3.海外の動向

◆米国モバイル市場の動向

 米国のモバイル市場では、Verizon Wireless(Verizon)、AT&T、Sprint、T-Mobile US(T-Mobile)の大手4社による競争が激しさを増している。競争を牽引しているのは、独Deutsche Telekom傘下で加入者シェア第4位のT-Mobileである。同社は、2013年初めに「アンキャリア(Un-Carrier)」を宣言し、従来の通信事業者(キャリア)からの脱却を目指し、他社との差別化を図った施策を相次いで打ち出している。2015年3月には、主に中小企業を対象にした割安な料金プランを発表し、VerizonやAT&Tの牙城である法人向け事業を強化していく考えを示した。一連のアンキャリア施策が功を奏し、それまで純減だったT-Mobileのポストペイド(契約)加入者は、2013年第2四半期(4~6月)から純増に転じ、その後も増加を続けている。T-MobileのJohn Legere CEOは、「2015年には米国第3位の事業者になる」と強気の姿勢を見せている。
 T-Mobileは、2011年3月に業界第2位のAT&Tによる買収に合意したものの、規制当局の反対に会い、同年12月に合意を解消した。その後も2013年から2014年にかけて、ソフトバンク傘下のSprint(注1)や仏通信大手のIliadによる買収計画が持ち上がったが、いずれも実現に至っていない。一方、AT&Tは、メキシコ市場への進出を活発化させている。2015年1月にメキシコ第3位の移動体通信事業者Iusacellを、同年4月に第4位のNextel Mexicoを買収した。今後、AT&Tは、米国と合わせ北米市場の約4億人を対象に移動体通信事業を展開することになる。
 米連邦通信委員会(FCC)は、成長を続けるモバイルデータ需要に対応するため、無線ブロードバンド周波数の追加割り当てを進めている。2014年1月から2月には1900MHz帯「Hブロック」オークションが、2014年11月から2015年1月にはAWS(Advanced Wireless Services)-3オークションがそれぞれ実施され、合計75MHz幅の周波数がLTEなどのモバイル用に割り当てられた。AWS-3オークションの落札総額は約449億ドル(約5兆3,880億円)(注2)で、米国でこれまでに実施された周波数オークションの中で最高額を記録した。
 さらにFCCは、放送周波数(600MHz帯)を対象としたインセンティブオークション(注3)を2016年初めに開始することを目指して準備を進めている。放送事業者側は、FCCが定めたオークションの基本ルールを不服として訴訟を起こしている。この裁判の判決は2015年の秋頃に下される予定で、判決の内容次第では、オークションの開始が遅れる可能性もある。

(注1)Sprintおよびソフトバンクは、T-Mobileの買収に関して公式発表は行っていない。
(注2)1ドル=120円で換算
(注3)周波数を返還した免許人(この場合は放送事業者)にオークション収入の一部を還元する方式のオークション

