日本ではもう話題になることもめったにないPodcastですが、米国ではまだ健在のようです。で、その中でも昨年、爆発的な人気を呼んだというのが10月から12月にかけての「Serial」の「season one」でした。

題名がそっけない感じがしますが、これは、制作母体のSerialが、ラジオ番組This American Life(TAL)からスピンオフして、最初に作った番組だからです。そして、12回連続(serial)の番組は8,000万回もダウンロードされたとか。

最大の特徴は、その内容がpodcastでは異色の調査報道だということです。一人の女性記者が15年前の女子高生殺害事件を掘り起こし、被害者の元ボーイフレンドに終身刑の判決を下した裁判のあり様に疑問を投げかけた結果、先月18日、メリーランドの特別控訴裁判所再審に大きく道を開く決定を出すに至ったのです。Podcastの威力恐るべし!

Serialのサイトに、season oneが生まれた経過が記してあります。それによると、1999年1月13日にメリーランド州ボルチモア郡のWoodlawn高校の最上級生Hae Min Leeさんが失踪しました。その1か月後、市内の公園の林の中で彼女の遺体が発見されました。絞殺でした。そして6週間後、17歳の元ボーイフレンドが逮捕され、終身刑の判決が下されます。(先の特別控訴裁の決定を見ると、第一級殺人、誘拐、窃盗の罪でした。控訴しましたが退けられ、刑が確定、服役中のようです)

その元ボーイフレンドAdnan Syed容疑者は終始、容疑を否定しました。証拠は乏しかったようですが、Syed容疑者の友人の証言―遺体を埋めるのを手伝った―が決め手となっての重い判決でした。

そして、今も無実を訴え続けるSyed受刑囚のことを、TALのSarah Koeing記者が知ったのが2年ほど前。彼女はあらゆる関連法的文書や捜査官の記録などを調べ上げ、録音された証言や尋問を聞き、15年前にSyedとLeeの間に何があったかを覚えている人すべてと話し合ったそうです。

取材15ヶ月。Koeing記者は確信します。裁判で明らかにされたことより、はるかに複雑な話が隠されている、と。陪審員も世間でも聞かされていないことがいっぱいある。当時の高校の状況、警官への証言の変更、先入観、大雑把なアリバイ、わずかな法医学的な証拠ーーー

かくて、事件の真相を解明する番組作りのためにSerialのチームが編成され、season oneが動き出しました。そのepisode 1 「The Alibi」が配信されたのは昨年10月3日のことでした。

番組ホストはもちろん、Koeing記者ですが、そこはpodcastですから、ただ平板に調査報道の内容を彼女が語るだけではありません。彼女はTALに入る前は、ボルチモア・サンなどに在籍した新聞記者でしたが、ラジオ番組を作るTALでの経験から、取材過程を録音する習慣を身につけたようで、随所に、そうした関係者の証言などが組み込まれ、臨場感溢れる作りになっています。

一回の番組の長さは大体50分前後で、最終回episode 12 が配信されたのは12月18日でした。今でも、podcast以外にも、Serialのサイトや、iTuneSoundcloudStitcherなどのサイトで直接聞くことが出来ます。

人気に加え、調査報道というジャンルを初めてPodcastに持ち込んだことを評価され、今年4月には、放送界のピュリッツァー賞といわれるPeabody賞を受賞しました。<An audio game-changer><The first unquestionably mainstream podcast>という最大級の褒め言葉とともに。

そして、ついにメリーランドの特別控訴裁の決定です。無実を訴え続けているSyed受刑者の弁護団が、「殺人が行われたとされる時間にSyed君を図書館で見た」「検事からそのことを証言しないように言われた」という証人の存在を理由に再審を申し立てたところ、特別控訴裁が、15年前に終身刑を下したボルチモア巡回裁判所に、その証人の主張を聞くように、と命じたのです。

Serialの報道が社会的に大きく注目されたことが後押ししたのかも知れません。その目撃証人Asia McClainさんのことも、episode 10と12で取り上げているからです。(私のヒアリング能力ではpodcastを聞いての確認は無理ですが、Koeingさん自身がテキストで言及しています) 素晴らしい。

ただし、これによって、再審開始が決まったわけではありません。しかし、大きく前進したことは間違いないでしょう。一見、古く見えたメディアも使い方次第では、強力なメディアになり得ることを教えられます。要は作り手の熱意。新聞もテレビも頑張らねば。

なお、Serialでは、新たに2つのseasonモノを用意していると読者へのメールで公表したとのことです。英語のヒアリングに自信のある方はどうぞ期待してお待ちください。