AT&T/Time Warnerの合併に司法省が上訴


AT&TのTime Warner買収を認めた連邦地裁の判決に対し、7月12日、司法省が上訴した。

控訴裁において司法省が勝訴する見込みは薄いと見られているが、司法省の狙いは必ずしも勝訴することではないとの見方もあると、The New York Timesが伝えている。

AT&Tの弁護士も、「地裁の判決は完璧で事実に基づいていて筋が通っているので覆すことは難しい」と自信を見せているが、もし敗訴した場合には容易に切り離せるように、WarnerMediaをAT&Tのグループとは別個のグループにして運営している。

司法省が地裁の判決に対して差し止めを申し立てなかったのは、AT&TがWarnerMediaをいつでも切り離せるようにしておくと言っていたからだ。

AT&Tとしては、もし判決の差し止めが申し立てられると合併が期限までに完了できなくなり、多額の違約金をTime Warnerに支払わなければならなくなるところだった。何としても差し止めの申し立てがなされないよう、AT&Tが策を講じたのかもしれない。

ところで、このAT&T/Time Warner合併に対する司法省の姿勢は、DisneyのFox買収のときとは対照的だ。通常、この規模の合併承認手続きには1年以上はかかり、ましてAT&T/Time Warnerの垂直統合とは違ってDisney/Foxは水平統合なので当局の承認を得るのは難しいと見られていたところ、両社の合意発表から半年後に司法省が承認してしまった。

さらに今回、AT&T/Time Warner合併に対して司法省が上訴したことは、Foxの会長を務めるルパート・マードック氏にとっては朗報だ。垂直統合であっても当局の承認を得るのは難しいとの印象を世間に与えることになり、Disney/Foxの間に割って入ってFoxを買収しようとしているComcastが、諦めて引き下がる公算が大きくなるからだ。

2つの合併案件に対するトランプ大統領の姿勢も対照的だ。

AT&T/Time Warnerに対しては、トランプ大統領は、選挙活動中から、Time Warner傘下のCNNに対して「フェイクニュース」だと批判していて、大統領になったらこんな合併は阻止してやると公言していた。

ところがDisney/Foxに対しては、トランプ大統領は随分好意的だ。両社の合併の合意が発表されると、トランプ大統領はマードック氏に電話をして「おめでとう」と祝福したそうだ。

大統領が民間企業の買収案件について、そんなに好き嫌いをはっきりさせていいものか。日本では、さしずめ野党が「忖度があったのではないか」とか執拗に追及しそうな場面だ。

アメリカにはそんな野暮なことをする政治家はいないようだ。