<STEM>という新しい略語があります。辞書に載ってる小文字の、<stem>の意味は「幹」です。ですが大文字になると、「Science, Technology, Engineering, Mathematics」の4つの学術分野の頭文字を取って、「今時の人気学位(の幹)」の意味になります。
米国ビジネスマンの給料事情などを報じるPayScaleの2017-2018 College Salary Reportの「高給が支払われる学位ランキング」でも、上位は圧倒的にSTEMの名称が付いた学位が占めています。
先端企業だけでなく、ほとんどの企業がこの分野の人材を必要とするのがデジタル時代。それを反映したランキングです。裏を返せば、この分野に進む学生は将来の”勝ち組”を半ば約束されるのかもしれません。
しかし、米国では、学位を問わず、4年制の大学(大学院を含む)を卒業した人は、短大卒や高卒などの人に比べ、年収や純資産で圧倒的に優っているというデータをセントルイス連邦準備銀行の調査組織であるThe Center for Household Financial Stability(家計安定センター)が先日、公表しました。
要するに、日本で言えば日銀の調査機関が「大学教育を受けることは絶対に元が取れる投資だから、行くべきだ」と言っているようなものです。親も大学出なら、なおその傾向が強いとか、親がそうなのに子が大学に行かないとひどいことになる、人種間格差は厳然としてある、なんていう、興味深いポイントが多いので、しばし、解読に没頭しました。
その、要素は14ページにある、このチャート図に凝縮されているように思います。(細かくて見にくいので、詳細確認のためにはレポートを見てください)
左から順に見ていきます。一番左の黒い人形のようなものは、米国の家族の年収の中間値を示します。5万2657ドルです。その右は中年家庭(世帯主40-61才)の年収中間値6万7239ドル。カッコ内に59th percentileとあるのは、この中年家族の年収より多い米国世帯は41%に止まると意味のよう。以下同じです。
さて、左から3列目。白い人形は白人家族、緑の人形は黒人、ヒスパニック、アメリカンネイティブ、アジア人など非白人世帯のトータルです。ここで8万ドル強と5万ドル弱という差がつきます。
4列目は、親が4年制大学以上かどうかで分類します。黒い学帽を被ってるのがそれを示します。
白人家庭で親が大卒ならその子供の家庭の年収は11万3618ドルで、そうでない家庭の6万5659ドルより7割も多い。
しかし、非白人家庭を見ると親が大卒でも、親が非大卒の白人家庭をわずかに上回る7万1695ドルに止まり、親が非大卒なら4万ドルあまりにすぎません。
さらに興味深いのが5列目。親が大学卒の子供の家庭を細く見ます。
親が大卒で自分も大卒の白人家庭の年収は15万6756ドルにまで跳ね上がります。
ところが、同じ白人で親は大卒だったのに自分は大卒じゃない家庭の年収は7万6758ドルと、2世代大卒白人家庭の半分以下に落ちぶれてしまいます。
非白人で親子2世代、大卒家庭、いわば非白人のエリート家庭かも知れませんが、年収は白人の親子2世代大卒家庭より5万ドルも低い。
親が大卒だったのに自分は4大を出なかった非白人は5万ドル以下で、1列目にある全世帯平均を下回ってしまいました。
要するに、大学へ行って学位を取らないと、中年になって後悔するよ、特に非白人は、という”学問のすすめ”ですね。人種間差別が厳然とあることも認める内容とも受け取れます。
これは、不動産や金融資産などからローンなどの負債を差し引いた純資産の相違でも同じです。
親子2代大卒の白人中年世帯では純資産が62万9900ドルにも達していますが、親が大卒なのに自分は学位なしだとその4分の1に止まっています。
非白人だとその格差はもっと広がって、親が大卒、自分は非大卒だと、2世代大卒家庭の10分の1程度しかありません。そして、親子とも非大卒、非白人の中年家庭の純資産は2世代大卒の白人中年家庭の34分の1に過ぎません。
親が非大卒の非白人が自分は頑張って大学を出ていても、2世代大卒白人家庭の6分の1しか純資産がない。
改めて、米国社会の厳しい差別社会の現実に触れる思いです。
それにしても、なぜ、連銀がこういう「4年制大学で学位を取ろう!」と勧めるようなデータを集めて公表するのか?レポートそのものにはその意図が見当たりませんでしたが、レポートを作成した家計安定センターの<About the Center>の最後に、センターが調査する狙いについて、こんな説明がありました。
「財政的に健全な家庭が、支出し、貯蓄し、投資を増やすに連れて国家経済も成長する」
なるほど。みんな、大学で教育を受けて、高収入を得るようになれば、国の経済もよくなるからってことですね。
しかし、巧まずして、このレポートは米国の学歴社会と人種差別の過酷さを浮き彫りにしました。<STEM>は、次なる差別、「学位差別」を産むことになるんでしょうか。
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