米最高裁で何が起こっているのか


人工妊娠中絶に関する裁判で米最高裁が揺らいでいる。

Google Mapより

米国の連邦最高裁判所では現在、人工妊娠中絶に関する歴史的な裁判が行われている。女性が中絶を選択する権利が憲法上認められているとした1973年の「ロー対ウェイド」判決が覆されるかどうかという重大な局面だ。

もし覆されると中絶を選択する権利は憲法上認められたものではないので州の判断に委ねられることになり、多くの州で中絶が禁止される可能性があり、そうなると約3,600万人の女性が選択の自由を奪われると言われている。

その判決が6月までには出されると見られている。これはこれで重要な関心事ではあるのだが、今最高裁が揺らいでいるのは、その判決に係る裁判所の意見書の草案が判決が出る前に外部に流出してしまったからだ。

その草案の内容は、1973年判決を覆すもの、すなわち女性が中絶を選択する権利は憲法上明記されたものではなく、憲法上のいかなる条文もその権利を暗黙的にも保護していないというのが判事の多数意見だというもの。

これは草案であり、まだ確定したものではないので、最終的にどのような判決になるかはわからないが、問題は、判決が出るまでは絶対に外部に出してはいけない草案が出てしまったことだ。

こんなことは200年以上にわたる最高裁の歴史の中でも初めてのことで、最高裁の信頼性を揺るがすものであり、前代未聞の大失態だと批判されている。

そういうわけで、最終的な判決がどうなるのかということに加えて、草案の流出を誰が何のためにやったのかということが、もう1つの重大な関心事になっている。

草案の内容を知りうるのは、最高裁の9名の判事と、それぞれの判事を補佐する「ロー・クラーク」と言われる助手たちだから、「犯人」はその中の誰かということになる。

最高裁判事は大統領が任命するため、任命した大統領の党派によってだいたいの判事の判断傾向(保守派、リベラル派)が分かれる。

現在の最高裁判事は保守派が6名(ジョン・ロバーツ長官、クラレンス・トーマス、サミュエル・アリート、ニール・ゴーサッチ、ブレット・カバノー、エイミー・コニー・バレット)、リベラル派が3名(スティーブン・プライヤー、ソニア・ソトマイヨール、エレナ・ケイガン)となっている。

中絶の問題は、一般的にはリベラル派・民主党が賛成、保守派・共和党が反対の立場をとっている。流出した草案は保守派のサミュエル・アリート判事が起草したもの。少なくとも現段階では保守派・共和党の主張が優勢であることを示す。

これはまずいと思ったリベラル派の誰かが草案を流出させて、政治的プレッシャーを与えたり世論に訴えたりして、保守派の判事を翻意させ、形成逆転を狙ったと考えても、それほど違和感はないだろう。もちろん、それ以外の可能性もあるが。

実際、共和党のテッド・クルズ上院議員は、おそらく「犯人」は左翼のロー・クラークだろうと述べているが、その証拠は示していない。

果たして真相や如何に、といったところだが、それにしても米国の司法の最後の砦である最高裁がこんなことで揺らいでいるとは、心許ない。

最高裁も壊れてしまっているのか。