6月の記事「消費税引き上げと『新聞』の行方」では、ネットでニュースを得る若者を中心に新聞「紙」離れが進む中で消費税増税が実施されたら、価格転嫁はとても出来ないので「軽減税率の適用」を新聞社が一致して求めているという話を紹介しました。

日本では、新聞購読料引き上げは、即、部数減という方程式が新聞経営者の常識になっているようです。朝日、毎日、読売の大手全国紙の月極購読料は3,925円ですが、 これは実質20年近く上がっていません。しかも3紙、横並びです。ちょっとでも他紙より高いと購読を止められるという恐怖があるからでしょうか。

ところが、グローバルマーケティングコンサルタント大手のSKP(Simon Kucher&Partners)<A premium model is your best hope> つまり「割高料金こそ最も期待できる」という、日本じゃ考えられない調査結果のプレスリリースを公表したのです。(より詳しいサマリーはこちら

SKPはドイツが本拠だそうですが、世界23箇所にオフィスがあり、今回の調査はニューヨークとボストン事務所の二人が行いました。彼らは、まず英国の高級紙について調べました。それによると、2007 年から2010年にかけて、タイムズは54%も引き上げた結果、部数を24%減らしましたが、販売収入は16.7%も増えたということです。

同様に、ガーディアン、インデペンデント、テレグラフの3紙はともに43%の値上げで、それぞれ部数を19〜25%減らしましたが、販売収入は7〜16%増やしていました。大幅な値上げが行われた結果、相当な部数が失われるけれど、販売収入はそれを補って余りあるということが分かったのです。

また、米国の上位25紙についても調査したそうですが、その一部はこれです。

表は、左から、新聞題字の下のカッコ内は値上げ時期、一部売り価格の変化、同時に月極価格改定も実施したかどうか、値上げによる販売収入の増え方、です。たとえば、一番下のボストン・グローブの場合、2009年に一部75セントから1ドルに値上げし、宅配料金も引き上げた結果、販売収入が9%増えたということです。

新聞業界は困難な時代にあるからこそ、値上げで(たとえ部数が多少減っても)収入を増やすべきだという主張はこうした事実から導かれたわけです。そして、同時にこんなメリットも挙げています。値上げで、忠誠心がなく、値段に敏感な読者が消え、その新聞を評価し他に切り替えない読者が残り、値下げ競争がなくなり、販売収入が増えるので、デジタル戦略に投資する余裕が出ると。逆に値下げスパイラルに陥れば、部数が増える見込みが全くなく、販売収入が減るだけだと戒めています。

こうした観点から、SKPの二人は、AOLとKODAKの例を引いています。ISPとしてのAOLはダイアルアップ接続時代に躍進しましたが、2001年当時、ブロードバンド攻勢を受けていま した。そこで、AOLは値下げどころか値上げして、1億ドル近くの資金を獲得し、それを投資して生き延びたとします。一方、KODAKは富士フィルムとの 競争で値下げ戦略を取り、その結果、収入を失い、デジタル転換への投資が出来ずに破産したと見ます。

しかし、新聞の場合、部数と広告収入は不可分の関係にあります。部数が減れば広告単価も下がり、収入も減る。その点について、二人は「各社は、値上げが広告収入の減少を補えるかを事前に調べて置く必要がある」とやや自信なげです。

ただ、ニューヨーク・タイムズの場合、2012年第2四半期決算で、販売収入が広告収入を上回ったことを挙げて、「新聞はデジタルのプラットフォームに広告を奪われている以上、重点を広告から販売に移すしかない」と断定しています。たしかに、10年ほど前には、「米国の新聞の収入の7−8割は広告収入」というのが常識でしたから、変化は明らかです。

そして最後にはこうありました。「料金引き上げは、すでに貧血状態にある読者層を、さらに縮小するかも知れない。しかし、なんとか商売をやっていく最高の希望(best hope)でもあるのだ」

デジタルに押されて、新聞広告がジリ貧になる一方の中で、一体、どこまで値上げしようというのでしょうか。このブログでも紹介しましたが、2004年末にリリースされたフラッシュムービー「EPIC2014」の最後の予言をまた思い出してしまいました。

2014年、オフラインとなった紙のニューヨーク・タイムズは年寄りと金持ちだけが読む時代になる