員会による審査の対象となっており(注)、 SprintによるClearwireの完全子会社化は、ソフトバンクによるSprintの買収が完了することが前提とされている。
 一方、2012年10月に合併を発表した第4位のT-Mobile USAと第5位のMetroPCSは、2013年3月にFCCの認可を取得し、同年5月に合併を完了した。

(注)米国では、外国企業による米国企業の買収や合併が国家の安全を脅かすと判定された場合、それを停止または禁止する権限が大統領に付与されており、大統領令によってその権限が外国投資委員会に委任されている。この権限に基づき、外国投資委員会は取引を審査し、取引当事者と国家安全保障に関わる契約を締結することがある。

◆海外モバイル事業者による「データシェアプラン」 導入の動き

 モバイルデータ通信の料金プランについて、欧米の一部では、定額制から従量制への移行が数年前から始まっているが(AT&Tは2010年5月にスマートフォン向けに段階従量制料金プランを導入など)、米国や韓国においては、さらに従量制から「データシェア」への移行も始まった。
 データシェアプランとは、1つの契約に複数のデバイスを組み込み、デバイス間でデータ利用容量を分け合うプランのことで、家族間でも、個人が複数のデバイスを使う場合でもデータをシェアできる。
 米国では、2012年6月、加入者数第1位のベライゾン・ワイヤレスが、他通信事業者に先駆けてデータシェアプランを導入。8月には、同第2位のAT&Tも同様のプランを導入した。また、11月には台湾の遠伝電信、12月にはSKテレコム、KT、LG U+の韓国大手3通信事業者、2013年3月にはスウェーデンのTeliaがデータシェアを可能にした。
 データシェアプランを導入する通信事業者の狙いは、市場シェアの確保と売上の増加である。多くの国においてコンシューマー向け無線市場は既に飽和しており、通信事業者はタブレットやデータカード、M2M(machine to machine)機器など、データ通信専用デバイスを自社のセルラー網に積極的に取り込もうとしている。しかし、デバイスごとに利用契約が必要だと利用者の負担が増えるため、データシェアプランでデバイス追加が容易にできるようにした。そして、データ通信専用デバイスの契約数が増えれば、おのずとデータ売上も増加する。
 データシェアプランを導入した通信事業者は、事業の主軸となるサービスを音声通話からデータ通信にシフトしたともいえる。例えば、ベライゾン・ワイヤレスやAT&Tでは、データ通信の利用容量により数種類のプランを設定しているが、音声通話とテキストサービスはどのプランでも利用無制限となっている。
 データシェアプラン導入に対し、米国の消費者からは賛否の声が上がった。複数のデバイスを所有する 場合やデータ通信の利用量が比較的少ない利用者には、従来より料金が安くなると肯定的に受け止められたが、個々のデバイスのデータ利用量管理が難しいことや、音声通話・テキストサービスの利用量が比較 的少ない利用者にとっては料金の値上げになるとの指摘もあった。
 ベライゾン・ワイヤレスは、2013年第1四半期決算発表において、同社小売ポストペイド加入者の30%がデータシェアプランを選択していると発表した。また、AT&Tではポストペイド加入者の14%が同プランを選択している。

◆米国のスマートホームサービス動向

 米国では、2011年頃から、通信事業者が固定ブロードバンドの付加価値向上のために、「スマートホーム」サービスの提供を開始した。
 スマートホームサービスとは、家電製品の遠隔操作、電気・水道等の利用量管理、Webカメラでの室内モニタリング、24時間のホームセキュリティーなどをパッケージとして提供するもので、料金はおよそ月額 30〜40ドル程度。これとは別に200ドル程度の初期費用が必要となる。大手事業者では、ベライゾン・コミュニケーションズ、AT&Tのほか、ケーブルテレビ事業者のコムキャストとタイム・ワーナー・ケーブル(TWC)が提供している。ベライゾンはホームセキュリティーを提供しておらず、料金は月額10ドル。
 ユーザー宅内での機器間の通信は、Wi-Fiやスマートホームサービス向けの無線通信プロトコルで行い、外出先からの操作や管理用アプリへのアクセスなど、宅外との通信はブロードバンド回線を利用する。そのため、多くの事業者は自社固定ブロードバンドサービスへの加入を必須としており、スマートホームサービスは「固定ブロードバンドのオプションサービス」として提供されている。
 米国のケーブルテレビ事業者は、本業である映像サービスの加入者が減少する傾向にあり、昨今はブ ロードバンドサービス加入者の獲得に注力している。ブロードバンドサービスの内容拡充の一環として、スマートホームサービスを積極的に訴求し、コムキャスト、TWCとも、今後の重点サービスの一つに「スマートホーム」を挙げている。
 スマートホームサービスは各社とも自社ブロードバンドネットワークをベースとしており、提供エリアは限定される。また、専用の家電製品が必要であったり、ホームセキュリティーは専門の警備会社に委託せざるを得ないなど、運用には課題も多い。その中で、AT&Tは、自らセキュリティーセンターを運営したり、M2M(machine to machine)機器の国際ローミングソリューションを活用し、海外市場へのサービス拡大も視野に入れるなど、独自の取り組みを進めている。

