このところ、当方のメールボックスやFacebookのタイムラインに立て続けに米国大手紙から無料や格安でのデジタルアクセスのお誘いが繰り返し繰り返し届いています。

ニューヨークタイムズ(NYT)からは、今度の日曜日、27日までの限定で「8週間無料」の呼びかけです。パソコン、スマホ、タブレット全てで利用できる「All Digital Access」の料金は週8.75ドルですから計70ドル分の大盤振る舞いですね。

また、最近はNYTとアクセス数でつばぜり合いを展開しているワシントンポスト(WaPo)からは、なんとDigital Accessが「1年間19ドル」というびっくり価格の提示です。Regular Annual Rateの80%offを謳っていますが、日本円にすると月180円弱の計算です。

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シカゴの有力紙Chicago Tribuneからは、Digital Access+スマホへの速報+eNewspaper(新聞のレプリカ版)の毎朝配信ーーの3点セットで13週13ドルという大サービスの案内も届きました。

日本の場合、電子版を単独で購入すると月額料金は日経4200円、朝日3800円、毎日3456円と、紙の新聞料金とあまり変わりません。いま、キャンペーンをやっている社もありますがそれは紙の新聞購読者向けのささやかなものです。日米では電子版拡張に向けるマインドはそれこそ月とスッポンほど違うように感じます。

その理由はひとえに、紙の新聞の追い詰められ度が、米国では深刻だということでしょう。たとえば、NYTの紙の平日版部数は20年ほど前の1995年には150万部でしたが、昨年夏の段階では62万5千部まで減ったということです。率にしたら6割減です!

これは、元ナイトリッダー副社長でメディアアナリストのKen Doctor氏の記事にあったのですが、NYTは、有料のデジタル読者を100万人以上獲得して、紙の読者と合わせた有料読者の合計はかっての150万部を凌いでいる、そしてこれからもそうした努力は続く、と指摘しました。

おそらくは、紙の新聞はゼロに向かって進まざるを得ないとすれば、いかに有料のデジタル読者を世界中から集めるのか、がNYTやWaPoなど有力紙の戦略でしょう。英語紙というのは有利ですし。

しかし、紙の新聞がなくなり、デジタル一本槍になったら何が待ち受けているのか。元同業者として、なんだか泣きたくなるような記事に出会いました。

数日前の英Guardianの記事では、今月末で紙の新聞発行を止める同業のIndependent紙の内情について報じているのですが、オンライン専業になるにあたり、160人の記者たちのうち100人が職を失い、それどころか残った記者たちは「給料半額カット」と労働条件の改悪を迫られているというのです。

それを伝えたGuardian自身が250人の首切りが予定され、うち記者は100人だと書いています。そして、Guardianの独立ジャーナリズムを守るためにサポーター(月4.99ドル、年49ドル)になってくれ、というページさえ立ち上げてさえいます。

国は違えど、おなじ英語紙同士。こうした事態に追い込まれないように、米国の大手紙は紙の部数減を補うべく、それこそなりふり構わず、新規のデジタル読者獲得に邁進しているのでしょう。いったんオンラインで読む習慣を付けてもらえば、きっと継続してくれるだろうという思いを込めて。

大手紙の大盤振る舞いを簡単にFacebookで紹介したら、「持ってけドロボー!」って合いの手のコメントが書き込まれました。懐かしや。昔々、バナナの叩き売りのオジさんが、徐々に値を下げて、それが最終的に売れた時のセリフですね。でも、オジさんは絶対に、損してまでは売ってなかったはず。

大手紙にしても同じかな。「無料期間」や「格安期間」が終われば、正規料金の課金が待っているわけですから。あ、そういえば、私もNetflixの1ヶ月無料お試しに登録して、結局、解約せずに会員になったままだなあ。