今朝の読売・国際経済面は「AI覇権 中国が米猛追」の見出しで、躍進目覚しい中国のAI(人工知能)がテーマでした。

中国の強みは豊富な研究開発予算、有能なAI人材に加え、他国ではプライバシーとの関わりで問題になりがちな大量のビッグデータを集められることが挙げられています。

そこで、思い浮かんだのがつい先日、英BBC Newsの北京特派員が、中国ビッグデータの中心地と目される貴州省貴陽市で行った自らをターゲットにした監視カメラの性能確認実験でした。

その一部始終と中国の監視カメラネットワークについての報告はBBC Newsのサイトで5分あまりの映像にまとめられています

ここで強調されているのがこのネットワークがビッグデータと結びつき、AIを活用してということだったのです。ビデオ画面を見ていきます。

まず、ビデオ画面の右側にこういう記述があります。「中国は全土に亘り1億7千万台のCCTV(Closed-circuit Television)カメラがすでに設置され、さらに4億台が向こう3年で新設される。カメラのほとんどは顔認識技術を含むAIに適合している。BBCのJohn Sudworth記者は警察のハイテク司令室へアクセスするという稀な機会を与えられた」

ビデオは「中国は世界最大かつ最も洗練された監視カメラシステムを構築中だ」というテロップが、貴陽市の空撮画面に表示されることから始まります。そして、「貴陽市の巨大なデジタルカタログは市民全員の画像を有している」と続きます。

その貴陽市のハイテク司令部に取材に入ったSudworth記者は、監視カメラシステムの”優秀さ”を実体験することを試みます。そのためにまずは顔写真を取られた後、行き先を告げずに街中に出ます。

監視カメラシステムは、走行する車についても、運転者の特定、ナンバーから車種、車の色なども瞬時に判別しますし、カメラによっては、歩行者の推定年齢、人種、性別、平静かどうかの表情なども読み取ります。

年間100万台も顔認識カメラを売る企業の説明はこうです。「IDカードの写真と読み取った顔画像をマッチングして、特定の人の全ての動きを1週間遡ってトレースできる。接触した人とマッチングし、頻繁に会う人を知ることも出来る」

さて、車から降りたSudworth記者、自撮り棒取り付けたスマホに向かってレポートしながら道路を歩き出しますが、ビルに入ってすぐに数人の警察官に取り囲まれ”逮捕”されてしまいます。その間、わずか7分。中国監視カメラシステムの凄さが、それまでの説明と相まって実感されます。

警察の担当者は「市民は何も憂慮することはない」と言います。なぜなら「我々は、彼らが助けを必要とするときに限って動く」「助けを求める必要がないときは彼らのデータを集めない」からだそう。ただし、警察の巨大データベースには全て収まることを認めています!

ですから、誰もが警察の説明に得心しているわけではない、ともビデオは続きます。政府に批判的な詩人は言います。「見えない目に追跡されている感じで、何をするにもためらいが生じる」と。

それこそ、監視カメラシステムの”効能”の一つでしょう。そこでビデオでは「中国には独立した裁判所はなく、プライバシー保護もほとんどない。監視カメラネットワークが急速に拡大する中で、その究極の狙いは犯罪的行動の防止に止まらず、それを予測することだ」と締めくくります。

冒頭に記したように、中国が豊富なカネと人材でAIをますます進化させ、プライバシーに無頓着なままビッグデータを集積したデータベースを高機能化していけば、息苦しいことになりそうです。

こうした点を踏まえ、科学・ハイテクニュースサイトFuturismの若手記者はジャーナリズムの観点から、監視カメラシステム強化による暗い未来を嘆いています

・中国のシステムが不正または非倫理的に使われるという脅威、兆しはリアルだ

・全ての政府が言論の自由を尊重するわけではない。このテクノロジーが悪夢のような可能性の世界を開く

・多くの国では、記者は自由に動き、記事を書く。しかし政府が監視し、記者を追跡すれば記者自身が危険になるだけではなく、独裁主義国家の情報が入手できなくなる危険が高まる

そしてこう言い切ります。「この技術は報道の自由を制限し、悪事を働く政府を守るものだ」

さらに言えば、今年6月のウォール・ストリートジャーナルの記事によると、中国政府は2020年までに監視カメラ4 億5千万台を新設し、同時に「2020年までに、市民が職場、公共の会場、金融取引においてどのように行動するかに基づいて、すべての市民に格付けを付与する「社会的信用」制度を導入することを望んでいる」とありました。

昔々読んだジョージ・オーウェルの「1984年」が生々しく蘇りました。暗い監視管理社会。しかし、この小説では、当局の目を逃れて郊外に出れば心を通じた同僚と愛を語る余地はあったように記憶しています。技術の進化はオーウェルの世界すら追い越していくのでしょうか。