3.海外の動向

◆米国モバイル市場再編の動き

 米国のモバイル市場では、大手事業者を中心とする合併、買収が相次いでいる。2013年5月には、米国第4位でDeutsche Telekom傘下のT-Mobile USA(現T-Mobile US)が第5位のMetroPCSの買収を完了した。同年7月には、第3位のSprintによる無線ブロードバンド事業者Clearwireの完全子会社化が完了し、その直後に、ソフトバンクがSprintの株式の約78%を約216億ドル(約2兆2,308億円)*で取得し、子会社化した(注)。
 2013年7月12日、業界第2位のAT&Tは、第6位のLeap Wireless International(Leap)を買収することに合意したと発表。Leapは、加入者数約500万の中規模事業者で、「Cricket」のブランド名でプリペイ ドによる携帯電話サービスを提供している。本取引は、米連邦通信委員会(FCC)の承認を経て、2014年3月14日に完了した。AT&Tは、Leapが持っていた米国内の1億3,700万人をカバーする周波数を手にし、これを利用してLTE展開を加速する計画である。
 Verizon Communications(Verizon)は、2013年9 月2日、英Vodafone Groupから両社の合弁会社Verizon Wirelessの株式の45%を1,300億ドル(約13兆4,264億円)*で取得すると発表。この取引は2014年2月21日に完了し、Verizon WirelessはVerizonの100%子会社となった。これを機にVerizonは、自社の持つ有線・無線資産を生かした「One Verizon」戦略を推進していく考えを明らかにしている。
 2013年12月頃より、日米のメディアは、SprintがT-Mobile USの買収を検討していると報じている。これまでのところ、両社による公式発表は行われていない。
 米国では、成長を続けるモバイルデータ需要に対応するため、FCCが無線ブロードバンド周波数の追加割り当てを進めている。しかし、オークションが開催され、割り当てられた周波数が利用できるまでにはさらに数年を要することから、今後も、米国の無線通信事業者の間では、周波数の獲得を主な動機としたM&Aや周波数取引が活発化することが予想される。

(注)その後、ソフトバンクは、Sprintの株式を追加取得し、出資比率を約80%まで引き上げた。
*換算レート:1ドル=103.28円(2014年3月11日TTMレート)

◆韓国新政権のICT政策(政権交代後の省庁再編の模様)

 2013年2月の朴槿恵(パク・クネ)政権の誕生に伴って実施された省庁再編により、2013年3月に情報通信(ICT)を所掌する未来創造科学部(部は省に相当)が発足。同部には前政権で5省庁(放送通信委員会、知識経済部、文化体育観光部、行政安全部、教育科学技術部)に分散していた多くのICT関連機能が統合された。
 1990年以降の政権交代の過程では、1994年に設立された情報通信部がICT政策の司令塔として機能し、韓国のICT分野発展の大きなけん引力となっていたが、2008年2月に誕生した李明博政権では情報通信部を解体し、ICT政策機能を4省庁(放送通信委員会、知識経済部、文化体育観光部、行政安全部)に分散した。この時設立された放送通信委員会は、合議制のため迅速な政策決定ができなかったこと、産業振興機能がなかったことに加えて、委員の政治的背景や専門性の欠如等の欠陥が指摘されていた。その結果、李明博政権時代後半には、ICT政策の司令塔不在による同分野の競争力衰退が危惧されるようになり、次の政権では、ICT専門省庁復活を期待する向きが強くなっていた。
 このような状況の中、朴槿恵大統領は、「創造経済」というキャッチフレーズを掲げ、韓国自らが産業を創出することを目指した。その成長戦略実現の手段として、科学技術とICT分野を重視する姿勢を打ち出し、中核的役割を担う省庁として未来創造科学部にICT機能を集中させることとした。
 これに対して、野党は放送振興政策機能を全面移管すると放送の独立性と公共性が維持できないとして、同機能の放送通信委員会への残置を主張したため、与野党間の協議は難航し、新大統領就任時に省庁再編が間に合わないという事態に発展した。省庁再編が実施されない限り、国政の空白状態が続いてしまうため、2013年3月後半、与野党間の最終協議の結果、政権側は野党の主張を受け入れ、放送通信委員会に、放送規制と通信・放送の個人情報保護、利用者保護分野を残すことで決着した。

