ゴールデンウィークの連休中に、流行りの「働き方改革」に絡む話題はふさわしくないかもしれませんが、たまたま、傍目には「仕事の虫」のように見える世界一の金持ちジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)氏が、「ワークライフバランスという言葉は嫌いだ」という趣旨の発言をしているとの記事に興味を惹かれ、そのソースに当たってみました。

これは、氏がドイツの大手メディアにしてデジタル分野での躍進が目覚ましいアクセル・シュプリンガー(Axel Springer)社が「革新的な人物」に授与する「Axel Spriger Award 2018」に選定され、受賞のためベルリンを訪れた際に、同社のCEOマティアス・ディップナー(MathiasDöpfner)氏と、壇上で50分に及ぶトークセッションをした最後に飛び出した発言でした。

そのトランスクリプトを読みだしたところ、ベゾス氏が幼少時の思い出から、創業時の苦労、ワシントンポスト買収の経緯、トランプ大統領から目の敵にされている現状、そして宇宙船ブルー・オリジン開発の真意などなど、これだけ包括的に語ったものに出会ったことがないので、引き込まれてしまいました。まずは、興味深い幾つかを高速駆け足で紹介します。

最初に驚かされたのが、ベゾス少年がコンピューターに出会ったのは小学校4年生の時で、メインフレームに繋がったテレタイプが地元企業の寄付で導入されたものの先生方は誰も使えなかったので、ベゾス少年とあと2人の児童が放課後に居残って、独学でプログラムをマスターしたというエピソードでした。

本人は「とてもラッキーだった」と語っていますが、これは、中高一貫校に入学した翌年にテレタイプが入って、中2からそれをほぼ独占し、コンピューターにのめり込んだマイクロソフトのビル・ゲイツ氏のケースと酷似します。天才には幸運も巡り合わせるのだと得心。

また、16歳まで、夏の休暇は祖父の牧場で過ごしたそうですが、そこで病気になった牛の治療や牧場の補修、管理まで全て自前でやることを学んだそう。それが、アマゾン創業期は予想を上回る繁盛で、たった10人で、発送まで自前でこなし切ったことに繋がったよう。なんでも創業3日目に成功を確信したとか。

そして、世界で56万6千人の従業員を抱える超巨大企業に成長した今、経営のあり方について批判がついて回ります。3年ほど前にはNYタイムズが、内部告発的な声を網羅的に集めて、メディアとしては異例と思われるほどの批判的な記事を書きました。

最近も、英国の配送センターでは、従業員がトイレにも行く余裕がないほど労働条件が過酷で、おしっこはボトルにしてるほどだ、という潜入記事が出たばかりです。そして、先の大統領選以来、ワシントンポストが厳しい姿勢を取っていることからトランプ大統領に目の敵にされ続けています。

これらについて、ディップナーCEOが「批判は正しいと思ってるか?」と切り込むと、こう答えます。

「以前には正しい批判があった。我々はミスを犯したが、変えた。今は労働条件も賃金についても誇りを持っている」「我々は精査されるべきだ。政府の巨大組織、巨大NPO、巨大な大学などと同様に」。

そして「ついでに言えば、ワシントンポストやその他の偉大な新聞が政府機関がやる前にしばしば最初に精査をするのだ」とチクリと大統領に反撃も。

さらにCEOが「facebook、Google、Amazon、Appleといった、つい先日まで世界を救うとみられていた巨大Tech企業が今や悪の源(evil)みたいに思われてるが」と質すと、「それは自然な直感だろう。我々、西側民主主義国に住む人々は、どんな組織であれ、巨大組織に懐疑的なものだ」とかわします。

また、「一体、巨額の資産を何に使うつもりだ」と聞かれると、「私の曽孫の曽孫が文明の停滞した地球に住んで欲しくない。太陽系の宇宙に飛び出せば1兆人を養える。そのために毎年10億ドルを支出する」などと大真面目に自らのロケット事業Blue Originの使命について熱く語ります。この辺りは凡人の当方には理解の及ばないところです。

そして、本題のワークライフバランスです。最後の最後に、ディップナー氏が「あなたは家庭的で理想的な父親だとみられてる」と持ち上げたところ、「子供達は私の歌をからかうよ。とてもいい関係だ。この『ワークライフハーモニー』こそ、」私が若い社員や上級幹部に伝えたいことなんだ」と応じました。

「でも、いつも『ワークライフバランス』について尋ねられる。それについての私の見方は<debilitating phrase>(人を弱くさせる言葉)だな。なぜなら、仕事と生活にトレードオフがあることを含んでいるからだ」

具体的には、こう表現します。「もし、家庭でハッピーなら、会社に大きなエネルギーを持ってこられる。もし、仕事でハッピーなら、大きなエネルギーを持って帰宅できる。 It actually is a circle; it’s not a balance.

仕事と個人生活は二項対立ではないということですね。ま〜るく繋がってる。これがベゾス流の「ワークライフバランス」かな。

そして、こう締めくくります。「オフィスからエネルギーを無くしちゃうような同僚を持ちたくないでしょ。そんな奴は蹴り出しちゃえ!」

皆さんもベゾス流に、ハッピーな連休を過ごして、エネルギー満々で出社してください(笑)

ちなみに、ベゾス氏のルーティンは、毎日、家族と朝食を摂るために、会社での早朝ミーテングはせず、夕食の後は自分のお皿を洗うそうです。そして睡眠8時間。

(蛇足:そう言えば、竹下元首相が大蔵大臣だった時代、朝駆けした記者と朝食を共にしましたが、食後、自分で食器をシンクの洗い桶まで運んでいたのを思い出しました。あれも、若い記者にワークライフハーモニーを教えていたのかな?)