1.電気通信事業の規制動向

◆2020年代に向けた情報通信の在り方の検討

 総務省は、2020年代のわが国にふさわしいICT基盤の姿を明らかにした上で、ICT基盤を担う電気通信事業の在り方について、政策の具体的方向性を提示することを目的として、情報通信審議会に「2020-ICT基盤政策特別部会」を2014年2月に設置した。同部会により、同年12月、「2020年代に向けた情報通信政策の在り方」答申が取りまとめられた。
 同答申では、「2020年代に向けたICT基盤政策」として、以下が掲げられた。

  • ICT基盤の利活用による新事業・新サービスの創出(異業種との連携に係る支配的事業者規制の見直しによるイノベーション促進、等)
  • 公正競争の徹底を通じた世界最高水準のICT環境の実現(主要事業者のグループ化・寡占化の進展に対応した競争政策の推進、移動通信サービスに関する競争の促進、超高速ブロードバンド基盤に関する競争の促進)
  • 便利で安心して利用できるICT環境の整備(消費者保護ルールの見直し・充実による安心してICTを利用できる環境の整備、ICT基盤の整備推進による地方の創生、訪日外国人にとっても利用しやすいICT環境の実現)
  • 適切な行政運営の確保等(適切な行政運営の確保、本検討のフォローアップ)

 このうち、支配的事業者規制については、固定通信市場における禁止行為規制は現行の規律を維持することとなった一方、移動通信市場における禁止行為規制のうち、不当な優先的取り扱い等の禁止については自己の関係事業者に対するものを除いて緩和する方向で、不当な規律・干渉の禁止は撤廃する方向で見直すことが適当とされた。
 NTT東西が2015年2月より開始することとなった光アクセス回線の卸売サービス(サービス卸)については、新たな取り組みと評価する一方、利用者利益に及ぼす影響が極めて大きいこと等を踏まえ、料金その他の提供条件の適正性および公平性が十分に確保されるとともに、外部による検証可能性を含め、一定の透明性が確保される仕組みの導入を検討することが適当とされた。
 また、移動通信サービスに関する公正競争の徹底と利用者利益の確保に向けた検討が必要とされ、特に、MVNOのさらなる普及促進のための環境を整備することが適当とされた。
 なお、総務省では、答申を踏まえて、NTT東西が主要事業者に対して「サービス卸」を提供する場合に、個別契約の事後届出制を導入することを明らかにした。また、同年2月に「サービス卸」に関する現行法の禁止行為規制等の解釈指針(NTT東西のFTTHアクセスサービス等の卸電気通信役務に係る電気通信事業法の適用に関するガイドライン)を策定するとともに、NTT東西に対し、同ガイドライン等を踏まえた対応と報告すべき事項(主要事業者との個別契約の内容など)について要請を行った。

◆消費者保護ルールの見直し・充実

 2013年9月に取りまとめられた「スマートフォン安心安全強化戦略」において、スマートフォンサービス等の適正な提供に係る課題への対応として「CS適正化イニシアティブ」が示されている。
 その中で「利用者からの苦情・相談の件数が高止まり傾向にあることからすれば、従来の延長線上にある自主的な取り組みだけでは足りず、電気通信事業法における消費者保護ルールを見直し、所要の規定を設ける等の制度的な対応の検討に着手すべきである」との提言がなされている。事業者団体・各事業者等は、自主的な取り組みをさらに強化し、苦情・相談の削減に努めているものの、依然、その件数は増加している。
 このような状況を受け、総務省は、2014年2月より「ICTサービス安心・安全研究会」を開催し、消費者保護ルールの見直し・充実等の直面する課題への対応について検討を重ねた。同年7月に中間取りまとめ、12月に最終取りまとめ「ICTサービス安心・安全研究会報告書」が公表された。
 概要は以下のとおり。

(1)消費者保護ルールの見直し・充実

【説明義務等の在り方】

  • 利用者の知識、経験、契約目的等に配慮した説明を行わなければならない旨、制度化することが適当。その上で、利用者からの希望やサービス提供契約についての知識、経験、目的等に応じ、一部説明を不要とすることを認めることが適当
  • 契約内容が記載された書面について、原則、紙媒体により交付(利用者からの希望に応じ、電子媒体による交付に代えることも可能)しなければならない旨、制度化することが適当
  • 事業者団体の自主的取り組みや電気通信事業法等に基づく法執行により、広告表示等の適正化を図ることが適当

【契約関係からの離脱のルールの在り方】

  • 重要事項等の不実告知・不利益事実の不告知を禁止
  • 販売形態によらず、初期契約解除ルールを導入することが適当
  • 期間拘束・自動更新付契約に関する提供条件の説明方法等について、改善されることが必要

【販売勧誘活動の在り方】

  • 事業者および代理店における再勧誘禁止を制度化することが適当
  • 事業者等は、適切な販売勧誘が行われるよう、代理店に対する監督体制を整備することが適当。総務省としても必要な取り組みを行っていくことが適当

【苦情・相談処理体制の在り方】

  • 民間型の第三者機関による苦情・相談の処理を早急に実現し、その状況を見ながら、紛争解決の仕組みの在り方等について、中長期的に引き続き検討することが適当

(2)通信サービスの料金その他の提供条件の在り方等
  • 販売奨励金等については、直接規制することは適当ではなく、他の競争環境整備を通じて適正化を促すことが適当
  • SIMロック解除については、一定期間経過後、利用者の求めに応じ迅速、容易かつ利用者の負担なく解除に応じることが適当
  • 利用実態に合った多様なモバイルサービスの料金プランの導入が適当