◆Googleの新プライバシーポリシーを巡るEUとの紛争

 米Googleは、2012年3月1日付で、従来のサービ スごとに定められていたプライバシーポリシーを一本化し、収集した個人情報をサービス横断的に利用可能とすることを骨子としたプライバシーポリシーの改定を実施した。
 この改定に対して、EU各国の個人情報保護当局は、収集された個人情報がどのように利用されるかが不透明であることなど、利用者に対する情報開示が不十分であり、EUのデータ保護指令で定める要件を満たしていないとして、その実施の延期を求めていたが、Googleはこれに従わなかった。
 このためEU各国を代表する形で、フランスの個人情報保護機関であるCNIL(Commission nationale de I’infomatique et des libertés)は、2012年3月および5月に、Googleに対して質問状を送り、どのような個人情報を収集しているのか、個人情報はどのサービスのためにどのように利用されているのか、利用者からの同意をどのように取得しているのか等について詳細な回答を求めた。
 その上で2012年10月、CNILはEU各国の個人情報保護機関の総意として、Googleに対して不必要な個人情報の収集を避けること、個人情報の保存期間に上限を設けること、収集される情報の詳細と目的について利用者に明確に説明することなどを勧告し、4カ月以内の実施を求めた。しかし、Googleがこれに対応しなかったため、2013年2月、EU各国の個人情報保護機関は、Googleに対する調査を継続するとともに、制裁を含む必要な措置を2013年夏までに講ずることで合意した。

◆英国における「4G LTE」周波数オークション

 英国の規制機関であるOfcom(Office of Communications、英国情報通信庁)は、2012年12月、「4G LTE」の周波数オークションを実施した。対象となる周波数帯域は800MHz帯および2.6GHz帯である。
 2013年2月20日、Ofcomは、落札者と落札した帯域を発表した。落札したのは既存事業者4社、新規事業者1社の計5社で、最終的な落札総額は、23億6827万ポンドであった。新規参入を目指したMLLテレコムとHKT UKは、落札を逃した。2013年3月1日、Ofcomは、オークションの周波数最終割り当て結果を発表した(各事業者名と割り当てられた周波数は、表1のとおり)。落札額について、英国予算責任局(OBR:The Office for Budget Responsibility)では、国庫収入として35億ポンドを見込んでいたが、これには届かなった。落札者には既に免許が交付されており、各社は免許条件に従い、取得した周波数上で4Gネットワークの展開が可能となっている。

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◆国際電気通信規則(ITR)の改正

 2012年12月にアラブ首長国連邦・ドバイで開催されたITU(国際電気通信連合)のWCIT(世界国際電気通信会議)において、ITR(国際電気通信規則)の改正文書が採択された。
 ITRとは、1990年に発効した国際電気通信に関する条約で、各国の事業者が提供する国際電話事業の運用や伝送手段の原則、特に事業者間の料金の計算・精算方法に関するルールを規定している。採択当時は国営・独占形態が一般的であった電気通信事業は、その後、自由化・民営化が進むとともに、携帯電話やインターネットが普及する等、環境が大きく変化したため、ITUでは1996年からITRの改正を検討してきた。
 WCITでは、インターネットの管理体制やセキュリティーの扱い等、インターネットに係る問題をITRにどのような形で盛り込むかが最大の焦点となり、最後まで先進国側と途上国側が激しく対立した。
 結局、改正ITRは採択されたものの、WCITに出席した144カ国の内、署名したのは89カ国にとどまり、日本、米国、EU各国を含む多くの先進諸国は、改正ITRがインターネットのコンテンツ規制や検閲、遮断等の規制強化につながりかねないとして署名を見送った。なお、改正ITRに署名しなかった国については、旧ITRが引き続き適用される。