残念ながら日本からはストリーミングでも視聴はかないませんが、米国では27日の日曜夜に「The Fourth Estate」と題するドキュメンタリー番組がShowtimeで放映されたはずです。

米国での存在感が抜群のニューヨークタイムズ(NYT)が、いかに「第4権力」としてトランプ政権の1年を監視し、報じたかを中心にしたもののようで、4回シリーズだそう。初回は90分、その予告編です。


花形記者たちがかっこよく描かれているようですが、実は、かっての新聞不況は他紙同様、NYTを直撃し、今とは真逆に記者たちが新聞の前途を危ぶみ、苦悩していた時期がありました。そのころに撮られた映画が「Page One」です。これも、NetflixやAmazonPrimeビデオで視聴できないので予告編です。

こっちは2011年公開の作品です。この年に、NYTは、一般紙では難しいとされていたニュースサイトの有料化に踏み切りました。映画はそれ以前を撮りました。有料化は、様々な工夫を凝らしたことが功を奏して軌道に乗り、以来、多くの新聞社サイトが追随することになったのはご存知の通りです。

で、好調なNYT、先日、また新たな”商品”の”発売”をプレスリリースで予告しました。

「また」と言うのは、2016年11月にはスマホ向けクロスワードアプリ、昨年6月にはcookingサイトへのアクセスをそれぞれ有料課金サービスとしてスタートさせているからです。で、今度は、「parenting(子育て/育児)」に関する有料製品だそうです。

この手のプレスリリースだと、普通はその新製品の発売時期や価格に言及するものですが、このparenting製品についてはそれがありません。その代わり、冒頭にこう述べます。

「非ニュース製品が我々のビジネスに顕著な価値を加えることを示してきた」

そしてこう続けます。「クロスワードとcookingは急速に成長するstand alone(独立型)のsubscription(有料購読)ビジネスとして、NYタイムズの各決算期に多数の新規契約者をもたらすことで貢献している」と。

ここでは数字を挙げていませんが、これは今月3日に公表された2018年第1四半期決算の内容を踏まえたものでしょう。こう書かれています。

「有料購読者は2017年第4四半期より13万9千件増加した。このうちニュースサイトの契約が9万9千で、残り4万はcookingとクロスワードからである」

有料購読者の総数は278万3千。このうち、非ニュース製品のcookingとクロスワードが何件かは明らかにされていませんが、2017年第1四半期に限れば3割近くを占めています。

そこで、さらに新規の非ニュース製品の投入で有料購読者増のペースを維持しようということでしょうが、ここで新製品に「<parenting>を選んだことに大きな意味がある」とPoynterの「How the NYT chose ‘parenting’」は指摘します。

記者は「cookingとクロスワードの二つはNYタイムズ本体へのentry(入門)製品として機能している。安いし、繰り返しアクセスするうちにNYT本体に価値があるかも、って思わせる効果がある」と書きます。

そして3つ目のentry製品に選ばれたparentingの魅力は、ターゲットになるユーザーの平均年齢が低いということだというのです。おそらくはNYT本体の契約者より若い世代で、これまでNYTに接してこなかった若い親たちが「ひとたび、NYTの檻に入れば、いずれ本体契約にアップグレードする可能性がある」というわけです。

先のNYTのプレスリリースにも、その狙いを窺わせる記述があります。同社の「新製品・ベンチャー担当」トップのAlex MacCkallum女史はこういう言い方をしています。

「parentingはNYT本体が十分にカバーしている広い分野が含まれるスペースになる。親たちは信頼、権威、品質を求めているが、それこそNYTが提供できるものだ」

3つ目の非ニュース製品を何にするかはそうした観点から模索され、昨秋にかけて15〜20も検討対象にした後、一つに絞り、1月に幹部に認められ、2月にスタッフの採用に入った、とPoynterの記事にあります。

ニュースサイトの単なる有料化に止まらず、その本体有料サイトに誘い込む仕掛けとして、安くて親しみやすい別の関連有料製品を考案し、実現するという入念な手法に、改めてNYタイムズのデジタル対応が生半可じゃない、だからこそ、いち早く有料化を成功させ、好調を維持しているのだと実感させられた次第です。

なお、チームは5人。トップは、女性向けに社会性のあるテーマでメルマガ発信をしているというLenny Letterの編集長Jessica Groseさんが今月末に着任するそう。他に外部から教育玩具TinyPopのCOOやニュースサイトVoxのテクノロジー担当者を招き、内部から2人の5人体制でのスタートのようで、女性が4人です。また男性を含め、全員が「親」だそう。

全く余談ですが、この少数精鋭(多分)のチーム編成に、ふとボストン・グローブ紙がカソリック神父による性的児童虐待を暴いた一件を元にした映画「スポットライト」の少人数調査報道チームを思い出しました。確か編集長の下に4人だった。

21世紀初頭の大スクープを放ったけれど、それだけでは新聞は生き残れない。当時の親会社がNYTで、それが金融危機以来の新聞不況の中でNYTが2013年に売却してしまい、今のオーナーは、MLBボストンレッドソックスのオーナーでもある投資家です。

スポットライトのチームメンバーはどうしてるかな。