恥ずかしながら「レーザー推進システム」って初めて知りました。宇宙船の背後に強力なレーザー光線を照射し、その反動で前進させるのだとか。
ほかでもありません、あの「車椅子の物理学者」ホーキング博士らが発表した、太陽系から最も近い恒星「ケンタウルス座アルファ星」を目指す無人探査機のことです。現在の宇宙船だと3万年かかるところ、このシステムなら、20年で行けるという話です。
新聞記事には「3日で冥王星を通過する」とありました。ということは米航空宇宙局(NASA)が目論んでいる「2030年代に火星に人間を送り込む」という計画にも大きなプラスになりそうな印象です。
ウォールストリートジャーナル日本版の記事によると、NASAは、現状では火星との往復に1000日以上かかると見積もっているようですが、このシステムなら2日もかからないでしょう。ただし、これは特殊な無人探査機の場合で、重量のある有人宇宙船の場合は1月ほどかかるようです。
行き来が楽になれば、多くの人が火星に住むことが夢のまた夢でもなくなってくるかもしれません。それを見越してか、NASAを持つアメリカでは、宇宙関連の新興ベンチャー企業が続々誕生していて、その情報を集めているNew Space Globalによれば、その数は1000社を超えているといいます。
偶々ですが、先週末の9日にも、そうした宇宙ベンチャーが集まって、マサチューセッツ工科大学主催のMIT New Space Age Conferenceが開かれました。そこで、注目を集めた一つが、RedWorksが取り組んでいる3Dプリンターを使った火星用住居だったようです。
火星用住居といえば、昨年、日本人建築家も加わったチームによる「氷の家」が、NASA主催の設計コンペで最優秀賞を獲得しましたが、これは、ロボットが地下から削り取った氷を溶かして3Dプリンターに流し込み、”氷張り”の住まいを建てるという斬新なものでした。
3Dプリンターを使うことでは共通しますが、RedWorksの案は、火星の表土を坩堝で熱して、一種のコンクリート状の物体に変え、壁や床を作ります。両者の決定的な違いは、氷の家が地表に聳える形状なのに対し、RedWorksの方は、最初に10メートルほどの穴を掘り、その穴の底にプリンターを置いて、そこでプリントアウトした床や壁を徐々に組み立てて行くという一見、泥臭いやりかたです。リーダーのKeegan Kirkpatrickによると、古代文明の知恵を借りて竪穴式のオウム貝構造だということです。
Kirkpatrickは、宇宙工学で世界一の評価を得ているといわれるEmbry-Riddle航空大学の出身のロケットエンジニアで、宇宙にビジネスチャンスがあると確信して独立した人物の一人です。氷の家のように派手さはありませんが、火星の厳しい環境に対応したものに見えます。
彼は、火星での食料のことも考えていて、FastCompanyの取材に対し、<Aquaponic>というアイディアを示したとか。これは、日本アクアポニックスのHPにある解説では「自然発生した微生物が魚の固形廃棄物を野菜の栄養素に変える働きをすることにより魚と野菜を同時に育てることが出来る再循環エコシステム」だそうです。自分の排泄物でジャガイモを栽培するという小説「火星の人」(映画は「オデッセイ」)を思い出してしまいます。
先のMIT主催のNew Space Age Conferenceで、米国、カナダの宇宙事業に関わっているアリゾナ州立大のJaken Thanga教授は「RedWorksのようなテクノロジーを火星と似た環境でテストする機会がすぐにあるだろう」と述べたそうです。小説「火星の人」は、事故で一人、火星に取り残された宇宙飛行士のサバイバルの物語でしたが、いずれ、火星が人類の植民地となり、レーザー推進の輸送船が頻繁に行き交う時代が来るのでしょうか。
まだ構想段階で、何十年もかかるかもという「レーザー推進システム」の早期実現を期待したいものです。
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