シリコンバレーはオワッタ


シリコンバレーはオワッタ、とシリコンバレーが言っている、とThe New York TimesのKevin Roose氏が述べている。

同氏によると、最近、IT企業や投資会社などがシリコンバレーやサンフランシスコを含むベイエリアから脱出しており、しかもその数はだんだん増えているという。

その理由は多々あるが、たとえばサンフランシスコやその周辺の生活費がバカ高くなりすぎて、年収100万ドルでも中流階級だと感じさせるほどだということがある。また、IT企業に対する風当たりが強まっていることや、左翼の「反響室」として特定の思想を増幅・拡散したり反対意見を封じ込めたりしていることに対する不満や嫌悪感などもある。

High Ridge Venture Partnersの創業者のパトリック・マッケンナ氏は、「サンフランシスコはもういいかな」と言っている。「物価はすごく高いし、混雑してるし、率直なところ、ビジネスチャンスは他の都市にもある」というのがその理由だ。

トランプ支持者で富豪の投資家でFacebookの取締役でもあるピーター・ティール氏が、シリコンバレーはもう起業に適さなくなったとして、ロサンゼルスに引っ越すことにしたことを近しい人たちに明かした。自身が持っている投資ファンドも一部を残して移転することにした。これはシリコンバレーにとって大きな失点となった。同氏は、サンフランシスコの前衛的な文化は「有毒」だと考え、もっと偏りのない知性の都市を求めたとも言われている。

Sequoia Capitalの会長で富豪のマイケル・モリッツ氏も、同じようなことを言っている。シリコンバレーは成功によって失速し駄目になったとし、IT企業は政治や社会的不正などに関する「魂が抜けるような議論」ばかりしていて、技術革新から遠ざかってしまったとも述べている。

シリコンバレー独特の問題に対する批判は草創期からあり、Netscapeの共同創業者のジム・クラーク氏も、税金は高いし不動産は金がかかりすぎると文句を言いながら、ドットコムの第一期にフロリダに引っ越してしまったのは有名な話だ。

AOLの創業者のスティーブ・ケース氏も、「シリコンバレーはおそらくピークを過ぎた」と述べて、これからはベイエリア以外のスタートアップに投資すると表明していた。

もちろんベイエリアで快適に過ごす余裕があって生活を楽しんでいる人もいるが、そのような人たちの中にさえ、「IT業界は成功で慢心している」と感じている人もいる。

シリコンバレーから選出された民主党のロー・カンナ下院議員も、「シリコンバレーの技術者の中には人類史上最大のエゴの持ち主がいる」と述べている。「コーヒーや朝食が出ないとかドライクリーニングがないなどの理由で他所へ行きたがる。巷の人々はお腹を空かしているというのに」と批判している。

脱出劇はまだ本格化してはいないが、2017年の第4四半期にはサンフランシスコが脱出者で全米一の都市だったというRedfinのデータもある。次点はニューヨーク、第3位がロサンゼルスという順位。なお、脱出者の行き先としてはサクラメント、フェニックス、ラスベガスといったところが人気が高い。

シリコンバレーからの脱出先(Redfinより)

ベイエリアから脱出する人が急激に増えているため、引っ越しに使用するレンタルトラックの「U-Haul」の需要が急増して料金が値上がりしているという問題も生じている。たとえばU-Haulのトラックをサンノゼからラスベガスまで片道で借りると2,000ドルもかかる。逆方向だと100ドルで済むというのに。

脱出によるIT企業のコスト削減効果は大きい。家賃や諸経費に加えて人件費の削減もできる。ベイエリアのエンジニアの報酬は異常に高い。他の都市ではエンジニアの年俸は最低レベルで5万ドル位だが、ベイエリアでは、たとえばFacebookやGoogleであればエントリーレベルのエンジニアでもその3倍から4倍は稼げる。当のエンジニアがそれでも満足な生活が送れないとすれば、それも異常な実態だ。

このような「狂乱」が早くオワリになることを切に願う。