アメリカの新聞業界のニュースといえば、廃刊とか広告収入激減、あるいは記者減らし、配達回数削減、本社売却・郊外移転とか冴えない話ばかりが続きますが、久々に前向きなニュースです。

全米新聞協会(Newspaper Association of America=NAA)が8日付で公表したレポート「The American Newspaper Media Industry Revenue Profile 2012」によると、広告収入は相変わらずの減少傾向が続いていますが、販売収入は減少に歯止めがかかり、2003年以来、初の対前年比で増加に転じたというのです。一体、なぜなのか。

NAAの統計数字によると、米国日刊紙の販売部数のピークはちょうど40年前の1973年で、6千3百万部でした。それが、いまや2千万部近く減っていて、2011年の数字ですと4千4百万部あまりに過ぎません。NAAのNewspaper Circulation Volumeというページに、戦前の1940年以降の数字がありますが、2011年の部数は1945年レベルで、近年も漸減傾向が続いています。

部数が減っている上に、リーマン・ショック以来、広告収入が減り続けているのに販売収入が増えたのは、一言で言って全米的にデジタル課金が進んだからです。

昨年5月の当ブログでも紹介しましたが、今や「新聞部数」は、有料のデジタル版を込みで言うのが新常識になりつつあり、従って従来は紙の新聞の売上額=販売収入を表していたNAAの「circulation revenue」にも、有料デジタル版の売上が合算されているのです。

で、その総額は、2012年比5%増の104億ドル。ざっと1兆円。その5%押し上げに最も効いたのは、多くの新聞社が採用したという「紙とデジタルのバンドル課金制」でした。このバンドルによる販売収入は499%アップ、つまり5倍になったということです。また、紙と組み合わせないデジタルだけの課金制での販売収入は275%アップ、約3倍増。

一方で、「紙」だけで見ると、販売収入は14%も減少しているとのことですから、いかに米国の新聞がデジタル課金に雪崩をうって向かっているかが覗えます。

デジタル課金で販売収入が上向いたとはいえ、米国では新聞経営の第一の柱である広告収入は、デジタル広告が多少増えているものの、全体の減少トレンドには歯止めがかからず、対前年比6%減。その中で、NAAレポートは「数年前には殆ど存在しなかった新たな収入源」に期待を寄せています。

どんなものか。その一つが<Digital agency and marketing>。新収入源に回答した新聞チェーン15社中9社が行なっているそうで、その中身は地元企業の製品をいかに売り込むかの手助けをする仕事だとか。デジタル、とりわけソーシャルメディアやモバイルをいかに活用するかを中心に行い、9社では前年比91%の伸びだとしています。また、e-Commerceには15社が関わり、対前年比20%増モバイル広告は、まだ総収入の1%に届きませんが、対前年比で倍増したとのことです

このほか、新聞の配達網を活用した他社の商品配達、イベント開催、商用印刷などもそこそこの成果を上げていることも報告されていますが、これら非デジタルの試みはいまいちパッとしないようです。

こうしてみると、新聞経営の未来は、好むと好まざるにかかわらず、いよいよ多様なデジタル頼みの色合いを強めていくということなのでしょう。当たり前といえば当たり前ですが。

なお、今回のレポートは、部数では全米の40%、収入では半分を占める17の新聞チェーン(計330紙)を対象にサンプル調査を行なって、全体を推計したとのことです。