NPO報道機関なのに幹部の報酬が高すぎると話題になる反面、ニューヨークタイムズの日曜版付録タイムズマガジンのカバーストーリーを飾るなど、あちこちのマスコミに掲載されて存在感を徐々に高めているProPublica。テキサス州の政治報道に注力するとし、本拠地ヒューストンに近いFort Hood基地の銃乱射事件に目もくれないでかえって評判を上げたというTexas Tribune。このところNPO報道機関の動きが米国内で注目されていますが、今度はこれまでちょっとパッとしなかったSpot. Usの記事が初めてニューヨークタイムズに載りました。その経緯がちょっと面白いのです。

Spot. Usのコンセプトは他のNPO報道機関とは変わっていて、プロ(セミプロ級も?)のフリーランスジャーナリストが自分の取材したいテーマを提案し、市民から取材費を寄付(少ない人なら5ドル。20ドル前後が多い)して貰うというものです。Community FundingとかCrowd Fundingなどと呼ばれます。希望する取材額に達すれば取材し、Spot. Usのサイトに掲載します。Community Funded Reportingと言うようです。

1年前にスタートし、西海岸のベイエリア中心の比較的身近なテーマが提案されていたこともあってメジャーデビューとは縁遠かったのですが、Lindsey Hoshawさんによる太平洋上の巨大なごみの渦巻き地帯を取材した記事がタイムズに採用され、サイトには現場の迫力ある写真を集めたスライドショーとともに9日に、本紙には10日に掲載されたのです。

Hoshawさんは、9月に予定されていた現場調査船への同乗は認められていたものの、3週間の船旅に要する費用は保険なども含めて1万ドル。6月までスタンフォード大学の学生だったHoshawさんにローンはあっても貯金はなくて、7月にSpot. Usに駆け込んだというわけです。

しかし、Spot.Us側では、全部の案件でそれまで総額で3万ドルしか集められなかったことから、目標額を抑えてその60%の6000ドルに設定したところ、なんと3週間足らずでクリアしたのです。途中からFacebookのClausesという募金システムにも登録して2500ドルほどに達していますし、タイムズからは写真だけで700ドルが約束されていて、記事分も別途支払われるようですから、まあ、1万ドルに近い額には達したようです。

こういう風にトントン拍子に進んだのにはわけがあります。実は昨年秋にタイムズの編集局次長がスタンフォードにインターンのリクルートに行って彼女に出会い、彼女の海洋ごみの記事企画に関心を持って、科学部長に連絡するように勧め、そうしたら科学部長も乗り気になってくれたという伏線があったのです。原稿料は700ドルかそこらしか出せないかわりに、Spot.Usに登録の際、タイムズが応援していることを書いても良い、という話になっていたんですね。だから6000ドルというSpot.Usにしては超高額の目標額も楽々だったわけです。

不景気で記者レイオフを繰り返すタイムズですが、やっぱりブランド力は高いことを実証した形ですが、そこまで追い詰められているタイムズが従来の編集スタイルを大胆に変えつつあることも彼女には幸いしたようです。タイムズのPublic EditorであるClark Hoyt氏はタイムズに掲載したコラムで「タイムズにとっても、ほんの数年前ですら考え付きもしない世界への新たな一歩だ」と書いているほどです。

また、Hoyt氏はタイムズの経営陣と編集幹部とで、まともな財団が費用を負担するようなページやニュースカテゴリーを設けることも議論したが、アプローチしてくる財団はなかったことまで明かしています。生き残りに必死なんですね。

正社員の記者が次々職場を追われる米新聞界。外部の血に頼る傾向は強まる一方でしょうから、NPO報道機関の存在感はますます強まり、既存マスコミとの提携や協定を結ぶケースが増えてきそうです。