「WELQ」はじめ、すべてのキュレーションサイトの閉鎖に追い込まれたDeNAを巡る騒動。要するに、ネット上にある他人のコンテンツをツギハギして金儲けというビジネスモデルが露わになって、「ネットメディアは人様の上前をハネてるだけで信頼性に欠ける」という一般的な見方を強めることになったとしたら残念なことです。

そんな折、今やネットメディアの雄ともいうべき米国のVice Mediaが既存メディアが思いつきもしないことを始めると発表しました。刑期を終えて出所した元受刑者向けに、有給の「見習い」プログラムを始めるというのです。

その契機となったのは、Viceがここ数年、精力的に取り組んでいる米国の刑務所問題に関する報道です。その報道量は圧倒的で、最近スタートさせた「THE FUTURE OF INCARCERATION(収監の未来)」という特集ページには、今月だけで12本もの記事が上がっています。また「Prison」のタグでは無数の記事が出てきて、こと刑務所問題では既存メディアは足元にも及ばないという印象です。

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それでも、「報じるだけでなく、問題解決の一助に」ということから新プログラムを始めるというのです。

最初にAPの記事でこのプロジェクトのことを知って、その後、Vice Mediaのサイトなどを見て回って知ったことですが、米国には刑務所に150万人が収監されていて、そのほか警察の拘置所などに70万人、計220万人が監獄にいるそうです。

で、米国の220万人がいかに異常かというと、米国の人口は世界の5%に過ぎないのに、世界の囚人の4分の1を占めるからです。ちなみに日本は、ちょっと古い資料ですが7万人台で、米国の30分の1。また、黒人は米国人口の13%を占めるに過ぎないのに受刑者の38%に達するそうです。そのコスト負担や社会的損失は膨大なものでしょう。

こんなことなどを背景に、Viceは昨年7月に、オバマ大統領が連邦刑務所を訪問したのを機に、一段と刑務所に関わる報道を強化し、刑事司法のあり方も含め、その改革が必要だとキャンペーンを張っているのです。

そこでViceは、Sentencing Projectの報告を引いて「元受刑者の60%は出所後1年の段階で職がない。その職がないことが刑務所に戻るkey factorになっている」とし、それを変える<small step>として「出所者に臨時的な仕事を提供するNPO団体Center for Employment Opportunitiesと協力、犯罪歴のある人を対象に有給の見習いプログラムを始めることにした」と公表しました。

報じるだけでなく、その解決への一助として自前で社会貢献事業も行うということです。新興デジタルメディアが、DeNAのような金儲けだけでなく、ここまで成熟したと思うと感慨深いですね。

始まるのは来年早々、見習い期間は6ヶ月。Viceのいくつものデジタルチャンネル、ニュース編集局、テレビと映画の制作などの現場で「クリエイティブな仕事を我々と共にする」のだそう。

その狙いは、「メディアに関して、大学や職場で全くかほとんど経験のない人が、業界で成功するために必要なツールの扱いやスキルを身に付けること」です。つまり、このプログラムが斬新なのは、時代にマッチしたデジタルスキルを身につけさせて、より良い職探しに旅立ってもらおうということです。

米国の刑務所内で社会復帰に向けてデジタル関連の講習が行われていることは、何回か紹介しましたが、今、世界で最も勢いのあるデジタルメディアViceでの「見習い」訓練ほど価値のあるものはないでしょう。

その待遇や採用人数については、Viceの記事では触れていませんが、APの記事によると、採用は18歳から25歳までの5人で、週40時間労働、時給15ドルだとか。ひと月、2,500ドル、30万円くらいになりそうです。

また、APの記事によれば、Viceでは「もしうまくいけば、拡大を目指し、同業他社に対しても各自でプログラムを始めるよう促す」考えだとか。

ちなみに、ViceのCOOであるAlyssa Mastromonaco女史はAPにこう言っています。「これは意義深い制度的な<change>だ。if< you can do it>」 おなじみオバマ大統領の決め台詞。そうです、彼女はオバマ政権で、2年前まで日本で言えば首相官邸の官房副長官補的な仕事を史上最年少で務めた切れ者だったのです。

政権を支える幹部級がオンラインメディアへ転職というのは、日本的感覚では考えにくいかもしれません。しかし、Viceは、1年ほど前にこのブログでも紹介しましたが、今や世界30か国以上に進出している巨大メディアであることからすれば、不思議でもなんでもありません。Mastromonaco女史には、その馬力と会社の勢いでプログラムの拡充を進めてもらいたいものです。キュレーションサイトで大儲けしたDeNAも反省の態度を示すために見習ったらどうでしょうね。一遍に評価が上がりそうですが。

なぜか、既存メディアはこのことをAP以外、一切報じていません。そんな余力がないからでしょうか・・・・