報道陣と敵対し、「メディアはアメリカ人民の敵」とまで言い放つトランプ大統領に抗議し、報道の自由を訴える社説が16日、全米の新聞に一斉に掲載されました。

ボストン・グローブの論説委員会の提案によるもので、CNNによると、応じたのは約350紙でした。社説内容は各社独自のものです。

その参加した新聞名と社説の見出し一覧もCNNが収集してくれていますが、ざっと見たところ、ワシントンポスト、ウォール・ストリート・ジャーナル、ロサンゼルス・タイムズ、SFクロニクルズといった日本でも知られている新聞の名前が見当たりません。

そこで、その一つ、ポストの関連記事を探して読みました。最大のライバル、ニューヨークタイムズは巨大な活字も使って堂々と論陣を張っているのにどうしたことだろうと。

上の見出しはNYタイムスの社説のものですが、ポストの記事にはこうありました。

「バロン編集主幹はこれまでトランプ大統領の攻撃に直接、対応してきた」とした上で、「我々は大統領と戦争をしているのではない。我々は自分の仕事をしているだけだ。ヒラリー・クリントン陣営とも同じ姿勢で積極的にアプローチしている」というバロン主幹の発言を紹介しています。

ホワイトハウス、連邦議会のある政治の中枢ワシントンD.C.を本拠にする新聞として、他紙とは立場が違う、と言いたいのかもしれませんが、いまいち、共同歩調を取らない理由としては?でした。

しかし、その記事の中で、「大統領は最大関心事ではない」と主張して、参加しなかった新聞があったことを知りました。

メリーランド州アナハイムのキャピタル・ガゼット(Capital Gazette)紙です。部数3万程度の小さな新聞ですが、今年6月、編集部に乱入してきた男が銃を乱射、5人が死亡、2人が負傷した事件で知られます。

その16日付けのオピニオン<Our Say>の見出しは「我々はトランプ大統領よりアナランデル(郡)の見方により関心がある」でした。

「大統領の意見が我々にとって重要でないから他の報道機関と協調しないのではない。このコミュニティが私たちをどう考えているかについてはるかに心配している」

アナランデル郡はガゼット紙の地元。それは、5人の犠牲者を出した乱射事件の犯人は地元住民で、ガゼット紙の報道に不満を持っていたのが事件の契機だったと見られているからです。

「いい加減な新聞だと見られていると、また事件が起きかねない」という自戒でしょうか。それは、大統領を非難して、「報道の自由」を叫ぶことでは解決しない、ということでもあるでしょう。

そこで、思いついたのが、グローバル・マーケティング・リサーチ会社Ipsos(本社・パリ)がつい先日、公表した<Americans’ Views on the Media>というレポートです。

その29枚に及ぶPDFを見ていると、トランプ大統領とメディアに関わる、とても興味深い設問がいくつもあったのです。

例えば、冒頭にあげたトランプ大統領の暴言、「報道機関はアメリカ人民の敵」という発言に同意するかどうかを聞いたところ、29%が同意すると答えました。

その党派別内訳を見ると、共和党支持者の48%もが同意しているのです。民主党支持者の中にも12%、無党派では26%が同意しています。

NYタイムズやワシントンポスト、CNNといった大統領が目の敵にする「メインストリームメディアはトランプ大統領を不公平に扱っていると思うか」については、民主党支持者は11%しか同意しませんでしたが、共和党支持者の79%がそう思うと答えています。

「そのメインストリームメディアを大統領は閉鎖すべきか」という過激と見える設問まであり、それに同意する共和党支持者は4人に1人(23%)もいました。民主党支持者にも8%います。

Fake newsなどを念頭に「大統領はbad behavierを行うメディアの閉鎖権限を持つべきだ」に合意する共和党支持者は43%で、うち「強く合意」は23%でした。

同じくメインストリームメディア絡みで「メインストリームメディアは真実を語るより金儲けに関心がある」については、共和党支持者のなんと84%が同意していました。そのうち「強く同意」が54%もいたのです。民主党支持者も3人に1人が同意し、うち、強く同意は14%でした。

また、「メディアは正直な報道にベストを尽くしている」との問いに同意した共和党支持者は29%しかいませんでした。(民主党支持者は68%が同意)

キリがないので、この辺にしますが、トランプ氏を大統領に選んだ共和党支持者のメディアへの強烈な不信が随所に窺えます。

それを踏まえれば、350紙に及んだというトランプ批判のアピールも、民主党支持者には届いても、おそらくは共和党支持者には全く届いていないことでしょう。反発を招いただけかもしれません。そして、一層の新聞離れに繋がるかも。

その意味で、キャピタル・ガゼットの、国民のさらなる亀裂を招く大統領批判より、「コミュニティの声を大事に」という姿勢が毅然として見えるのです。

それをワシントンポストも考えて社説の一斉掲載に参加しなかったのかも。それを示唆するためにガゼットのケースを紹介したなら、相当なものです。