カナダで、新聞の未来を占うような動きが先週に相次いで明らかになりました。130年の歴史のあるフランス語大手紙La Presseは、平日版(月曜−金曜発行)の印刷は年内限りとし、経営の先行きを2年前から始めた無料のタブレット版用アプリLa Presse+に委ねることになりました。(ただし、紙の土曜版だけは残ります。おそらく広告が集まりやすいから)  また、120年以上の歴史を有するカナダ最大の英字日刊紙Toronto Starも、La Presseの技術協力で、こちらも無料のタブレットアプリ<Star Touch>を15日からローンチしました。紙の新聞は廃止しないものの、2千万ドル以上を費やして、社内体制をタブレット版重視に切り替えたとのことです。

両紙の動きは、従来から経営を支えてきた紙の新聞の広告収入が尻すぼみになっていることから、活路をタブレット版のアプリに求めたようです。幸い、先行したLa Presseでは平日版を廃止する決断に至るほどの広告収入増を果たしたとのことで、これを見て、かってメーター制の課金を導入したものの失敗した経験のあるStarが追随した格好です。

4千万ドルを投じ、2013年4月に提供を始め、30ヶ月を経過したLa Presee+は順調のようです。発行人によると、この間に、紙の部数は16万1千部から8万1千部に半減したものの、タブレット版の読者数は紙の読者の何倍にもなり、タブレット版からの収入は同社の全収入の7割を占めるに至ったとのことです。

また、Star紙のライバルGlobe & Mail紙の記事によると、La Presse+の読者の24%が35−44歳、いわゆるミレニアルズ世代で、平日に46万人の人がアプリで読み、その時間は平均40分に達するそうです。週末はさらに増え、土曜が60分、日曜が50分だとか。

私のような高齢になると「紙」の新聞こそが新聞だという感覚ですが、ミレニアルズ世代以下は、「ニュースはデジタルで」の感覚が主流なのでしょう。そして、その世代こそ購買力があり、広告の対象になりやすい。

そして、広告主自身も、インターネットへの広告出稿を増やしている中で、新聞社のタブレットアプリは有力な受け皿の一つになり得るという考えなのでしょう。

CBCの記事では、モントリオール大学ビジネススクールの教授は「La Presseは紙の新聞を終わりにしつつある。なぜなら、広告主がタブレット版に付くと確信しているから。これは変化の新しいサインだ」と述べています。

また、メディアアナリストのケン・ドクター氏はGlobe & Mailの記事では「La Presseは最終的には、今は紙版より安いタブレット版の広告価格を紙版並みに引き上げたいのだろう」との予測を述べています。 そう出来れば、La Presseとしても万々歳、それに倣って、大枚を投じて100人規模の”タブレットチーム”を編成したというStar紙の決断も正しかった、ということになるかもしれません。

しかし、問題はあるようです。その最大のものは、タブレット人気がいつまで続くかという点。スマホの画面が年々大きくなり(今はPhabletという言い方もあるそう)、その一方でカナダではタブレットの売り上げの伸びが鈍化しているそうです。そうなれば、タブレット一本足打法はリスキーだという指摘です。

また、La Presseの発行人が言っているような、毎日1時間近くもタブレットで記事を読んでくれるユーザーが増えるのかどうか。閲覧時間が短ければ、広告効果も薄れ、広告も集まりません。そして、いま、注目を集めている広告をブロックするアプリの影響はどうなのか。さらにLa Presseは競争相手が少ないフランス語新聞ですが、競争の激しい英語ニュース市場で、Star紙のアプリStar Touchがどれだけの存在感を発揮できるのか。

課題はありますが、Star紙の発行人はこう決意を語っています。 「もし、タブレットだけでダメなら、スマホでのビジネスモデル開発に今以上に働く」「これが潰れるなんて信じないが、我々はデジタルワールドの中で前進するのみだ」

そういえば、先日、カナダの新聞の10年後について暗い事態を予測する記事がありました。「2025年までに、カナダの紙の新聞は残っていたとしてもほんの一握りだろう」。 そこで引用されているのが、カナダのメディア産業のアナリストKen Goldsteinさんが今年8月に公表した“Canada’s Digital Divides,”というレポートにあるこのグラフです。

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トレンドラインを、このグラフではブルーの線で示した実績のうち、過去5年間で見るか、過去10年間で測るかによって違いますが、いずれにしても2025年には紙の新聞の実売部数がカナダの全世帯に占める割合は5%か10%まで落ち込むということを示しています。 あくまでトレンドからの推定にすぎませんが、実売部数が世帯数に占める割合が20年前の50%から、昨年は20%まで落ち込んでいることを見れば、あながち的外れとは言えないでしょう。La Presse紙、Star紙の組織としての生き残りを賭けた取り組みが注目される所以です。