 本研究会における事業者ヒアリング等において、各ルールの適用範囲についてはさまざまな意見が表明されたところである。
 総務省は、本研究会において事業者団体・各事業者・代理店等から表明された各ルールの適用範囲に関するさまざまな意見や本報告書の考え方を踏まえ、消費者保護ルールの見直し・充実等に向け、関連法令の改正等、必要なルールの制度化等に取り組んでいくこととされており、2015年5月には電気通信事業法も改正された。事業者団体・各事業者・代理店等においても、総務省を含め、十分な連携を図りながら、本報告書の考え方を踏まえた具体的な取り組みを早急に行うことが期待されている。

◆個人情報保護法の改正とパーソナルデータ利活用を巡る動き

 わが国の個人情報保護法は、2003年に制定され2005年から全面施行となった。施行後3年目に、一般市民や企業の過剰反応等の問題が指摘され、法改正が議論されたものの、時期尚早として改正は見送られた。
 制定から12年を経て、スマートフォンの普及やクラウド等のICT技術の進展から、パーソナルデータの利活用とプライバシー保護のバランスを取る、新たな制度枠組みの必要性が認識された。
 さらに、第2次安倍政権の下、2013年6月に「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定され、産業政策の一環として、パーソナルデータの積極的活用により、新ビジネスや新サービスの創出と既存産業の活性化促進がうたわれた。これを受けて、内閣府IT総合戦略本部の下に設置された「パーソナルデータに関する検討会」において、新たな制度枠組みに関する検討が集中的に行われ、2014年6月に政府大綱が示され、同年12月に個人情報保護法の改正案の具体的取りまとめが行われた。
 同取りまとめ結果を参考に、最終的な法改正案が策定され、2015年3月10日の閣議決定を経て、第189回通常国会に付議された。個人情報の定義の明確化、独立した第三者機関としての個人情報保護委員会の設置、本人の同意を経ずに利活用を可能とする「匿名加工情報」の導入、第三国への越境データの規制化等を主な内容とする法改正が行われ、詳細は政省令等で整備される予定である。

◆電波政策ビジョン懇談会

 無線通信のさらなる高度化へのニーズと期待が高まる中、総務省は、電波ひっ迫解消のための政策の抜本的な見直し、世界最先端のワイヤレス立国の実現・維持を図るべく、新しい電波利用の姿等について議論を行うことを目的として、2014年1月、「電波政策ビジョン懇談会」(座長:多賀谷一照 獨協大学法学部教授)を発足させた。
 懇談会では、2014年12月までに計14回の会合を開催し、事業者・有識者からのヒアリングや意見募集の結果も踏まえながら、(1)新しい電波利用の姿、(2)新しい電波利用の実現に向けた新たな目標設定と実現方策、(3)電波利用を支える産業の在り方という3つの論点を中心に議論が進められた。
 2014年7月に発表された中間とりまとめでは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、わが国において、世界に先駆けて第5世代移動通信システム(5G)を実現することが重要であるとして、2014年中に推進協議会を立ち上げ、5Gの推進体制を強化することが明記された。これを受け、2014年9月に「第5世代モバイル推進フォーラム」が設立された。
 さらに中間とりまとめでは、周波数割り当てにおけるグループ性の扱いについて、移動通信事業者のグループ化が進展する状況を踏まえ、今後新たに周波数を割り当てる際には、これまでのように議決権(3分の1以上)だけで申請者の独立性を判断するのではなく、資本関係(出資比率や所有構造)、意思決定、取引関係等についても考慮して判断することが適当とされた。この考え方は、「第4世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設指針」(3.5GHz帯割当)において取り入れられることとなった。
 2014年12月に発表された最終報告書では、移動通信データトラフィックの増加、M2M等の新サービス普及、無線LANの利用拡大、東京オリンピック・パラリンピック対応等を考慮して、新たな周波数割り当ての目標を設定することが適当とされた。具体的には、携帯電話や無線LAN等の移動通信システム用の周波数として、2020年までに6GHz以下の周波数のうち計約2700MHz幅を確保することが盛り込まれた。また6GHz以上の周波数帯については、5Gでの活用を念頭に、8.4GHz帯から80GHz帯のうち、計約23GHz幅を対象として検討し、諸外国の動向等を踏まえつつ、対象周波数帯の利用に関する研究・標準化等を進めた上で、今後必要となる周波数幅を確定・確保していくこととされた。

◆社会全体のICT化の推進(東京五輪に向けて)

 総務省では、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」(以下「東京大会」)に合わせて、大会以降のわが国の持続的な成長を見据えた、社会全体のICT化の推進に向けてのアクションプランを策定することとした。
 2014年11月、総務大臣が主宰する「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会」を設置した。構成員は東京都副知事、関連省庁の代表者、電機・通信・放送関連の企業の代表者からなっている。
 2020年に開催される東京大会は、わが国のICTにかかわるサービスやインフラの高度化を図り、世界に日本のICTを発信する最高のチャンスとして期待されている。また、国際オリンピック委員会(IOC)に提出された立候補ファイルにおいても、日本の優れたICTを活用して実施していく旨を表明している。
 アクションプランで実現を図るべき事項として、無料公衆無線LAN環境の整備促進、ICTを活用した自動翻訳などの多言語対応、放送コンテンツの海外展開、4K8Kやデジタルサイネージの推進、第5世代移動通信システムの実現、オープンデータ等の活用等を挙げている。懇談会の中で、その目標とすべき時期、官民の役割分担について検討し、2015年7月を目途に取りまとめを行う予定である。