Next Billion」というフレーズがあります。10億人を新たにインターネットの世界に繋げようというキャッチです。

世界人口は74億4千万人インターネット人口は昨年の推計で34.9億、今年は37億に迫っているでしょう。世界中の赤ちゃんからお年寄りまでの半分までがネットに繋がっている。それでも、「もう10億人」というのは、繋がろうに繋がれない地域が世界各地に残されているからです。それを視覚的に表したのがこれ。カナダのTHE DIGITAL GROWTH LABが作成したものです。

当たり前といえば当たり前ですが、人口が密集する先進国エリアはネットワークの線で真っ白ですが、途上国のネットワークは疎らで、空白地帯が目立ちます。

その空白地帯に、ネット接続のできる地上通信インフラが出来るのを待っていられない、として空からのネットワークを構築しようという動きは1995年ごろからいくつもありました。

いずれも成功しなかったのですが、今も、イーロン・マスク(SpaceX)の小型衛星(4425個)ネットワーク、ザッカーバーグ(Facebook)の高度6万フィートを飛ぶドローンネットワーク、グーグルの風船ネットワーク(Project Loon)などの計画が「Next Billion」を目指しています。

いずれも著名企業の試みだけに、折々に動きは伝えられるものの、まだ、運用開始には至っていません。ところが、著名度では大きく劣るJANAというTech企業が全く異なるアプローチで、途上国の4千万人以上に「無料インターネット接続」を提供している事実があるのを知りました。

JANAのCEOのネイサン・イーグル(Nathan Eagle)氏が「 I think we have a reasonable shot at getting to a billion users in three to five years」ーー3,4年で10億人のユーザーを獲得出来る合理的な手段を持ってるってことさーーと豪語しているのにびっくりです。一体、どういう手段なのか。

そのイーグル氏、スタンフォード大で学士、修士を終え、マサチューセッツ工科大(MIT)で博士号を取得、2012年にはWired誌の「世界を変える50人の賢者リスト」に選出されたというとんでもない人材のようです。ちなみに、彼を選んだのはIT業界の女王的存在のエスター・ダイソン女史

彼が2009年の起業時点で、「Next Billion」に向けて選んだのはモバイルネットワークでした。場所はインド。国民の多くは貧しい中でも携帯の普及は進んでいました。しかし、月30ドルほどで生活している人が、携帯を使ったネット接続までする金銭的余裕はありません。

それを解決する手段は広告でした。JANA(発足当初はtxteagle)が開発したアンドロイド端末用ブラウザのmCentをダウンロードしてネット接続し、ページからページを移動する際に現れるinterstitial広告を見せる仕組みにしました。広告主にはアマゾン、グーグルなどのほか、インドの音楽ストリーミングSaavnなど多様な企業が含まれているそう。

また、一方では携帯電話会社と提携して、ユーザーのネット接続に関わるデータ量の報告も受けます。そのデータ使用料に見合う金額を広告収入からユーザーの口座に振り込むことで、事実上、ネット接続は無料、を実現したということです。

これが人気を博し、FastCompanyの記事によると、「スタート3ヶ月で100万ユーザーを達成、その後、6週間ごとに倍増した」とのこと。そしてJANAのホームページには311の携帯キャリアと提携し、4千万人以上のユーザーに達したとあります。その市場についての言及はありませんが、先のFastCompanyの記事では「15の途上国」としています。(Fortuneは「93ヵ国」と書いてますが)

そして、今後は、東南アジア、アフリカのサハラ以南、ラテンアメリカへの拡充を計画しているとか。

私は今でもアフリカあたりでは携帯電話網の普及はまだまだだという”偏見”に捉われていましたが、実は事態は大きく前進しつつあるのですね。例えば、今年7月のMediaShiftの記事に添えられたこの写真。ケニア・マサイ族の住まいですが、キャプションには、「屋根につけたソーラーパネルで携帯の充電をしている」とあります。

 

電灯線が引かれていなくても、電波を飛ばしてくれる携帯基地局が身近にあるのですね。ハーバードビジネスレビューによれば、途上国のアンドロイド携帯端末は2015年時点で30ドル程度まで下がっていたのも寄与しているのでしょう。

それほどモバイルネットワークは全世界、くまなく広がりつつあり、関心も高まっていた。それを2009年の起業時点で見抜いていた所にイーグル氏の非凡さが伺えます。

ただし、ユーザーサイドから見ると気がかりなこともあります。それはTerms of Service(利用規約)を読むと、ユーザーからあらゆる情報を吸い上げることになっているからです。細かな属性だけでなく、ネット接続した際の場所、時間、内容、反応など根こそぎです。

その理由について、ユーザーに様々な情報を届けたり、サービスの向上・改善に役立てるためなどいくつも理由を挙げていますが、最後の二つが興味深く感じました。

要約すると①あなたの関心に基づいてコンテンツや広告をパーソナライズ化して表示するため②あなたが興味を持つかも知れない他の製品、機能、サービスを提供する助けにするためーーです。

本当のことは窺い知れません。ただ、金太郎飴のように、万人に同じ情報を届けるマスメディアが崩壊しつつある中で、個々人にとって本当に必要で役立つ情報をAIを使い、精査して提示する、全く新たな<スーパーパーソナルメディア>を、JANAは構想しているのかも知れない。そんな気がしてきました。イーグル氏が並外れた天才なだけに。