28日から全世界で開始されたNYTのオンライン課金、知名度だけでなく、オンラインでも群を抜く存在だけにその行方に世界的な関心が集まっているようです。特に話題になっているのが、料金設定でしょう。日経のWeb刊がモバイル対応なしで年4万8千円とベラボーなのを別にすれば、スマートフォン、iPadでのアクセス込みで年455ドル(4週あたり35ドル)というのは米国メディアでは飛び抜けて高くて批判もある。その一方で、Paywall(課金の壁)には意図的とも思える抜け穴だらけという、一見すると矛盾する仕組みですね。
高すぎる、という声に応えてか、昨日になって、突然、ディスカウント料金がネットに載りました。最初の4週間に限ってですが、ウェブ+スマートフォン15ドル、ウェブ+iPad20ドル、ウェブ+スマートフォン+iPad35ドル(いずれも4週間あたり)を一律99セントで提供するというのです。おまけに、大学向けに、教職員、学生は大幅に安くする、いわゆるアカデミック割引も近々、導入するとも告示しています。
他方、月20本までは契約なしでもOK、そこを超えたら購読契約を、というメーター制。実際には契約しなくてもいくらでも読めそうです。まず、ソーシャルメディアやブログからのアクセスは20本の枠に勘定しない件。これは一見、たとえば知り合いのFaceBookページやTwitterで、たまたま紹介されたNYTの記事をリンクを辿って読めるだけかと思いそうですが、実は違います。なんとファンの数が120万人を越すNYTのFaceBookファンページには、その日のオススメ最新記事へのリンクが30本ほどあります。またTwitterの@NYTimesは300万人以上のフォロワーを抱え、そこには最新記事へのリンクがズラーッと並びます。技術的に疎いのでどういう仕掛けかは知りませんが、Twitter上にはユーザーの誰かが作ったNYT最新記事へのリンク集がありますが、ホンモノで間に合うせいかフォロワーは今のところ2千人にも達していません。
まだあります。NYTに登録するとメールでニュースレターを毎日、受け取ることが出来ます。ニュースレターの種類は実に豊富で、内容も細かく指定できます。これにも最新記事の見出しとリンクが満載なのですが、これからのアクセスも月20本の制限外なのです。登録は無料ですので、是非、お試しを。また、見出しは全て見られるので、興味のあるものはコピーしてサーチエンジンで検索すれば、お目当て記事に辿りつけますが、NYTでは、その許容件数を1日5本としています。でも、試していませんが、複数のサーチエンジンを使い分ければ、10本、15本、20本と増やせるはずです。同様に、月20本のアクセス制限も、4種類のサーチエンジンを使えばリミットは80本になるわけです。
これだけ抜け道を用意してるのはなぜか。それは、ソーシャルメディアやサーチエンジンなどを使ってまでの無料にこだわらない一定の有料購読者が見込める一方、それ以外には無料アクセスの道を開いて、これまで同様のアクセス数を確保しようということでしょう。ページビューは広告収入に直結します。多少のオンライン課金収入があっても、アクセス数激減で広告収入が減っては元も子もありませんから。そして、NYTはもっと先を見ているのかも知れません。
前回のエントリーでは、ザルツバーガー会長の「残された問題の答えは、このbetが2015年、2020年、あるいはもっと先に期待の成果を出せるかどうかで決まる」というNYTの記事にあった発言を紹介しました。記事では、この「残された問題」についての言及を控えていましたが、これは、昨年9月8日に、会長がロンドンでのメディアサミットで「We will stop printing the New York Times sometime in the near future」と発言したことを意識していることはほぼ間違いないでしょう。そこで、「Monday Note」のFrederic Fillouxは<The NYT’s Melting Iceberg Syndrome>と題する最新のエントリーで、その課題への試算をしてくれていますので、その一部をご紹介します。
「新聞は氷の塊で、今、徐々に溶けつつあり、NYTがどんなに巨大な氷塊であろうと溶けつつあるのだから手を打たなければならない」というのが問題意識。米国の新聞の広告収入は2005−2010年で紙とオンライン合計で48%も減少しました。オンラインだけなら50%伸びてますが、52%も落ち込んだ紙の分をカバー出来ないのです。オンライン広告の規模はまだまだ小さい。だから、新聞経営者はオンライン課金に目を向けざるを得ない状況にあると指摘します。
NYTの収入構造は、販売が6.84億ドル(総収入の44%)、広告が7.8億ドル(同50%)。この比率は、米国の新聞が通常80%を広告収入に頼っているのとは一線を画す健全な構造です。なぜかというとNYTの日曜版がおおいに貢献しているからです。そこで彼の試算は日曜版に注目して、日曜版の発行は残すことを前提に行われているのが特徴です。日曜版がどう貢献しているか。発行部数は平日版88万部に対し54%も多い135万部もあり、しかも、一部5-6ドルもします。(平日版は2ドル) 分厚い日曜版(昔、ニューヨークで勘定したら600ページあった!)の広告収入はNYTトータルの50%に達すると見られるそう。ざっというと日曜版と平日版の収入は五分五分らしいのです。
そこで、日曜版を残し、平日版を停止したらどうなるか。細かいことは記事をご覧頂きたいのですが、平日版停止で印刷はしなくても、日々のニュースはオンラインで発信すれば有料購読者やデジタル広告が若干増えそうなので、収入は半減せず約10億ドル程度になるとするのです。一方、平日版停止でNYTメディアグループ3094人の相当数が削減できるとし、このうち記者、編集者は1150人ですが、800人もいれば質は落ちないだろうと指摘します。結局1500〜1800人規模で世界の5千万人にリーチし、10億ドルの収入があれば、平日版をやめてもやっていけようと結論づけています。そうなるのはいつか。Fillouxは具体的なタイムラインに言及していませんが。
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