もう13年も昔のことですが、野村総研の一つのレポートが広告・放送業界で物議を醸し大騒ぎになったことがありました。

それは、当時はHDDレコーダーと言ったのですが、今でいうDVRの出現で、「2005年、テレビCM市場の2.8%、金額にして「540億円が失われる」と予測したことでした。

要するに、DVRではCM部分を多くの人(64.3%)がスキップしてしまうから、CMの価値が失われるというのが野村総研の見方でしたが、電通などが疑義を呈し、素人にはなんだかわからないうちに収束してしまった感じでした。

このことを思い出したのは、先週、発表された放送界のピュリツァー賞ともいうべきピーボディ賞の受賞作品を知ったからです。

その メインであるEntertainment, Children’s and Youth 部門の受賞作は圧倒的にストリーミングサービスの手になるものだったのです。そのリストはこれです。

①“A Series of Unfortunate Events”
②“American Vandal”
③“Better Call Saul”
④“Hasan Minhaj: Homecoming King”
⑤“Insecure”
⑥“Last Week Tonight with John Oliver”
⑦“Saturday Night Live” Political Satire 2017
⑧“The Handmaid’s Tale”
⑨“The Marvelous Mrs. Maisel”

このうち、①②と④がNetflix、⑧がHulu、⑨がAmazonの配信番組で、受賞番組9つの過半数をオンデマンドのストリーミングサービス(SVOD)のオリジナル作品が占めました。

③はケーブル局のAMC、⑦はネットワーク局のNBC。⑤と⑥を作ったケーブル局HBOはストリーミング配信もしていることを考えると、なんだかストリーミングが主流になりつつある感じもしないではありません。

SVODは、ほとんどがネット接続したテレビ受像機で見られているそうですから、これだけ、優秀な作品がSVODから提供されるようになると、ネットワーク局の番組視聴時間は減り、「無料」が看板で、それを支えるネットワーク局のCM視聴時間は減ってしまっているのではないか?

そんなことを思って、冒頭の野村総研のエピソードを思い出したのです。

そこで、ちょっと調べたら、やっぱりそうした危惧に言及した記事がありました。<Netflixは米国のテレビ広告市場から最大60億ドルを奪っている>とする記事です。

要点はこうです。Netflix契約者は一日あたり1時間15分、Netflix配信番組を視聴している。一方、ネットワーク局のCMは1時間あたり平均14分で、1本のCMを30秒とすると、Netflixを見ているうちに35本のCMが見られる機会を失ったことになる。

ある調査では、Netflix視聴はプライムタイムにスタートが45%、それ以外が55%。これで計算すると、年間でNetflix契約者はプライムタイムで5753本、それ以外で7032本のCMを見なかったことになる。

一方、この30秒CMのCPM(1000人あたりのコスト)はプライムタイムで固く見て18ドル、それ以外で5ドルとして計算すると、Netflixが存在しなければ見られたであろうCMの価値は一人当たり139ドル、これにNetflixの契約者5640万人を掛け合わせると76億ドルに達する。

しかし、これには広告のないHBOなどのプレミアムケーブル局の存在や、DVRのスキップ率などを考慮してないので、それらを踏まえると最大60億ドルが失われた可能性があると弾いているのです。

米国のテレビ広告費の規模は720億ドル、その8%にもなります。野村総研が出した540億円という数字は、当時の日本のテレビ広告費2兆436億円の2.6%でした。それでも、大騒ぎになりました。

それを思えば、この60億ドルという数字は相当に重い意味を持つでしょう。ましてや、Netflixはウォールしトリートの予測を上回って破竹の進撃を続けているのですから。

このため、ケーブル局、Turner NetworksのJohn Martin CEOのように「TV広告のありようを変えなければ、視聴者全てをNetflixとHuluに持っていかれてしまう」と危機感を募らせるテレビ経営者もいます。

まあ、それに比べると、政府の放送制度の見直しについて、「絶対反対」とだけ言ってる日本のテレビ経営者はまだまだ恵まれてるってことでしょうか。