数日前、私のメールボックスにロサンゼルス・タイムズからこんなお誘いが届いてました。

分厚い日曜版の宅配をセットにして8週間、サイトへのデジタルアクセスを無制限に出来ますよ、ということです。タダみたいなもんですね。

そうかと思えば、先週のボストン・ビジネスジャーナルの記事では、ボストンの最有力紙ボストン・グローブが、紙の新聞の宅配料金を日曜版を含め、デジタルアクセス込み、1週間で25.90ドルに引き上げる計画だと、同紙の購読申し込みセンターの責任者が答えたと報じています。

現行は週14.34ドルですから、なんと80%の値上げで、年間52週、取り続ければ1347ドル、日本円で14万円以上に達します。iPhoneの最上級機を購入してもお釣りがくる値付けです。

おそらくは、新聞社の格では遜色ないと思われるLAタイムズとボストン・グローブの極端なまでに乖離しているかに見える価格戦略に戸惑ってしまいます。

しかも、日本では昨年11月に23年ぶりに値上げした日経新聞が、同月、総部数の1割近い23万8千部を減らしたと月刊誌「Facta」が伝えています。

少なくとも日本では、それほど価格センシティブと見なされる新聞代をこんなに思い切って上げるグローブ紙の狙いは一体、どこにあるのか?

一つ思い出したのは、5年以上前の拙ブログ「新聞代値上げこそ生き残る道!」という記事です。

これはドイツが本拠のSKP(Simon Kucher&Partners)というコンサルティング会社が、英米の有力紙の値上げを2007年に溯って調べたところ、値上げで確かに部数は減ったものの、それは比較的軽微で、販売収入は逆に増えたという結果になり、「全ての新聞社に告ぐ:割り増しモデルこそ最高の希望だ」と主張したのでした。

インターネットに広告を奪われ、紙の新聞は広告収入は激減し、惨憺たる状況になっていて、SKPの主張に添った値上げ戦略を取らざるを得ない新聞社が増え、その結果、かっては、新聞社の総収入の8割以上は紙の広告から、と言われたものが全く様変わりしています。その一例としてNYタイムズの収入構造の変化を挙げてみます。

これは1年前のWiredの<THE NEW YORK TIMES CLAWS ITS WAY INTO THE FUTURE>と題する記事中にあったものです。2000年に総収入の7割を占めていた紙の広告収入は2015年には3割以下となり、総収入の4分の1以下だった紙の新聞の販売収入が4割を超えています。

紙の部数は相当減っているはずですが、販売収入割合は増大しています。値上げで乗り切って来たのです。

そこで、米国大手紙の今の価格をチェックしてみました。まとめたサイトを見つけられませんでしたので、ほとんど、各社のサイト内をうろついて見つけたものです。(実に分かりにくい。ほとんどの新聞は、当初はLAタイムズほどではありませんが、期間限定の割引料金で誘い込んで、それが切れた後は正規料金を請求する仕組みなので、その正規料金が分かりずらくなっています)

まずNYタイムズですが、ニューヨーク市などのお膝元では4週65ドルで年間780ドル、地方ではおそらく配送コストがかさむせいか、一週20.50ドル、年間1066ドルというケース(オハイオ州)もあったようです。

ワシントンポストは一週12.25ドルで、年間では637ドル。LAタイムズは正規料金でディスカウント終了後は一週10.81ドル、年間562ドル。USATodayはグッと安く、月25ドル、年間300ドルWallStreet Journalは調べた限りでは意外に安くて年間468ドル。念のために画像を貼っておきます。

新規購読で12ヶ月では234ドルで、これは5割引と表示されています。日本では一般紙より日経が高いのに、ちょっと不思議。なお。これらはいずれも税抜き値段です。

こうして見てくると、USAToday以外は、日本の全国紙の税込年間料金48,444円と同レベルか、それ以上です。

ただし、米国の場合、デジタルアクセス料金込みです。どうも、そこがミソで、米国の紙の新聞読者は無料アクセスができるので、愛読紙のサイトに頻繁にアクセスすることになるでしょう。そのうちに、「デジタルだけにしよう」となるかもしれません。

そこで待っているのが、デジタルオンリーの料金。紙でおそらくは全米一高いボストン・グローブのデジタルオンリーの料金も、おそらく全米一の高水準で、週6.93ドルで年間360ドル

そこで、先のボストン・ビジネスジャーナルの記事では、Poynter のメディアビジネスアナリストのRick Edmonds氏の「紙を異常に高くして、デジタルに読者を追いやろうとしている」という分析を紹介しています。

多くの読者をオンラインに向かわせるということは、何れにしても5年か10年のうちに、新聞業界全体が向かって行く場所なんだから、と。

また、これに言及しているNiemanLabの記事では、こう書いています。

「人々をプリントからデジタルに追い込むことは、以前のように馬鹿げたことじゃない。”死んだ木”(紙)を人々の家までトラックで運んで行くより、デジタル契約の方がずっと利幅は大きいのだから」

なんだか、当初のもやもやが晴れて来た感じです。LAタイムズの新規読者向けバカ安料金、ボストン・グローブの既存読者対象の大幅値上げーー両極端に見えて、目指すところは同じ。オンラインオンリー時代を見据えてるってことでしょう。

つい先日もNYタイムズのトンプソンCEOが「タイムズはあと10年は持ちそうだ」と述べたのが注目されましたが、それは、「10年をめどにオンラインオンリーになる」ということでもあるのでしょうね。そういう空気が米新聞業界全体に強まってるのを感じます。日本の新聞は夢にも思っていないでしょうが。