このブログで何回か言及した、ニューヨークタイムズ(NYT)のモバイルアプリNYT Nowが来週中に打ち切られることになりました。NYTの若者向け看板アプリとして期待されていましたが、2014年4月のスタートから2年余りでの撤退です。

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NYTは、契約者が100万人を超えて好調なNYT digitalに加え、さらなるデジタル収入を求めてNowの他に、NYT Opinion、NYT Cookingというアプリをほぼ同時期に始めましたが、有料だったOpinionは半年であえなく消滅、無料のCookingは有料化のメドが立たないまま、レシピを生かした食材宅配事業に転進してしまいました。

で、有料として始まったNowも、昨年5月には無料になりました。週2ドルという料金設定は、NYT digitalの最安料金のほぼ半分で、内容もアップルが選ぶ2014年のベストアプリの一つになるほどの出来栄えでしたが、契約者が2万人にも届かなかったからだということでした。それから1年余、Opinionに続く撤退。NYTという抜群のブランド力をもってしてもニュースアプリが生き延びられないとすれば残念なことです。

NYT Now誕生の狙いについて、Nowの撤退を封じるNYT自身の記事が率直に述べています。

<紙の新聞の広告収入と部数減による販売収入を埋め合わせる新たな収入源として、モバイルユーザーにNYTを拡大する最初の試みとして始まった>

NYTのデジタル展開の中心であるNYT digitalとの徹底的な差別化が図られました。ニュースを大量に提供するのではなく、ピュリッツァー賞を2回受賞したという敏腕記者をヘッドに総勢20人というチームが、NYTの記事とウェブ上にある世界各国の英文記事からそれぞれ10本を選び、元記事へのリンクを貼るだけでなく、そこに記事のポイントを簡潔に記して配信しました。

人手をかけたキューレーションニュースサービスを武器に、若者を取り込もうという作戦で、NYTとしては早期に20万人の有料購読者を想定していたとのことですが、結果は、上記のように散々。そこで広告付きの無料化に踏み切ったのでした。

当然、読者は増えますが、爆発的とはいかず、過去3か月の月間平均ユニークユーザーは25万7千人でした。ディスプレー広告の枠は3つ(今日、午前中で広告が撤収され、今は空白になっていますが)。これでは20人のチームを維持するのは難しいということでしょう。

では、なぜ、伸び悩んだのか。DigiDayの記事が2つのことを指摘しています。一つは、人々のニュースの入手方法が変化したこと。PewResearchの調査に基づくこのグラフです。

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今年2月の時点では、62%の人がFacebookをはじめとするソーシャルメディアからニュースを入手しています。2012年には49%止まりでした。その分、ニュースアプリの利用率は下がっているということでしょう。

もう一点が興味深いのですが、各個人が使うアプリは色々あっても、その使用時間には極端な差があるということです。これはComScoreの調査なのですが、各個人が一番使うアプリに、スマホの場合だと全利用時間の50%が費やされているとのことです。二つ目のアプリには18%、3番目には10%、以下、6%、4%、3%、2%と極端に減っていきます。

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またそのアプリの種類もFacebook、Youtubeはじめ、グーグルのMap、play、searchなどの著名なものばかりが上位を占めます。こうしたことからDigiDayは「だから、NYTのような確立されたブランドや洞察力にあふれた内容だろうと、どんな新規参入もアプリのエコシステムに割って入るのは困難なのだ」と記しています。

一方、メディアアナリストのKen Doctor氏の記事では、NYTの昨年の内部調査では、Nowが目指したミレニアル世代(18−34歳)と呼ばれる若者層がNowの読者の45%を占め、一方で主力商品NYT digitalのモバイルアプリに占めるミレニアルは35%と接近し、ComScore Mobilemetrixの今年の調査では、それが50%に達したというNYTの上級副社長の話を紹介しています。「主力商品に若者層をだいぶ取り込めた。だからNowを止めるのも気楽だった」というのがDoctor氏の見立て。

Nowの編集陣の思いもそれに近いのかも知れません。読者へのお別れの挨拶文にこう自負を記しています。

<我々はNowを止める。なぜなら、NowはNYTdigitalのプラットフォーム、とりわけNYTimesアプリにとても沢山のものを盛り込めたからだ。今やNYTimesアプリはNowが開発した注意深くキューレイトされた雰囲気を有しているじゃないか>