テレビの野球中継で、投手の真後ろからのホームプレートの映像が当たり前になって、私たちは「ストライク」「ボール」や球筋をお茶の間で見極めることが出来るようになりました。
時々、球審のおかしな判定もありますが、大抵は大事に至りません。しかし、場合によっては試合の流れに影響することもあります。
なぜ、こんなことを思ったか。昨日の甲子園の決勝、金足農対大阪桐蔭戦の1回裏の攻防で微妙な判定があったからです。
桐蔭、無死1、3塁という絶好のチャンス。しかし、金足の吉田投手は強打者の3番、4番を連続三振にとり、5番打者も1ボール、2ストライクまで追い込み、その4球目は144キロの速球で、捕手の構えた外角低めのミットに吸い込まれます。
微妙です。判定はボール。球場がどよめきます。つい先日の読売のスポーツ面コラムにこうありました。「高校野球の要諦は外角のストライクゾーンにある。プロ野球などに比べて、あきらかに広い。ここへの出し入れが投手の生命線になる」
ならば、ストライクでも全くおかしくないと思われる球筋でした。吉田投手も苦笑いしてるように見えました。(試合のフル映像はこちら)
ここで、ストライクの判定なら、桐蔭の強力なクリーンナップ3者3振でピンチを切り抜けた金足に流れが傾いたかもしれません。でも、決め球で三振を取れずに気落ちしたのか、結局その5番打者に四球、6番打者の時にワイルドピッチのあとヒットを打たれて3点を失った吉田投手は、その後、精彩を欠いたまま、大量失点して敗戦です。
球審の判断によって試合の流れが変わるなら、いっそ、電子的なシステムにストライク、ボールの判断を任せれば、問題が生ぜず、選手にも悔いがないんじゃないか。
大昔の野球小僧だった当方は以前から、そんなことを思っていました。それは、技術的にはとっくに完成していて、大リーグの全球場に装備されていることは、4年前の当ブログ「マー君勝利に繋がったビデオ判定。でも誤審だらけの球審のコールは治外法権だって」で紹介しました。
その装置はSMT社のPITCHf/xというもので、誤差は球速なら時速1キロ以内、ストライク、ボールなら1インチ以内とのことです。
4年前のブログ記事では、二人の大学准教授がPITCHf/xの分析で、打者がバットを振らなかった時の判定で14%もボール、ストライクの判定に間違いがあったと紹介しました。(詳細はinforms PubOnlineにありますが有料です)
この問題は、2年前に、ケーブルテレビHBOのReal Sports with Bryant Gumbelでも取り上げられ、この時はイェール大の教授が出演、100万球を分析した結果として正確だったのは88%、つまり誤審率は12%だと述べました。
これを報じたStar Telegramの記事によると、この88%には、ど真ん中のストライクや、大きく外れたボールの判定を含んでいて、それらを除外、2インチ以内のきわどい球に限ると誤審率は31.7%にも達したと言います。
それなら、昔々の野球小僧が思うように、とっとと電子判定を導入すればいいのに、と選手も思っているようですが、それを口にするのはどうやらタブーのようです。
さる14日のシカゴ・カブスとミルウォーキー・ブルワーズの試合で、そのことを口にした選手が退場処分を受けたのです。6回に見逃し三振のコールを受けたカブスの2塁手、ベン・ソブリスは、その後の攻守交代の際に球審にこう言いました。
「わかるかい。あれが我々が電子ストライクゾーンを望む理由だよ」
彼は見逃し三振を喫した後、ベンチで映像を見て、誤審だと確信して球審に告げたようですが、それが13年目のベテラン初の退場になったのです。
それほど、アンパイアは電子ストライクゾーンの導入に神経質になっているっていうことでしょうか。この件について、MLBのロブ・マンフレッド(Rob Manfred)コミッシュナーはスポーツサイト大手The Athleticの5月のインタビューにこう答えたそうです。
「もし、ストライクゾーンについての支配権を球審から無くしたら、ゲーム全体を管理する権威を球審から奪うことになる」「それを変えることは慎重に考慮する必要がある」
アウト、セーフにはビデオ判定を導入しても、球審の判定を”治外法権”に置くのはそういうことなのですね。
勝負にイフはないというけれど、金足農・吉田投手のあの試合開始から24球目がストライクなら、きっと、緊迫した試合展開になったに違いないと、”判官贔屓”的な立場で見ていた元野球小僧としては思わずにいられません。
でも、試合を管理するのは球審なのですから、詮無いことなのですね。人間の球審の代わりにロボット球審がいる姿が好ましいとも言い切れないし・・・
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