昨年1月に、「100年前に南極大陸で新聞が発行されていた!」という話を紹介しました。英国のスコット大佐と4人の隊員が南極点からの帰路で遭難して100年、実は探検隊を運んだ船の中で新聞が12号発行されていたという興味深い話でした。

で、今回、まず最初にご紹介するのは、80年以上も前に、米国カリフォルニア州のサンクエンティン(San Quentin)刑務所で、受刑者による新聞が発行されていたという話です。その名は「WALL CITY NEWS」(塀内新聞?)。題字上には読みにくいかも知れませんが“The Only Newspaper in the World Published Within the Walls of a Prison”とあります。

その4ページに亘る内容は、ここに取り込まれていますので、御覧ください。最終面はスポーツになっていて、刑務所内運動会のいろんな記録が掲載されていて、当時の様子が伺えます。その下の刑務所最高記録集の中で、100ヤード競走が10.2秒とあるなど興味深い記録です。当時の世界記録は9.5秒だったそうですから、相当なスプリンター受刑者がいたんですね。

実は、この新聞の現物はサンクエンティン刑務所には残っていませんでした。昨年6月に、カナダ・カルガリー在住のLarry Buchanさんが同刑務所に、昔の新聞を父親から貰って保存してるとメールで知らせてきたのです。

Buchanさんの父親は、職探しでサンフランシスコに出かけ、フェリーのベンチに置かれたこのWALL CITY NEWSを見つけ、持ち帰ったとのことで、現物は刑務所に譲られ、それを取り込んでサイトにアップされたわけです。

ではなぜBuchanさんが刑務所に連絡を取ったのか。それは、このサンクエンティン刑務所が、受刑者自身による刑務所新聞「San Quentin News」(以下SQNと略)を2008年に復活させ、ネットにも掲載していたからです。(そのPDF版の最新号はこちら)。月一回の発行で20ページ建て。ざっと見てみましたが、なかなかの充実ぶりです。一種の壁新聞みたいなものを想像してはいけません。

それもそのはず、SQNの製作には地元に住む元AP記者とか、地元紙の元オーナーとかプロのジャーナリスト4人がアドバイザーになって協力しているからです。スタッフは10数人。編集主幹と編集長はともに終身刑だそうですが、みんないい顔をしています。(編集主幹は後列の左から4人目、編集長はその右。クリックで拡大します)

現在の印刷部数は1万1500部で、刑務所内や近隣のボランティアコミュニティはじめ州内33の刑務所のうち15箇所にも送付されています。そして、今の彼らの望みはSQNを州内全ての刑務所にいる受刑者と主な政治家たちにも届けたいことだそう

しかし、大きな障害があります。かっては部数もいまより少なく、印刷も刑務所内の施設利用や紙代などが無料だったそうですが、カリフォルニア州の財政赤字で2010年で中止、州の補助はなくなりました。今は寄付金を集めてギリギリの予算で外部で印刷している状況のようです。その費用は配送費や備品なども含めて年2.5万ドルから3万ドルに達するといいます。(ネットでの寄付集めのサイトはここです)それを全刑務所に届けるとなると、費用はさらにかさみます。

そこでどうするか。この話を聞きつけたカルフォルニア大学バークレイ校の大学院Haas School of Businessが乗り出しました。そこのCenter for Nonprofit and Leadershipというプログラムを学ぶ大学院生6人がSQNにコンサルタントとして派遣され、どのように収入を増やし、受刑者スタッフの夢を実現するかを探っているそうです。そして、その最終提案は近々に出ると、バークレイ校の独立学内新聞「The Daily Californian」が伝えています。

最近は切ない話ばかりの米国新聞業界ですが、大学院まで巻き込んで新聞パワーを拡大しようという塀の中からの動き、なんとなく元気づけられます。そして、どんな提案を大学院生コンサルタントが出してくるのかも楽しみなことです。それに、写真に映った編集スタッフはアドバイザー以外、全員「重犯罪人」なのに、新聞に関わることでとてもそうは思えない、いい表情になってるってのも嬉しいことです。