中国の監視カメラシステムの物凄さは、もうジョージ・オーウェルの小説「1984年」を超えるものではないか、と昨年末にこのブログで紹介しました。

その威力を発揮した最近の一例を、香港の新聞サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)が12日付けで報じました。4月上旬、なんと5万人が集まった香港のポップスターのコンサート会場で、経済犯罪で指名手配中だったという男性が、監視カメラと顔認識システムで逮捕されたのです。

SCMP紙が伝えるところによると、31歳の彼は、中国南東部の江西省樟樹市から90キロ離れた南昌市の会場まで妻と一緒にドライブして駆けつけました。

そんな大会場の人混みの中で、まさか、警察に見つかるとは全く思っていなかったそうで、「警察が、そんな風に識別できる能力があるなら、絶対にコンサートに出かけなかった」と呆然とした表情で述べた、とあります。

この記事を紹介した米国のテクノロジーサイトThe Vergeによると「中国の顔認証技術が公のイベント中に犯罪者を逮捕したのは初めてのことではない」そうです。

The Vergeが引用した英Guardianの記事によると、中国ビール「青島」の本拠地、青島で開かれたビール祭りで、4つの入り口に置かれた18台の監視カメラが、25人の指名手配者を見つけて逮捕、他に12人が、犯罪歴や薬物乱用歴があって入場を拒否されたとのことです。結果は、1秒以内に出るというから凄い。

また、SCMP紙の消費者向けテクノロジー紹介部門であるAbacusのサイトでは、このケースを敷衍して、「当局がテクノロジーに急速に傾く中で、プライバシーへの関心が高まっている」として、二つの先進事例を紹介しています。

その一つは、ハイテクの有名になった深圳市。横断歩道の赤信号を無視して渡る(jaywalkerと言うそうです)ことはまま、あることで、そこにお巡りさんがいたら、警笛を鳴らされる程度のお叱りで普通はす済みますが、深圳では昨年から、< shaming offenders>(違反者の辱め、とでも訳すのでしょうか?)というシステムがスタートしているそうです。

これは、赤信号を無視して横断歩道を渡ると、その人の名前と、違反した様子を写したビデオが道路脇に設けた大きなディスプレーに映し出されるようです。Abacusの記事に添えられた写真はこれです。

深圳の交通警察によると、過去10ヶ月で、一つの交差点だけで14,000人も、この”辱め”を受けたそうです。

深圳では、これに止まらず、Intellifusionという顔認識技術の企業が、jaywalkerを見つけたら、顔認識技術で本人を特定し、直接、その人物のスマホに警告を送ったり、罰金を通告するシステムまで構想しているという話もあるとか。これが出来れば、”辱めの刑”の手間を減らせるというわけです。

また、中原地区の大都市、鄭州市では、データベースに繋がったスマートサングラスを付けた警官が登場しています。

一般の監視カメラCCTV(Closed Citcuit Terevision)の画像はぼやけることもあり、データベースで特定した時には、その場から容疑者がいなくなっていることもあるのに対し、スマートサングラスだと、鮮明だし、その場で容疑者を追えるメリットがあるとThe Vergeの2月の記事にあります。値段は636ドルと高いですが。

同時期のWall Street Journalの記事では、「中国は最新監視システムの配置で世界のトップリーダーだ」とした上で、このモバイル端末を紹介し、鄭州市の東駅で、重大事件に関わって指名手配中の7人と、他人名義で旅行中の26人の逮捕に繋がったと報じています。

冒頭に紹介したように、なんだか、オーウェルの「1984年」が古臭く思えるほどの進化ぶりですが、これを、日本や欧米にそのまま持ち込んだら、議論が沸騰しそうです。

それが、中国では受け入れられているかに見えることについて、AbacusのKaren Chiu 記者は「プライバシーという概念が中国では比較的新しいという文化的違いかも」と記しながらも、「しかし、最大の理由は市民を監視下に置こうという政府の姿勢だ。西側とはそこが違う」と断じています。

しかし、最近のWall Street Journalの記事では、NYPD(ニューヨーク市警)は、ニューヨーク州のDepartment of Motor Vehiclesへのアクセスを望んでいるとあります。

そこには、免許証に載った顔写真のデータベースがあるからです。今、NYPDが犯罪捜査などの際に使える顔写真のデータベースは、警察のご厄介になった際に署内で撮影した顔写真(Mug shot)しかないからです。

それは、まだ認められず、そこに、中国との違いがあるように見えますが、米ジョージタウン大学Center on Privacy and Technologyの調査によると、趣は若干、異なります。アメリカ人の大人の半分は、免許証写真へのアクセスが可能になっていることが分かったのです。26州で警察が免許証写真データベースへのアクセスが認められ、うち、16州ではFBIのアクセスも認めているからです。

日本での監視カメラの氾濫を見ても「東西の違い」は薄れていくのでしょう。