次々、登場するニュースに特化した新興デジタルメディア。日本では「新聞など既存メディアの上前をはねているだけ」「自前取材力は既存メディアに劣る」という見方が強いのではないでしょうか。

実は、私自身もなんとなくそう感じていました。それを覆すきっかけが半年前にスマホで見た「Agafia’s Taiga Life」というドキュメンタリービデオでした。

若者に爆発的な人気を呼んでいるSnapchatを紹介する当ブログ記事のなかで紹介したのですが、このドキュメンタリービデオは、取材クルーがニューヨークからシベリアの雪深い冬のタイガ地方に飛び、人里から250キロも離れた地で一人で暮らす高齢の女性を取材した興味深い力作です。

その制作者が既存のテレビ局や制作プロダクションじゃなくて新興メディアのVice Mediaだっていうことで、デジタルメディアへの認識を改めたのです。彼らは1,500人のスタッフを米国を含め世界26カ国に配置 しているというではありませんか。(同社の就職案内では世界36箇所にオフィスがあると言っています)

日刊紙29紙を擁する米国の新聞チェーンMcClathcyは、経営難から海外支局を全て年内に閉鎖するとのことです。そしてテレビ視聴の形態も、米国ではケーブル局との契約を止めて、ストリーミングサービスに移りつつあるという、いわゆるCord Cuttingについても何度か紹介しました。(主な代替サービスはこんなにあります)

新聞に加え、テレビも難しい局面にあるように見えます。しかし、そのテレビの世界にViceやBuzzFeed、HuffingtonPostというデジタルメディアを代表する面々が参入し始めているとのことです。”逆流”にも見える動きはどういうことなんでしょう。

その動きは最近のWall Street JournalがNew-Media Companies Shift Attention to TVと題する記事でまとめてくれています。

記事中の図表にもありますが、Viceの市場評価額は25億ドル、BuzzFeedは15億ドル、HuffPoは3.15億ドルです。ベゾス氏によるワシントンポストの買収額が2.5億ドルでしたから、いかにデジタルメディアの評価が高いかがわかります。

テレビへの進出のあらましは、上の表のまとめられていますが、既存メディアのアンチテーゼ的存在と見られた新興デジタルメディアの巨人たちが、テレビに関心をもつのは「収入源の多様化」のためのようです。

既存テレビも厳しい状況とはいえ、記事によると広告収入は今年700億ドルに達すると見られ、オンラインビデオのそれは78億ドルなので、はるかに巨大なビジネスです。そのビジネスから、制作資金に事欠かないデジタルメディアがさらなる収入を得ようというのは「論理的な次なるステップ」だと記事は指摘します。

Viceなど上に挙げた三大デジタルメディアはいずれも記事や動画の視聴は無料です。収入源の殆どは広告頼み。しかし、自前でドラマやドキュメンタリー番組を作り、テレビで放映する仕組みを構築すれば、数多登場しているストリーミング配信会社、動画配信するモバイル企業、あるいは買い付けに来る海外メディアからもライセンス権という広告とは別の収入の道が開かれる、ということです。

その一例として、記事ではViceが、すでにケーブル局大手のHBOへの番組提供協定に加え、ケーブルネットワークのA+ENetworksの一つであるH2チャンネルの取得交渉を終え、来年早々からドキュメンタリー中心のViceチャンネルとしてスタートさせるほか、大手通信会社Verison wirelessが最近始めたモバイルビデオサービスのGO90にも自社ビデオを提供していることを紹介しています。冒頭に挙げたシベリアのドキュメンタリーほどのクオリティがあれば、十分、テレビ放映や有料モバイル配信に耐えるでしょう。

また、BuzzFeedはロサンゼルスに230人のスタッフがいて、サイト向けに1週間に75本のビデオを生み出しているそうですが、NBC Universalから2億ドルの投資を受け、今後はUniversalと組んで30分のコメディや1時間ドラマを作る、とCEOのPeretti氏が意欲を語ったとか。

そのほか、日本にも進出しておなじみのHuffPo、動画山盛りで米国でも人気のDaily Mail.com、ライフスタイルサイトとして躍進中のRefinery29などのテレビ参入に向けた動きも注目されているようです。

なんだか平和な日本から見ると目が回りそうですが、本格的なデジタルニュースメディアの先駆けとも言えるHuffPoの創業者にして今も編集長のArianna Huffington女史はこう言ってるそうです。“There are tremendous opportunities to reach audiences in new ways.”ーー「新しい方法で視聴者にリーチするのに途方もないチャンスが転がってるのよ」

既存メディアに負けない、あるいは凌ぐほどの力を付けた一部のデジタルニュースメディア。まだまだ新しい動きを巻き起こしそうです。