いささか旧聞ですが、「東大の知をひらく」を謳う東大新聞(11月28日号)にこんなハウツー記事が掲載されたとのこと。Facebookのお友達の投稿写真で知りました。

その写真に添えられたコメントは「何やっとんねん(笑」というもの。おそらくは政治色が強かった往時の東大新聞を知る東大OBとしての率直な感想なのでしょう(笑)。

しかし、当方の感想は「やるなあ。東大生のニーズに向き合ったな」でした。というのも、その投稿の直前に「NYタイムズの目はサービスジャーナリズムという新分野に向けられている」というDigidayの記事(英語)を目にしたばかりだったからです。

ジェフ・ジャービス氏の「ニュースを〝サービス〟として捉え直せ」というような主張は目にしていましたが、タイムズが注力する「サービスジャーナリズム」とは、ジャービス氏の考えよりもっと砕けて「読者個々人の日々の生活に役立つハウツー記事特集」という趣のようです。

それと同趣旨の記事を、往時にはお堅いイメージだったであろう東大新聞が掲載した勇気に感心しました。おそらくは、恋に焦がれる東大生の”視聴率”は相当高かったのではないでしょうか?そうです、よく考えられたハウツー記事は”視聴率”が高く、繰り返し読まれ、販売促進にもなることにタイムズは目をつけたのだそう。

タイムズのハウツー記事は落ち目の「紙」ではなく、NYTimes.comでの展開です。3年前から始めた「Cooking and Well」というページを拡充した「Smarter Living」というセクションでより幅広い内容の特集記事を今年は50本近く掲載しました。

その最新記事はクリスマスシーズンに合わせた「ニューヨークの超人気レストランの予約をいかにうまく取るか( How to Beat the Line and Get Reservations at Hot New Restaurants)」(12月5日)というタイムリーなもの。

ちょっと覗いてみました。ほんの一部を紹介すると、「予約アプリは便利だが、それに頼り切らないこと」「レストランはアプリに出さないテーブルを飛び込み客用に取ってあるので、電話してみる価値がある」「レストランはサービス産業で、サーブしたい気があるのだから、そのレストランに行きたい理由を誠実に伝えれば、応えてくれるかも」「レストランのソーシャルメディアへの投稿もチェック」「予約日に柔軟性を持たせること」などなどを専門家のコメントを中心に事細かに手ほどきしています。

その他、最近の特集記事の項目には「あなたの子供向けベストアプリ」「この冬をほっこりして過ごすお手軽な5つの方法」「この冬の男性のお肌の簡単手入れ法5つ」「メタボリック改善のエクササイズ」など。

さらに2018年に向けてのシリーズものでは「より健康に生きる9つの方法」「より良い人間関係が持てる8つの方法」「お金と仲良くなる6つの方法」「上手に働く9つの方法」がずらり。多くの人の関心を引きそうなテーマだらけです。

なので、Digidayの記事によると、Guidesと呼ばれるこれらの記事が、タイムズサイト全体の記事の中で、その日の一番人気になることがしばしばあるのだそう。中身の充実とともに、アクセス数は昨年の170%増、つまり3倍近くに達しているとか。

東大新聞の「恋愛」ハウツーに違和感を抱く?OBがいるように、伝統を重んじる人には、このサービスジャーナリズムに不平、不満があるとのことですが、編集者は動じません。「本来のニュースとサービスの間には緊張関係なんかない。(米軍兵士が殺害された)ニジェールの最新情報を知りたいと思う人がいて、その同じ人が完璧なパイの皮をどう作るかを知りたがるのが現実」ときっぱり。

さらに、大体が読み捨てになるニュースと異なり、よく出来たハウツー特集記事は繰り返し見に来る可能性が極めて高いことからページビュー増大、さらにはデジタルオンリーの有料購読者獲得にも大きく貢献しているようです。

その勢いに乗じたのかどうか、タイムズはさる1日から、契約していないユーザーが無料で読める記事数を月10本から5本に減らしました。2011年の有料化時は月20本でしたが、翌年に10本に減らして以来の変更です。ですから、面白いGuideに釣られてると、あっという間に「読み続けるなら今日、契約してください」という表示で記事が塞がれてしまいます。

さらに、FacebookやTwitterに載ったリンクをたどる時は制限数にカウントされなかったものも、昨年夏に廃止されています。有料化時に意図的に設けられていたいくつもの抜け道はことごとく封じられてしまいました。

サービスジャーナリズムとは、無料読者へサービスするジャーナリズムじゃないことを実感します。当たり前だけど。

さて、冒頭で紹介した恋愛ハウツー特集を載せた東大新聞、部数は伸びたんでしょうか?たった今、サイトを再訪したところ、人気ランキングにもないだけじゃなく、サイトのどこにもない。で、サイト内検索をかけた答えは「該当する記事はありませんでした」だと。何故だろう。「勇気に感心」という感想は早とちりだったようです。