日本の新聞は他紙のことを報じることは「人事」以外滅多にないようですから、当たり前かもしれませんが、米国のデンバーポストを巡る大騒ぎについては、日経テレコンで検索しても1件もヒットしません。完全無視です。

ところが、googleでコロラド州デンバーの日刊紙「Denver Post 」とそのオーナー会社である「Alden Global Partners」で検索し、「ニュース」に限定しても1万1300件もヒットします。米国メディアがいかに関心を寄せているかがうかがえます。

簡単に言うと、ニューヨークに本社があるヘッジファンドAldenが所有する全米2位の新聞チェーンDidital First Media(DFM)が、8年前に買収したポストで強烈な人員削減が進んだことに危機感を持ったスタッフが立ち上がって親会社と敵対状態に入っているおり、これが米国のローカルジャーナリズムの危機の典型として注目されている、ということです。

その、人減らしの凄さを示すためにポストの論説委員会主導で編集した特集面で掲げた写真がこれです。

5年前には編集局にはこんな感じで記者がいっぱいいたのに、人減らしが進んで、今はこんな感じになってしまった、と。

で、その特集面というのが、4月8日付けのオピニオン面で、6ページに亘って、親会社AldenのCEOが、「(傘下の新聞チェーン)DFMは堅実に利益を上げてる」と言いながら、過酷な人員削減を進めるのは金儲けだけで、ジャーナリズムをないがしろにするもの」とする記事を満載して、こうアピールしました。

「ジャーナリズムをやる気がないなら、その志のある所にこの新聞を売ってくれ」

社員が自社の売却を求めるという異例なアピールは、全国的に注目を集め、ニューヨークタイムズのDean Baquet編集局長もCNNの報道番組で、この動きを念頭に「ジャーナリズムが直面する危機は、トランプの攻撃よりローカル紙の凋落だ」と、深い憂慮を表明するほどでした。

これに追い討ちをかけるように、メディア業界に精通するKen Doctor氏が、DFMが業界最高レベルの17%にも及ぶ営業利益を上げていて、金額は1億5900万ドルに及ぶという内部情報を報じました

しかし、オーナーのAldenは音無しの構え。それどころか、オピニオン面の編集長は、ポストの上層部から、AldenやDFMへの批判記事掲載を禁止されたことで、編集長が辞任し、騒ぎは拡大します。

そこで、先週火曜日、ポストの記者と同じDFM傘下のOrange County Registerなどの記者、合わせて12人がニューヨーク・マンハッタンのAlden本社前に詰めかけ、抗議の声を上げました。その後、1万1千人がネット上で署名したという「ジャーナリズムに金を使うか、さもなくば売却を」とする陳情書を会社側に手渡そうとしましたが、警備員に排除されて、果たせなかったようです。

先週は、これに関するNYタイムズの記事を含む、いくつかの記事を読んで、営利に徹した米国の新聞経営の過酷さを知らされたのですが、まあ、米国ローカル紙の一つの騒ぎに過ぎないかも、とも思っていました。

でも、今日になって、ポスト紙の文化部記者がAtlanticに寄稿した長文の記事に触れて、一段と暗澹たる気分が募り、この投稿をする気になりました。

書いたのは、John Wenzel記者。2000年にコロラドに来て、ポスト紙で編集助手から仕事を始め、助手時代に同僚を見初めて結婚、現在に至るポスト一筋の人生。

かって310人もいた編集局員は、Aldenに買収された2010年には200人まで減っていましたが、その後のレイオフで今は100人以下となり、7月までにさらに30人の追加削減が命じられているそうです。

ですから、かっては、音楽、映画、ビデオゲームなどを担当する、日本でいう文化部チームには2ダース以上の記者がいたのに、今は、たった一人でアートとエンタメ全般を担当していると嘆きます。彼が生き残ったのは「多分、僕に専門性がないからだ」と書いているのが胸に刺さりました。

日本でも、新聞が生き残るには、専門性のある記者の育成が大事だ、と叫ばれたことがありました。でも、経営至上主義、利益優先となれば、専門性も何もないってことになるわけですね。

また、先のDoctor氏の記事では、同じDFM傘下のOrange County Registerの記者が、その窮状をこう訴えています。

同紙は2年前に買収されました。その時点で、全盛期には400人もいた記者は180人に減っていましたが、それから2年経った今は、さらに減って、わずか60~70人が残っているだけだそう。ですから、ページ数は大幅に減り、全米最大の人口320万人を抱えるオレンジ郡内の34市をたった4人でカバーしているとか。

加えて、記事の内容も、オレンジ郡特有の内容でなく、DFMの系列紙全部で使える内容を探せ、と指示されているのだそう。そしてヘルスケアや教育の専門記者はいなくなった。ここでも、専門性は無視された上、地域性まで軽視されています。

先に紹介した、NYタイムズのバケー編集局長の嘆きが胸に落ちます。

ポストのWenzel記者は、サイトの陳情ページに「新聞の<Civic Value>を認める人」、「コロラドを思う大富豪」などに、ポストを買って貰えばいい、と書き込んだそうですが、「それは、今時点で起きそうもない」と書き、「私の首は、この記事が出る今週金曜日には繋がってるだろう。でも来週のことは分からない(Next week is anybody guess)」と結んでいます。

ちなみに、ポストの論説特集の最初の見出しはこうでした。

As vultures circle, The Denver Post must be saved

<ハゲワシ(強欲人間)が(屍肉を漁ろうと)上空を舞っている。ポストは救われねばならない>。まあ、こんな騒ぎの起きない日本の業界はまだ幸せな状況なのでしょう。

なお、全米新聞労働組合が作成した、Aldenのやり方を糾弾するYouTubeビデオがありました。ハイスピードですが、背景が分かりやすいかと思いますので貼っておきます。