Sprintの「顧客の生の声」が裏目に


Sprintが「顧客の生の声」のビデオをネットで流したところ、人種差別だとの批判が殺到し、結局イメージダウンと顧客流出を招いてしまった。

SprintのCEOのマルセロ・クラウレ氏が顧客の生の声を聞くために12都市を回って数百人と懇談会を持ち、その模様を撮影したビデオをネットに流した。

「『T-Mobile』と聞いて何を思い浮かべるか」というクラウレ氏の質問に対して、ある白人女性が「ゲットー(スラム街)」と答えた。さらに、「いつもキャリアと言えばAT&T、Sprint、Verizonの3社だけ。T-Mobileなんか使ってる人って、訳わかんない」と続けた。

その懇談会に出席していたのはほとんどが白人で、女性の発言に爆笑するが、一人、黒人男性がややうつむくのが一瞬映る。クラウレ氏はと言えば、女性の話にうなずくばかりか、「ゲットー」と聞いた瞬間「イエス」と発してしまう。

この場面を含むビデオをSprintがドキュメンタリー風の広告に仕立ててYouTubeに投稿し、それをクラウレ氏がTwitterで紹介RCR Wireless Newsにも取り上げられ、それをクラウレ氏がさらにリツィートしたことでさらに拡散。

すると、人種差別だなどと批判する声が殺到。こんな広告は悪趣味で無神経、ネガティブ広告の高価な代償だとも。さらにそんなことよりもネットワークとサービスを改善すべきだとの声や、顧客の声は聞くのに社員の声は聞かないとの社内批判も出る始末。

あるSprintの顧客は、「サービスを解約する。人種差別も甚だしい。ちなみに妻は黒人。これで2人の顧客を失ったね」とコメント。そこへVerizonが入ってきて「お乗り換えですか? 当社が最適です。DMをいただければ乗り換えのお得情報を差し上げます」と勧誘。

また別の人が、「クラウレ様、これだから私はSprintのサービスを二度と使いたくないのです」とツィートすると、AT&Tがすかさず「そろそろAT&T に乗り換えるときですね。AT&Tファミリーに是非仲間入りを」と勧誘すると、元の投稿者が「ありがとう。でも実はT-Mobileに満足しているので」と返信。

T-Mobileは「イェーイ! T-Mobileファミリーのハッピーメンバーがまた一人」と喜ぶ。久々に通信業界が盛り上がりを見せた。

いつも騒がしいT-MobileのCEOのジョン・レジャー氏は、今回は静かに「反応する必要なし」と反応していた。

クラウレ氏は批判の中で、当初、「一般人の率直な声だ。真実は時にT-Mobileを傷つける」とか「実際の顧客の生の声をシェアしただけ。顧客の言葉選びはベストではないかもしれないが、誰かを攻撃する意図はない」と詫びることなくコメントしていたが、最後には「消費者の声を聞くのが私の仕事。顧客の声をシェアしたかっただけ。こちらの判断ミスだ。申し訳ない。ビデオは削除する」とツィートし、一件落着となった。

クラウレ氏のTwitterページより
クラウレ氏のTwitterページより

ところが、一旦ネットにアップされたビデオは削除してもどこかに残っていて拡散してしまうのがネットの怖いところだ。例えばNew York Postなどが「削除されたビデオはこれ」と言わんばかりに紹介している。

「顧客の生の声」でも、それを選別するかどうかやネットに流すかどうかのところでSprintの判断が入っているから、ネットに流れた途端に「Sprintの声」になってしまう。