ボブ・メトカーフ氏。インターネット黎明期にその名を残す巨人の一人です。家や職場、街中で世話になるLAN(Local Area Network)の発明者の一人であり、ネットワークの価値は接続ユーザー数の二乗に比例するというメトカーフの法則でも知られます。(年寄り限定でw)

その名を思い出すきっかけは、米国の携帯電話会社T-Mobileが、一家で2回線以上加入しているユーザーにストリーミングビデオサービスでダントツ人気のNetFlixへのアクセスを無料で提供するNetflix On Usというサービスを12日から始めるというニュースに接したからです。

スマホアプリでアクセスする場合、契約で決まっている月間通信量にカウントされないので見放題になります。当然、ネットワークを流れるトラフィック量は膨大に膨れ上がることが予想されます。

「なんとネットワークは強靭なものになったものだ」と思った時にメトカーフ氏の名前が浮かんできました。というのは、彼は今から20年ほど前の1995年暮れに「来年、インターネットのネットワークは崩壊する。結果、Webページは幽霊サイトになる」と予言した人物だからです。

その予言は1995年12月4日付けのInfoWorld誌に掲載されました。同誌のサイトにそのコラムは残っていませんが、それをスキャンしたものを見つけました。(画面を拡大すれば読めます。インターネットアーカイブにも古くてありません)

彼のこの予言は、ネット上に何種類もある「ネットに関する大間違い予言集」に必ず登場するので(例えばこれ)、大まかに承知していましたが、今回、読み直してみました。

いくつかの論点を挙げていますが、要するにこうです。

<地域独占のローカル電話会社は遠距離通話ビジネスで儲かっているのだから、高速インターネットのコストを下げようというモチベーションを持たないので、ネットは高速化しない。(と言っても28.8Kbpsから64KbpsのISDNへの進化というささやかな期待ですが)>

<その一方で、ポルノを含め、ネット上を流れるビデオは凄い勢いで増えているので来年1996年中にネットワークは破滅的状況に陥り崩壊する。かくてウェブページは幽霊化し、来年のスーパーハイウェイはFederal Expressが配達するCD-ROMが浮上するだろう>

よほど自信があったのか、彼はこの直後にボストンで開かれたWWW(World Wide Web)国際会議で見えを切ります。

「もし、私が間違ったら、印刷されたコラムを食べてみせる」

間違っていました。そこで彼は1997年4月にサンタクララで開催された同会議で壇上に上がり、件の記事と思しき紙を千切ってミキサーに入れ、撹拌して飲んだふりをした、としてまたまた話題を呼んだのでした。

有線のネットワークですら、増大するトラフィックに耐えられるのかどうかが、この世界の大御所ですら不安視したのがわずか20年ほど前のことです。

その後、光回線が急速に普及し、有線でのネットワークに不安はなくなりましたが、その勢いは無線にも及んだのですね。

T-Mobileに先駆け、携帯電話ビジネスのライバルVerisonはgo90というアプリで独自のコンテンツを見放題にし、もう一つの大手AT&Tワイアレスも有力ケーブルテレビHBOを含むビデオコンテンツへの無料アクセス出来るDirectTVNowアプリを提供しています。

今や3社揃ってスマホでビデオ見放題が当たり前の時代になったのです。古くからインターネットをウォッチしてきた身としては20年余の進化に感嘆するばかりです。

これから20年先、いや10年先にインターネットのネットワーク、とりわけ無線はどこまで進化するのか予測もつきません。ちなみにメトカーフ氏は71歳、テキサス大オースチン校でまだ現役。肩書きはProfessor of Innovationとありますから新しい予言を期待したいところ。

もっとも、彼は1993年8月にもInfoWorld誌で、こんな予言をしてますから、無線分野はあてにならないかも。

無線コンピューティングは大失敗する—–永遠に