◆欧米のネット中立性を巡る動き

 ネット中立性は、一般的に、「ネットワークはどんなユーザー、アプリケーションからも中立であるべき」という考え方である。このネット中立性に関して、欧米では規制の在り方について議論がなされている。特に、近年のネットワーク上を流通する映像系コンテンツの増加をはじめとしたデータトラフィックの増大に伴い、ブロードバンド事業者側において、トラフィック制御の必要性が高まってきたことが背景にある。
 米国においては、連邦通信委員会(FCC)が「オープンインターネットの保護」を目的としたネット中立性規則(2010年規則)を制定した。その後、Verizon Communications(Verizon)が2010年規則の差し止めを求める裁判を提起し、コロンビア特別区連邦控訴裁判所が規則の一部を無効とする判決を下した。2014年5月、FCCは新たなネット中立性規則に関する提案を発表し、これに対して多くのネット中立性支持派の声が集まった。
 FCCが2015年2月に新たに決定した規則では、規制の明確化(ネットワークへの通信を拒否するブロッキング、一定の時間内にやりとりできるデータ量を制限するスロットリング、特定のトラフィックに対する有償の優先取り扱いの三つを禁止)、モバイルブロードバンドへのルール適用拡大などが盛り込まれた。また、ブロードバンドへの法的権限を強固なものにするため、通信法第Ⅱ編(コモンキャリアに対する規制)の対象とすることが決められた。これまで示された規則に比べて、より強固な中立性を求めており、ブロードバンド事業者側にとってより厳しい内容となっている。
 欧州では、特に欧州市民の「ネットの自由」のもと、事業者によるトラフィック制御をどの程度認めるかが議論の中心となっている。2013年9月、欧州委員会が公表した通信規制改革の法案パッケージ案においては、ネット中立性を法制化することと同時に、(1)透明性要件の強化、(2)サービス水準の低下・アクセス防止・低速化を防ぐこと、の必要性について触れている。実際の規制はEU加盟各国単位で、自主規制、規制当局によるガイドラインの策定、法規制などの形式で行われている。
 2015年3月、EU理事会議長国であるラトビアは、ネット中立性の原則を保持する一方で、一般消費者と企業によるネットワーク利用に関して取り扱いを異にすることを認める形で合意したことを公表したが、欧州議会のリベラル派を中心としたネット中立性原則の堅持に強硬な勢力もあり、どのような形で法制化されるかは不明確な情勢である。

◆世界の5G動向

 第5世代移動通信システム(5G)は、LTE(Long Term Evolution)、LTE-Advancedに次ぐ移動通信システムである。5Gにはまだ世界的な統一定義は存在しないが、ギガビットクラスの超高速・低遅延通信、モノのインターネット(IoT)に対応したネットワークなどが一般的な特徴としていわれる。また、現在のLTE周波数帯よりも高周波数帯域が利用されることもスコープに入っている。商用化の目途は2020年頃と想定される。日本と韓国にとっては、オリンピック(2018年冬季、2020年夏季)が5Gに脚光を当てる好機となるため、日韓モバイルキャリアらは率先して検討を進めている。
 5G動向で最も顕著なのは、各国・各地域がリーダーシップを取るべく多数のコンソーシアムを立ち上げて、5Gのサービス検討や機能要件の定義等を行っていることである。
 LTEにおいて日米韓の後塵を拝する形となった欧州は、5Gに向けた活動をいち早く開始した。2012年11月、欧州委員会は多年次助成プログラム(FP7)に基づいて、5Gの研究プロジェクト「METIS」(Mobile and wireless communications Enablers Twenty-twenty(2020) Information Society)を発足。さらに、2014年12月には、FP7の後継助成プログラムHorizon 2020への5G関連の提案を目指すべく、官民パートナーシップ「5GPPP」(5G Infrastructure Public-Private Partnership)を立ち上げた。
 日本では、2013年9月に、5G関連プロジェクト「2020 and Beyond AdHoc」が発足。さらに5G推進体制の強化のため、2014年9月に42社・団体から成る「第5世代モバイル推進フォーラム」(5GMF:The Fifth Generation Mobile Communications Promotion Forum)が設立された。
 中国では、2013年2月、2020年以降の無線通信システムを検討する「IMT-2020(5G)推進グループ」を関係3省庁が合同で設立。同様に、韓国でも2013年5月に、5Gの標準化推進を目的に官民パートナーシップ「5Gフォーラム」が発足した。2020年までの7年間で、政府、民間合わせて約1兆6000億ウォン(約1740億円*)を投資する計画である。なお、この「5Gフォーラム」は、「5GPPP」(欧州)、「2020 and Beyond AdHoc」(日本)および「IMT-2020(5G)推進グループ」(中国)と提携している。

*換算レート:1ウォン=0.1088円(2015年3月2日TTMレート)