◆中国のLTE動向

 2013年12月4日、中国通信規制当局は同国内のモバイル通信キャリア3社に対し、第4世代移動通信システムLTE(Long Term Evolution)のライセンスを正式に発行した。LTEの方式はTD-LTE(時分割多重方式)と呼ばれるもので、 これに対応する1.9GHz帯、2.3GHz帯および2.5GHz帯が3社に割り当てられた。これを受けて、同国モバイルシェア1位の中国移動(7億7,000万加入)は、2013年12月18日、同国初となるLTEサービス「和」を開始した。料金プランは138元/月(約2,280円)*のものから338元/月(約5,590円)*までの3プランを提供。2014年末にはLTE加入者数を5,000万∼6,000万まで伸ばす計画である。また、ネットワーク展開においては、2014年の始めには100都市でサービスを開始し、2014年末までには340以上の都市へ拡大する予定。
 中国移動に続く形で、シェア3位の中国電信(1億8,700万加入)は、2014年2月14日にTD-LTEサービスを開始。さらにシェア2位の中国聯通(2億8,500万加入)も同年3月18日にTD-LTEサービスを開始した。これら2社は、以前からTD-LTEとFDD-LTE(周波数分割多重方式)を並行展開する計画を示しており、FDD-LTEへの投資に重きを置く方針を表明している。FDD-LTEのライセンスの発行時期は現在のところ未定である。

*換算レート:1元=16.53円(2014年3月3日TTMレート)
各社加入者数の出所:Informa(2013年12月時点)

◆EU単一市場創設を目指す「連結された大陸」法案群

 欧州委員会は、2013年9月、EU域内単一電気通信市場の創設を目指す一連の法案群「連結された大陸」を公表した。この法案群によって、欧州が再びデジタル分野において世界の先駆者となり、消費者の負担が軽減され、企業が直面する煩雑な手続きが簡素化される等、利用者・サービス提供者双方に多くの新しい便益がもたらされることが期待される。
 また、従来、EUにおけるこのような広範な規制は、加盟国それぞれに一定の裁量が認められる「指令」という形式をとることが多かったが、今回の法案群はすべての加盟国を直接拘束する「規則」に格上げされていることも特徴である。
 法案群の概要は以下のとおり。

  • 規制手続きの簡素化。1カ国での手続きで他の加盟国でのサービス提供を可能に
  • 欧州域内での国際ローミングや国際電話の付加料金を廃止
  • オープンインターネットを制度上担保。合理的なトラフィック管理手法によらないインターネットコンテンツの遮断や制御を禁止し、利用者が契約速度や通信量を容易に確認可能に
  • 契約時に平易で比較可能な情報の提供や、長期契約満了時の事業者切り替え、 提供サービスが契約条件を満たさない場合の解約等に関しての消費者の権利強化
  • 周波数割り当ての時期・期間といった諸条件の加盟国間での調和
  • 料金算定方式の統一や差別的取り扱いの禁止による加盟国間の規制差異をなくし、投資確実性を向上

 法案群については、欧州議会の委員会で広範な修正が加えられた後、2014年4月、欧州議会が承認した。今後は法案の文案を最終化する作業に入り、欧州委員会は同年中の成立を目指している。ただ、事前のステークホルダー間の利害調整が十分に図られていないことや、同年5月の欧州議会選挙の結果が不透明であること等から、成立までには紆余曲折が予想される。

◆MicrosoftによるNokia買収

 2014年4月、米ソフトウェア会社Microsoftは、フィンランドの機器メーカーNokiaの携帯端末事業を54.4億ユーロ(約7,800億円)で買収した。この取引により、Microsoftは開発・デザインから生産、販売、サポート部門に至るNokiaの携帯端末事業全般を獲得し、併せてNokiaが保有する特許の一部を使用することが可能になった。
 一方、Nokiaは2012年のグループ売上の半分を占めた同事業を売却することで、ネットワーク・ソリューション部門(NSN)、マップ・ロケーションサービス(HERE)部門および特許管理部門に組織を改変し、今後は売上の大半をNSNに依存するようになる。
 MicrosoftとNokiaは、これ以前より提携関係にあった。2010年9月に元Microsoft幹部のStephen Elop氏がNokiaのCEOに就任すると、翌2011年2月に両社は戦略的パートナーシップ契約を結び、Nokiaはスマートフォンの主力をSymbian OSからWindows Phone OSに変えた。
 しかし、Windows Phoneは、スマートフォンOSのシェアで2強(Android、iOS)に大きく差を付けられ、Nokiaはスマートフォンを含む端末の総出荷台数においてグローバル市場でのシェアを大きく下げた。英調査会社の調べでは、2010年に29%(年間出荷台数ベース)だったものが、2013年には14%(同)まで減った。それでもフィーチャーフォンの販売に支えられて、総出荷台数で第2位(2013年)を維持しているが、グループの営業利益は年々減少し、2011 年には赤字に転落した。
 近年、Nokiaは新興国向けローエンド端末の拡充に取り組んでいる。Windows Phone端末は普及がなかなか進んでいないこともあって、2014年2月には、Android OSベースの「Nokia X」シリーズを発表した。これに対して、同社の携帯端末事業を買収したMicrosoftは、同事業の業績回復にはコストの削減とともに販売台数の拡大が必要であるとの見解を示した。
 一方、Microsoftも新興国市場の需要を獲得し、Windows Phoneのシェアを拡大するため、米チップメーカーQualcommや中国・インドなどの機器メーカーと提携し、ローエンド端末の開発を進めている。