もう20年近く前の1998年のことですが、当時のクリントン大統領と実習生モニカ・ルインスキーさんとのセックススキャンダルが、ひとしきり米政界を揺るがしたことがありました。

その端緒となったのが、個人運営のニュースアグリゲーションサイト「ドラッジレポート(DrudgeReport=DR)」のスクープでした。スクープと言っても独自取材ではなく、Newsweekが掲載をためらっていることを暴露したものでした。これが、その日の見出しです。

スクリーンショット 2016-08-26 8.49.21当時はインターネットアーカイブの巡回対象にもなっていないほど無名のサイトで、アーカイブ化されていません。しかし、米国の保守系サイトFree Republicがキャプチャーしていて、10年後にネットに掲載したものです。それほど、このスクープ以前は目立たぬ存在でしたが、これ以後、ドラッジレポートは急速に存在感を増していきます。

そして、米国のMedia Publisherランキングで先月、堂々の2位にまで上昇したそうです。月間ページビュー(PV)はなんと14億7200万!1日4000万以上ということです。

体裁は、今も1998年当時とほとんど変わらず、ただただ記事見出しを適当に並べてリンクを張っているだけで、流行りのビデオなどなく、写真も申し訳程度に数枚という古色蒼然としたものですが、どうしてそんなに人気があるのか興味深いことです。

まずは、10位までのランキングをご覧ください。

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2位から3位に後退したDisney MediaというのはESPN.comやABCNews.comなどの有力サイトを含みます。11位以下には、Time、NewYorkTimes、Buzzfeed、AOL、CBS、Gawker、Forbes、Hearst、WashingtonPost、BBCという超有名どころが続きます。PVは6億から3億台。DRの半分から4分の1のレベルです。

この上位20の顔ぶれを見ると、DR以外はそのスタッフは何十人、中には100人以上も珍しくないのではないかと思いますが、それに伍するDRは、固定スタッフはいないようです。

ニュースサイトのトラフィックはどこから流れてくるかを調査した2011年のPewのNavigating News OnlineでもDRの影響力について1章を割いていますが、そこでも<still a small scale operation>と記すだけです。また、New Republicの2009年の記事Underground Manによると、Drudge氏はマイアミなどに幾つかの住まいを持ち、旅先でも仕事をしていますが、特定のオフィスは持っておらず、友人の何人かがパートタイム的に手助けをしている程度のようです。

それで、どうして毎日毎日、政治を中心とする記事を読み込んで人を惹きつける人気サイトを更新し続けられるのでしょうか?解明する記事はありませんが、手がかりがあります。

その一つは、彼の父親Robert Drudge氏のサイトrefdesk.comの存在です。サイトにあるvision statementにはこうあります。「1995年の開設以来、Refdeskは親しみやすいウェブサイトをインデックス化し、その品質や信頼性をレビューしている。そして新しいウェブベースのリソースを紹介している」

この父親のサイトをご覧いただくと分かりますが、目が回るほど大量の情報をきちんと整理してあるのに驚かされます。Robertは75歳ですが、今も毎日、新たなコンテンツを加えたり、リンク切れをチェックしているのも凄いことです。Robertの父親=Mattの祖父は図書館員だったそうですから、資料の整理が得意なのは祖父、父親譲りで、それに加えて父親RobertのエネルギッシュさもMattが受け継いでいるように思われます。

父親は連邦職員でしたが、母親もそうで、一時はエドワード・ケネディ上院議員のスタッフ弁護士だったこともあるとか。こんなこともMattが政治に強い関心を持つきっかけになったのでしょう。こういう両親の子ですからIQも高そう。

さて、これだけの膨大なPVを獲得したDRの影響力ですが、日本では全く報じられなかったとことに今回、行き当たりました。それは、ウォーターゲート事件で名を挙げたワシントンポストの伝説的な記者、カール・バーンスタイン氏の言です。

これは共和党大会でトランプ氏が大統領候補に指名されたことに関してバーンスタイン氏がコメンテーターを務めるCNNの番組で語ったものですが、政治サイトThe Hillの記事によれば<A large measure of why Trump is the nominee goes to Matt Drudge><Fox has driven Trump’s campaign less than Drudge><Drudge is really the great new factor in terms of media>などと語ったそうです。

要するに、Matt Drudge氏がトランプ氏に熱狂的に肩入れしたDrudge Reportを作り続けたことが指名獲得に大きな役割を果たした。それは保守的報道で知られるFoxNewsよりずっと影響力があった。本当に凄いファクターだとし、最後には<an influence unequaled>–比類なき影響力–とまで持ち上げました。

共和党大統領候補の指名争いに大きな役割を果たしたというDR、今度はヒラリー・クリントン氏との大統領選の行方にまで影響力を発揮するのでしょうか?今日のトップ見出しも、早速、クリントン陣営をけん制する内容でしたし、昨日は、英独立党党首がトランプ氏にエールを送っている、というものでした。

しかし、先のNew Republicの記事によれば、前々回2008年の大統領選では、Drudge氏、出馬したヒラリー氏陣営の選対スタッフだった著名なメディアコンサルタントのTracy Sefl女史と緊密に連絡を取り合って肩入れしていたとあるのですが・・・・この腰の軽さで一方に徹底的に傾斜ができるのも個人サイトならではでしょうか。それが、膨大PVのホントの秘訣かも。まあ、鬼才には違いありません。