「胎動」と言っても、最近、あちこちで取り上げられている、米国のスター記者が独立して新たなデジタルメディアを立ち上げているということではありません。(この動きについては佐藤慶一さんの記事が網羅的でまとまっています)

昨日、ニューヨーク・タイムズの編集主幹になったディーン・バケ−氏がニューオーリンズのローカル紙からシカゴ・トリビューンやロサンゼルス・タイムズなどでも働いていたように、米国では記者がより良いポストを求めて異動するのは当たり前だからです。

その意味で、新聞社の経営がどこも厳しくなっている米国では米国で、スター記者がよりよい待遇とより豊かな表現の可能性を求めてオールドメディアからデジタルメディアに”脱出”しようと考えるのも当然と言えば当然でしょう。

が、ここで紹介するのは、オールドメディアからの脱出劇ではなく、Digital Nativeな6つの著名メディアサイトが、「ウクライナ危機報道」でコラボレーションを14日から開始したことです。そのプロジェクトに参加しているのはVice、Mashable、Digg、Quartz、Mother Jones、Breaking News Online(NBC系)。彼らは一体、何を目指しているのでしょう。

中心的存在はVice News。その編集主幹Jason Mojica氏が14日付けの<Welcome to #UkraineDesk>と題したブログで紹介しています。長文ではないのでお読み頂きたいのですが、大略こんなようなことを書いています。

プロジェクトの目的は、参加サイトが提供するスマートで独自のオリジナルコンテンツをまとめ、配信することで、緊迫するウクライナ情勢に関する最も幅広く、かつ多面的な視点をユーザーに提示することだ

一体、どうやって?それは、Mojicaのブログの標題にある<#UkraineDesk>がキモです。各サイトは、ウクライナ情勢に関する良質な記事にハッシュタグを付けて(#UkraineDeskとして)Twitterに投稿します。そしてこのハッシュタグの付いた記事は<Ukraine Desk>のアカウントに集約されて、ユーザーはそこで多様な最新情報を一覧できるわけです。

ここで参加サイトの性格を手短に言うと、Viceは日本も含め世界で展開する若者向けニュースサイトで、1994年の創業。スタートはカナダの雑誌で、現在は多様な事業展開をしていますが、とりわけ斬新で豊富なオンラインビデオ映像に特徴があります。Pew Research CenterのState of the News Media 2014によるとスタッフは1100人に達し、この6サイトの中では抜きん出た存在です。

Mashableソーシャルニュースの最大手の一つ(スタッフ70人)で、昨年、ニューヨーク・タイムズのデジタル戦略担当の編集局次長だったJim Roberts氏を編集主幹に迎えてからシリアスなニュース性を一段と高めている存在です。ちなみにRoberts氏がNYTを去るときのTwitterフォロワーは7万7千でしたが、新たなアカウントになってからのフォロワーは13万5千にも達していて、存在感は抜群です。

Diggは、トラフックで人気度をランキングするニュースアグリゲーターで、Mother Jonesは、私は読んでいませんが、Smart,Fearless Journalismと謳っているように辛口の政治コメントに特徴があるようです。NBC News Digestの一部門であるBreaking Newsモバイルと分刻みの速報に特化しているようです。Quartzは、このブログでも紹介しましたが、当初からnative広告頼みとして話題を呼びました。ニュースの切り口とデザインが秀逸です。

このように、それぞれが異なる特徴を持った6サイトの動き。GigaOmが伝えるところによると、そのきっかけは、Viceの編集者たちが、ウクライナ報道という価値のある仕事を行っている新興メディアとコラボすれば、互いにメリットがあるはず、ということで、ほんの数週間でスタートしたとのことです。(Mother Jones以外は本社がニューヨークで、話が早かった?)

このスピード感もオンライン専門メディアならではですが、さて、この先に何があるのか。先のJim Roberts氏は、インタビューに答えて言っています。

「この試みがいつ終わるかは承知していないが、これをハッシュタグPlay以上にものに、というのが私の切望するところだ。今は一つのステップを登ったところ。こういう方法で我々は知識体系に貢献していると思っている」

GigaOmによれば、Roberts氏と同様、ハッシュタグで終わらせず「他のトピックやアプローチに関してコラボレーションする方法を見つけたい」とする関係者が何人もいたようです。そしてこういうセリフもあったとか。「デジタルイノベーションを積極的に受け入れるということで、我々は志を同じくしている」

このプロジェクト、始まったばかりで、これからどんな相乗効果を産んでいくのかはわかりません。しかし、特徴あるオンラインニュースサイトが協働して、ひとつのトピックについて良質な記事を競って多面的に提供するショーケースのような試みは、競争が大前提の既存メディアでは到底実現不可能なことです。そこに、デジタルメディアならではのジャーナリズムの大きな可能性と展開があるように思えてなりません。