◆ミャンマー通信市場への参入

 ミャンマー連邦共和国は、インドシナ半島の北西側に位置し、中国やインド、タイなどと国境を接している。人口はおよそ5,100万人だが、携帯電話の普及率は約14%(2013年末時点)と周辺国に比べてもかなり低く、2014年8月までは国営の通信事業者であるMyanma Post and Telecommunications(MPT)が独占的にサービスを提供していた。
 2011年の民政移管後、ミャンマー政府は、経済発展の基礎を支える通信・ICT産業の発展が必須と考え、過度の規制により停滞していた通信分野の改革に乗り出した。「2016年末までに携帯電話普及率を80%とする」という目標を掲げ、2012年9月には通信市場を外資に開放することを決めた。そして、翌年には、1930年代までに作られたこれまでの規制を改め、新たな事業法を成立させた。
 2013年6月、新たな枠組みに基づき、通信事業免許のオークションが実施された。2件の枠にミャンマー国内外から11のコンソーシアムが入札を行い、ノルウェーTelenorとカタールOoredooが落札した。両社には15年間の事業免許が付与されたが、免許交付から5年以内に国内各州で面積の75%以上にネットワークを構築することが義務付けられている。
 一方、既存通信事業者であるMPTと傘下のISP事業者Yatanarpon Teleport(YTP)にも通信事業免許が交付された。新規参入の2社を迎え撃つ立場のMPTは、外資の通信事業者との提携を望み、KDDI・住友商事との提携を決めた。MPTは、KDDIと住友商事による合弁会社、KDDI Summit Global Myanmar Co.,Ltd.(KSGM)と共同で事業を展開し、2014年9月からロゴを一新して新たな体制の下で通信サービスの提供を行っている。
 ミャンマー初の外資系通信事業者として、Ooredooが2014年8月から携帯電話サービスの提供を始めた。翌月にはTelenorもサービスを開始し、ミャンマーの携帯電話市場は3社が競合する状況へと変わった。しかし、外資2社は一からネットワークを構築しており、カバレッジはまだ広くない。それでも、両社が参入することでSIMカードや通信料金は大幅に下がり、携帯電話サービスは急速に普及しつつある。2014年末の携帯電話の普及率は30%を超え、この1年で契約数は2倍超に拡大した。(調査会社推計値および各社発表値より算出)
 携帯電話市場における3社体制が始まって3カ月が経過した2014年末時点では、まだMPTの優位は揺るがず、同社の市場シェアは6割を超える。しかし、Telenorは料金の安さを、Ooredooはデータ通信サービスの品質をアピールし、徐々に契約数を増やしている。そして、今後はYTPが第4のキャリアとして無線市場に参入する可能性もあり、市場の競争は一層強まる様相を見せている。

◆韓国の端末助成金規制の動き

 2011年のLTE導入以降、補助金(端末購入代金の割引に充てる金額)による販売競争が一層激しさを増し、携帯電話事業者各社は、補助金ガイドラインで決められた27万ウォンの上限額を超え、補助金を支給してきた。このため、度々一定期間内の新規販売停止や、課徴金を課される制裁措置を受け、2013年には朴槿恵政権が取り締まり強化に乗り出し、2014年10月に「移動通信端末装置流通構造改善に関する法律(端末流通法)」が施行された。
 同法の主な内容は以下のとおりである。

① 補助金の上限額を定め、キャリアが支給する補助金は30万ウォンを上限とし、代理店や販売店が支給する補助金は4万5千ウォンを上限とする。
② 補助金と関連した、高額料金プランや付加価値サービスへの強制加入を制限する。
③ 補助金支給を受けない利用者には12%(2015年4月から20%に変更)の通信料金割引を実施する。
④ 発売から15カ月を過ぎた端末は規制の対象外とする。

 端末流通法導入後の効果として、政府は高額料金プラン、付加価値サービスへの加入率が大幅に低下したと発表した。
 ところが、2014年10月末のiPhone6の発売に伴い、各社は上限額を超えて補助金を支給したため、再び課徴金を課されることとなった。一方、10月から各社は、補助金とは別扱いとして、18カ月後の端末下取り価格を算定し、あらかじめその額を端末価格から割り引いた。政府は2015年3月に入り、この行為についても端末流通法に違反するとして、課徴金を課すこととした。