日本では、「生徒一人一人にタブレットPC配布」のニュースが珍しくなくなって来ましたが、米国では刑務所に収監されている「囚人一人一人に無料タブレット配布」の動きが広がっているようです。
今年初めにはニューヨーク州で5万2千人の囚人への無料配布が発表されましたが、デジタルメディアOutlineによると、それ以前にも、コロラド、フロリダ、ミズーリ、インディアナ、コネチカット、ジョージアなどでもそれぞれ数千台〜数万台が無料で配られているとのことです。
ニューヨークで配布しているのは刑務所を専門にする通信業者の大手、JPayで、導入時の謳い文句は「社会復帰の準備」とか「愛する家族とコンタクトしていれば囚人の振る舞いが落ち着く」などと、一見、チャリティー風です。
しかし、その実は、記事の見出しにあるように「とんでもない詐欺」だとOutleneが噛みつき、「刑務所を運営する州政府も巻き込んだ囚人を食い物にする略奪的な金儲け以外の何物でもない」と断じています。どういうことなのか。
JPayの囚人向けの特注タブレットJP5はこれ。ディスプレーは7インチです。
アプリは事前にインストールされたものに限られ、直接にはインターネットには繋がらないので、自分でアプリを追加することはできません。
ここにあるように、音楽のダウンロードやメールのやりとりなどは業者の用意したキオスクを介して行います。他に送金やチャット、電子面会などもできるようです。
デバイスだけでなく、そうしたサービスもただで行えれば言うことはありませんが、そうは行きません。
それどころか、その料金が法外なのです。契約は州毎に異なるようですが、Syracuse.comが先のニューヨーク州との契約料金を報じています。
・メール1通:35セント。写真付きなら2倍、ビデオ付きだと4倍。
・電子面会=ビデオ会議:1時間18ドル。
・音楽:一曲最大2.5ドル、アルバムはなんと最大46ドル。
・送金:金額によるが20ドルの場合で手数料3.15ドル。
特に驚きは、ネットならプロバイダー料金に含まれて、通常は”タダ”感覚で使えるメールに郵便並みの料金がかかること。JPayでは、「stamp(切手)」という表示で、料金を決めていて、1stamp=35セントです。
で、Wiredの記事によると、1stampの料金は変動制で、繁忙期の母の日前後は47セントに跳ね上がるそう。
塀の外にいる人の感覚でも高いのですから、塀の中の労働で平均時給92セントしか稼げない囚人にとって過酷な料金でしょう。
送金する側も、囚人の家族は一般に平均より貧しいとされているそうですから、その手数料の高さが身に染みるはずです。
刑務所問題を考えるNPO、 Prison Policy Initiative(PPI)は、2017年1月時点で、州刑務所だけでこうした送金手数料が9,920万ドルに達したと推定しています。
Outlineは、こうしたことなどを総合して、PPIのボランティアとして刑務所通信システムを調査したStephen Raher弁護士の言を紹介します。
「市場価格を上回るまさに略奪的な価格設定だ。純粋な利益追及に他ならない」
チャリティでもなんでもない、というわけです。
業者だけではありません。刑務所側もおこぼれに預かっています。上記のPPIの調査では、通信業者の売り上げの10~20%を得るのが通常のようです。
また、先のWiredの記事では、刑務所がメール1通毎に5セントのコミッションを取っていると指摘し、2014年の数字ですが1420万通のメールがあったので、全体で72万ドルを手にしたはずとも書いています。
ニューヨーカーの2年前の記事では、JPayの親会社Securus Technologiesが、過去10 年間に支払った手数料は13億ドルに及ぶと書いています。
さらにOutlineは、価格が高いほど刑務所へのキックバックの金額が上がるので、より安く、というインセンティブが働かないとも指摘、過去には業者から賄賂を受け取って、懲役20年を課されたミシシッピ州の矯正局長の例をあげています。
またIndyStar.comによるとインディアナ州のPublic Defender Council.で広報担当官(public affairs officer)を務めるKristin Casper氏は「囚人には他に選択肢がないのに、こんなに高いのは正当化できない」と述べているそうです。
こうした中、コロラド州では、2年前にJPayのライバルGlobal Tel Linkが囚人に無料配布した1万5千台のタブレットを8月1日に回収しました。「セキュリティ関連」としか公表されていません。もしかしたら、関心を呼んできた、無料配布の曲がり角なのかも。
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