先週末、先進7か国の交通相会議が軽井沢で開かれ、クルマの自動運転技術の早期実用化に向けて協力していくことを決めたようですが、そこで採択された共同宣言(骨子)では、自動運転の意義について、こう述べています。

「交通事故の数や規模の削減、交通渋滞の減少、 物流を含めた効率性の改善、環境等への影響軽減、 運転者の負担軽減に資する」

当たり障りのないつまらない話だな、という感想も持ちました。というのも、同じ時期に、相乗り事業で注目されているUberのライバル、Lyftの創業者、John Zimmer氏がMediumに寄せた小論文を目にし、”目から鱗”の思いを抱いていたからです。

かなり長文なのですが、その後半にこうあります。< by 2025, owning a car will go the way of the DVD>。テクノロジーの進展により、NetflixなどのストリーミングでDVDを持つことは時代遅れになった。それと同じことがクルマでも起きる。もうマイカーなど持たない時代が来る。しかも10年以内に。

そして、クルマを所有しない時代になれば、都会の風景も、コミュニティの有り様も根本的に良い方に変わる、と主張するのです。新規事業の創業者としての立場を考えれば、いささか我田引水的ではありますが、弱冠32歳にして、このように自らの事業展開を社会学的に語り、気宇壮大かつ確固とした経営哲学を有するZimmer氏に敬意を表して、読み直した内容をかいつまんで紹介します。

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標題は<THE ROAD AHEAD>The Third Transportation Revolution–第三の運輸革命とあります。

序論は<A Country Built for Cars>。アメリカの都市は、いかにクルマ中心に形作られてきたことか。道の両側に駐車するために車道が拡幅され、駐車場にどれだけのスペースが割かれているか。平均的なクルマは時間にすると走行するのに4%、駐車に96%だ。道路や駐車場からこうしたクルマをなくすことが出来れば、交通量は減り、空気汚染も減るし、車道を狭めて歩道を広げられるし、駐車場も公園緑地に変えられる。

全ては可能だ。クルマ中心から人間中心の世界に変えられる。我々は未来のコミュニティを作るであろう運輸革命の始まりにいるのだ。その革命は3つの重要な変化で定義づけられる。

自動運転車両は迅速に広がり、5年以内にLyftの相乗りの主流となるだろう。自動運転車両のオンデマンドネットワークを始めるために、昨年、GMと提携した。個人が自動運転車両を貸し出すパッチワークではなく、Lyftがまともなサービスを始める。

②我々は長きにわたり、クルマを所有することが自由とアイデンテティのシンボルとしてきたが、2025年までに個人のクルマ所有は、全米の大都市ではほとんどなくなる。クルマ所有には、平均で年9000ドルも掛かり負担になっている。運転免許証を持つ若者は着実に減っている。1983年には20–24歳の92%が保有していたが、2014年は77%に過ぎない。16歳で見ると46%から24%に減った。ミレニアルズ世代はその前の世代に比べ、クルマを買う人が30%も少ない。年々、クルマ無しの生活がシンプルで快適だと結論付けた人がどんどん増えている。そこに、ネットワーク化された自動運転車両のネットワークが入って来れば、市街地在住者の殆どはパーソナルカーを使わなくなるだろう。

③その結果、街中の物理的環境は大きく変わり、あなたの人生をも変える。なぜなら、運輸とはある場所から別の場所にどう行くかにインパクトを与えるだけじゃなく、場所の見かけを形造り、そこに住む人の人生を形造る。プライベートカーの所有の終焉は、駐車しているクルマがなくなるということだ。そこに都市全体を再デザインするチャンスがあるということだ。未来の都市はクルマじゃなく、人を中心に作られなばならない。それが、私が第3の運輸革命という所以だ。

アメリカの第1の運輸革命は1860年までに3万マイルもの鉄道網を敷設したことだ。その次の革命は、クルマの組み立てラインの登場で、20世紀に入って、クルマが道に溢れた。道路はそれに合わせて拡幅され、ハイウェイが作られた。かって「道」は子供が遊び、隣人が集うようなパブリックスペースだったが、人々は狭い歩道に押しやられ、ハイウェイ建設で多くの家が壊され、コミュニティが文字通り分断され、維持するのが困難となった。

