<Uberfication>という単語に出会いました。直訳だと「Uber化」ですが、辞書にはありません。Googleで検索すると、1万2千件余りがヒットします。その上位の幾つかを拾い読みすると、例の自動車相乗りサービスのUberにちなみ、、<Uberのようにスマホアプリを使って安く、簡単、便利なサービスを提供する>ことを指す新語のようです。

その手のサービスを36のカテゴリーに整理し、一覧表にしたサイトまでありました。アメリカ人には<Uberfication>はもう一般語なのかもしれません。で、当方が目にした<Uberfication>は、メディアアナリストとして有名なKen Doctor氏が言及している<Fresco News>というメディアビジネスについての記事の見出しでした。

Frescoのサイトのトップには、こんなスローガンが大書されています。<世界はあなたのカメラを必要としている>

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続けて「Frescoでニュースの一部になろう」とも。要するに、一般市民、まあ20年ほど前に流行った言葉なら、citizen journalistからニュース素材となるUGC(User Generated Content)映像を集めてマスコミに売り込むということです。

しかし、こうした試みは、例えばCNNのiReportはじめ、テレビ局や新聞社の取り組みがが日本でも随分前からありましたし、このブログで何回か紹介した、個人の画像、映像をメディアに仲立ちする先駆け的存在のDemotixのような動きもありました。それらとどう違うのか?どこがUberficationなのか?

 

まずは、Fresco Newsのサイトにある仕組みの図解をご覧ください。

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この図の下に説明があります。「あなたが今いる場所のそばで事件事故が起き、その写真またはビデオを報道機関が欲しがった時に、Frescoはあなたに連絡する。対応したあなたが撮った写真、ビデオを報道機関が使ったら、あなたはすぐに支払いを受けられる」

こうするには、その前段として、Fresco Newsのアプリをスマホにダウンロードし、個人情報をFresco側に登録しておく必要があります。連絡は、そのアプリを通して届きます。登録者全員にではなく、その場に近い人を特定して臨時カメラマンに”任命”するところが斬新です。(たまたま、ドライブ中に事故を目撃した、というときにも自主的なアップロードは可能のよう)

Fresco Newsへのアップロードもアプリを使い、簡単にできるようです。これで、テレビ局が現場にカメラマンを派遣するより、はるかに早く現場映像が入手できるわけです。格安で!

テレビ局がFresco Newsに支払う代金は一律で、写真だと30ドル、ビデオだと75ドルに過ぎません。しかも、市民カメラマンがテレビ局に直接、映像を送りつけてくるのではなく、Fresco Newsの編集部が精査し、「使える」と判断したものがテレビ局に転送されます。その中から選べるのですから、テレビ局は楽チン

かくて、これが<Uberfication>のキモである、「スマホを使って安くて簡単・便利」の”精神”に合致するわけですね。(この場合はテレビ局にとってですが)

もう一つ、大事なのは、テレビ局が採用すれば、すぐに支払いが行われる、ということです。「原則、休日を除いて3日後」とFAQに明記しています。その額は写真20ドル、ビデオ50ドルだとも明記しています。つまり、”手数料”として3分の1を徴収するビジネスですが、こういう風に、透明性が高く分かりやすいのも特徴です。(従来のマスメディアでの募集要項では、この辺が曖昧でした。「報酬はニュース価値によって判断する」というみたいなことで。少なくとも日本では)

Frescoのサイトや幾つかの記事を読みましたが、このアプリをダウンロードして、”市民カメラマン”登録した人数は不明です。ただ、Doctorさんの記事には、FrescoNews側から提供されたと思われる、フィラデルフィア市のカメラマン分布画面が掲載されています。びっしりです。

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青いドットが登録者の現在位置を示し、大きめの黄色いドットがテレビ局の所在です。これをFresco News編集部は24時間、モニターし、テレビ局の注文に応じて、撮影者を指名するのです。

なお、このサービス地域の最新の状況も不明ですが、USATodayの記事によると、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコなど、米国の10余りの大都市で展開していて、顧客は今やCNNをしのぐFOXテレビ系列が多いようです。

まあ、UberやLyftなどの自動車相乗りサービスが流行ると、既存のタクシー業界の運転手さんが職を奪われるんじゃないかという心配もあるわけですが、映像取材のUberficationが進むと、テレビ局や新聞社に在籍する正社員のプロカメラマンが削減される動きにつながらないのでしょうか。それによって、報道の質が落ちる・・・・

冒頭に紹介したKen Doctor氏の記事の見出し<Next big thing: The ‘uberfication’ of crowdsourced news>にあった、[Next big Thing]とはそのことを示唆しているように思われます。