日本のメディアも大々的に報じたイラン在住の日系米国人ジャーナリスト、ロクサナ・サベリ(Roxana Saberi)さん。「スパイ罪」容疑で禁固8年の判決を受けたものの、米国の働きかけもあってか、控訴審で減刑されて出国の可能性が高いという報道で、それはそれで結構ですが、まったく見通しが立っていないのが北朝鮮に拘束された米国人ジャーナリストのローラ・リン(Laura Ling)さん、ユナ・リー(Euna Lee)さんの二人。

2人は米国のカレントTVの調査報道取材班Vanguardの所属。およそ1月前に男性2人とともに脱北者問題取材のため中国側から国境付近でビデオ撮影中に拘束されたのです。

どうやら氷結していた国境の川、豆満江を渡ってしまったらしく、勇み足的な要素もあるようですが、理由はどうあれ、先進国のジャーナリストが拘束されれば大体、大騒ぎになり、連日のように報道するものです。しかし、カレントTVは本来ニュース専門局でありながら、自局の記者の一大事に、これまで1月余り、まったく触れていません。どう対処するかどころか事実関係もゼロ。サイト内検索をかけると、サベリさんについては16回も報じているのに!?!

ご存知の方も多いでしょうが、カレントTVはアル・ゴア元副大統領が大統領選に負けたあと「若者向けの民主的なテレビ」を標榜して発足させたケーブル局です。何が民主的かというと、アマチュア、セミプロ、フリーランスのプロなど誰もが取材したビデオをネットに投稿し、オンライン投票で視聴者の評価の高かったものを買い上げ、ケーブル番組に編成して全国に流す仕組みでスタートしたからです。

その後、独自の取材チームを持つようになり、リンさんはニューヨークのケーブル局チャンネル1から移籍して、これまで大手テレビ局が取材しないような危険な取材を重ねてきたようです。それなのに、彼女たちが拘束されてからカレントTVが全く何の反応も見せず、著書「不都合な真実」のプロモーションでは世界を回ったゴア氏も全く発言もしなければ、たとえば北朝鮮に影響力のある中国に行ってなんらかのアクションをするということもなし。かれはカレントTVの母体、カレントメディアの会長です。名ばかり会長ではなく、報道によれば2007年の報酬は1億円だったそうです。

対照的に、サベリさんがレポーターをつとめていたNPR(National Public Radio)のサイト内検索をすると、彼女の安否に関する記事が53本もあり、報道することで世論を背景にイランへの働きかけを強めるという姿勢がうかがわれます。ちなみに、リンさんらに関するものも9本あって、カレントTVとの違いが際立っています。

勿論、北朝鮮が核問題などで米国を揺さぶるカードにしようとしているので、余分な動きはしないという「政治的判断」からかもしれませんが、元大統領候補で「民主的なテレビ」創設者にしては・・・・・

調査報道のように時間とカネがかかる上に、取材対象から反撃を受ける可能性も少なからずある仕事に取り組むジャーナリストを全力で支え、守る(今回で言えば救出する)のが報道機関という組織の義務であり、存在価値であるはずです。そうであるべき組織を信じられなければ調査報道のリスクをとるジャーナリストはいずれいなくなってしまうかもしれません。