クルマ自体が問題なのではない。どう使うかが問題なのだ。アメリカには2億5千万台のクルマがあるが、時間にすると4%しか使っていない。つまり、2億4千万台が一日中駐車しているのに等しい。あなたのクルマはドライビングマシンじゃなく、パーキングマシンなのだ。

これをホテル経営になぞらえて、ほとんどの部屋が空室だと想像しよう。維持するために膨大な金がかかるのだから、とっとと撤退するのがビジネスというもの。アメリカは失敗した運輸ビジネスを運営しているということだ。こんな非効率な状態のままにはいられない。

米国の都市人口は増えていて、2050年までに1億人が都市部に移る見込みだ。これに対応しつつ、都市を魅力あるものにする余力はない。そこで、第3の運輸革命が求められるのだ。

テクノロジーは全産業を再定義している。その利益を享受するために、あなたはもう”ブツ”を持たずに済むようになった。Netflixとストリームサービスで、DVDの所有は時代遅れになった。SpotifyはCDとMP3の所有を不要にした。ついには、我々は同じような方法でクルマの所有を見ることになるだろう

“Transportation as a Service” への完全移行は可能だ。なぜなら、人類史上初めて、完璧に効率的な運輸ネットワークを作り出すツールを我々は持っているからだ。2012年、Lyftはpeer to peer、オンデマンド相乗りを達成した最初の会社となった。使われない車を解放し、経済的な機会を作り、輸送コストを下げる方法として始まって、今や数百万のアメリカ人に広まった。

相乗りはクルマの所有をやめ、都市を改善するムーブメントの最初のフェーズに過ぎない。自動運転車両へのシフトは向こう10年で劇的に拡大する。運輸を究極の購入サービスへと変化しながら。

しかも、このサービスはクルマを所有するよりフレキシブルだ。たまにどこかへ移動するだけならpay-as-you-goプランで、1マイル数セントだ。週末ドライブならunlimitedマイレージプラン、毎週土曜日使用ならクルマをアップグレードしたプレミアムパッケージ、という具合に。ポイントはあなたが一つの限定プランに拘束されないということだ。我々は保険を含めてまとめて安く購入するので、その恩恵を利用者に還元できる。

2025年までに、クルマを所有することはDVDのようになる。それに至る次の5年から10年は「ドライバーあり」と「ドライバー無し」のクルマが路上に並存する。Hybrid networkと我々は呼んでいる。

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我々は今、3つのフェーズの第一段階だ。第3フェーズに行くまでに自動運転車両にはたくさんの制約がつくだろう。低速でとか、悪天候は避けるとか色々あっても、テクノロジーがいずれ解決する。

モバイルネットワークが3Gから4Gに移ったことを想起しよう。4Gネットワークは展開はゆっくりだった。最初のカバーは都市部のみ。それから地方に徐々に広がった。自動運転車両による相乗りサービスの導入もこれと同じパターンで進む。

我々は駐車場を公園に変えることができる。道幅を狭めて歩道を広げられる。そして、人々の出会いが増え、コミュニティが再建される。

さきがけ的な例はいくつもある。その一つはサンフランシスコだ。かって、歴史的建造物のフェリービルディング(画面左端)はその前を走る2階建ての高速道路に阻まれて、人も寄り付かなかった。

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しかし1989年の地震で高速道路がダメージを受けた時、市当局はチャンスと見た。クルマのために再建するのでなく、取り壊し、市民が集まれる場所にしたのだ。お店、レストラン、カフェが作られ、フェリービルディングもウォーターフロントの名所になった。毎週2万5千人の人がファーマーズマーケットに集い、地元のベンダーを支援している。その結果、新しい隣人も増え、5年以内に周辺には51%以上もの住宅建築が可能になるという。

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とまれ、軽井沢に集まったお役人達が大臣用に作った哲学なき”作文”が色あせて見えますね。