カリフォルニア史上最悪と言われた同州北部の山火事Camp Fireは17日間燃え続けて、日本時間で月曜日にようやく鎮火しました。もっとも被害が大きかったのはParadise(パラダイス)市で、住居の95%が焼失し、2万6千人の住民は全員が避難し、散りじりになった状態です。

ところが、創刊以来71年にわたって、小さな町の出来事を報じ続けてきたParadise Post紙(週2回刊)は、この間も発行され続け、避難所、ホテル、トレーラーハウス、知人・友人宅などに避難している読者を探して、配達していたそうです。

しかも、この新聞は正規社員が3人しかいない小世帯。編集に当たるのは編集長のRick Silva氏と記者1人の二人だけ。その二人が読者を探しては手渡ししていた、とNBCネットワーク系WKYCテレビのサイトにあります。
記事では、Silva編集長の泣かせるセリフがたくさんあります。例えばこう。「大事なことは、避難せざるを得なかった顧客を我々は持っているということ。彼らは顧客というだけじゃない。我々の隣人であり、友人なんだ。これは彼らの新聞であり、我々の考えは彼らの考えなのだ」

こうも言ってます。「今、街は拡散してるだけなんだ。我々はまだパラダイスの住民を持っている。彼らは単に今は自分の住まいにいないだけなんだ。だから我々は彼らを探すんだ」

しかし、インターネットがこれだけ普及した時代に、なぜこんな困難な状況で紙の新聞を出し続けるのか?それは「インターネットは火事をフォローする存在ではないし、大体、多くの人が逃げる際に(ネットが見られる)スマホをなくしてる」からだと。

そしてこの地で生まれ育ち、大学卒業後、すぐにPost紙に雇われて8年以上になるSilva編集長は、今、パラダイスの人々が欲する、必要な情報は何かをどのメディアよりも知っている立場でもあります。

なんだか、記事を読んでいて、2011年の東日本大震災の際に、輪転機が水没したので新聞印刷ができなくなった石巻のローカル紙「石巻日日新聞」の壁新聞を思い出しました。

形式は違いますが、地元に密着した小さなローカル紙として、住民に必要な情報をマジックペンで書いて、避難所の住民に届けた心意気が同じように感じられたからです。

しかし、ふと、疑問が湧きました。街の大半が灰燼に帰したのにPost紙の社屋はどうなっているのだろう?一体、どこでどうやって印刷しているのだろう?

で、昨日の朝、Silva編集長に直接、聞こうと思い立ちましたが、彼はメルアドを公開していません。でもFacebookやTwitterのアカウントがあるので、メッセンジャーでいくつか質問を送りました。まだ、返事はありませんが、その後、CNNNPRで関連記事を見つけ、おおよそのことはわかりました。

Paradise Postは大手新聞チェーン、Digital First Media(DFM)の傘下にあり、Paradiseに隣接するChico市のローカル紙Chico Enterprise-Record(ER)も同じDFM仲間で、姉妹紙関係にあるのです。Chicoの火災被害も甚大で、ERの社員10人が住まいを失いましたが社屋は無事。印刷も問題なし。

ここの編集部は15人ほどもいて、編集長のDavid Little氏が普段から週2回発行のPost紙の管理を兼ねているという強い関係だったのです。

ですから、普段からPostの印刷はER紙の工場で行われていたのでしょう。CNNの記事に添えられたビデオを見るとPostの編集自体もERの編集室で行われているのが窺えます。(これで、正規社員3人で運営できている訳が分かりました。要するにPostは実態はERの一部のようです)

これだけ強い関係にあるので、ERのLittle編集長の考えもSilva編集長と同じで、「Paradiseの住民は多くを失ったがPostは残った。復興に向けてのシンボリックな存在だ」と言います。そこでPost紙の個々に読者を探しての手渡しでは限界があるとして、今週から新たな方法を採用するとのことです。

それは、Paradiseを焼け出された多くの人が避難しているであろうChico市と同じButte郡Oroville市で発行されている、これも姉妹紙のOroville Mercury-Register と合わせて3万部ほどに、週2回刊のPost紙を挟み込んで配達することにしたそうです。そうすれば、避難所以外に身を寄せているParadiseの住民の手に届きやすいだろうという考えです。

「新聞はありがとうって言われるのを聞いたことがないけど、こんな時だけありがとうって言われる」と笑い飛ばすかと思えば「新聞にはStaying powerがある。何年か経って、大火事の最中に何が起きたかを振り返る歴史本の一種になる。そのために仕事をしている」とLittle編集長。

ネット時代、新聞は斜陽産業に違いないけれど、社会のために、読者のために、という新聞人の心意気は少しも衰えていないんですね。頭が下がります。