日本時間の今朝(6日)未明、トランプ大統領がツィートしました。「NYタイムズのジル・アブラムソン前編集局長が、同紙は間違いなくアンチトランプに偏向してるって暴いたぞ」。


「彼女は100%正しい。彼らの書くもののほとんどはフェイクニュース、人民の敵、そして野党なんだ」と、思わぬ”援軍”に鼻高々です。

しかし、その1時間あまり後、当のアブラムソン女史が反応します。「私の新著 Merchants of Truthを読んだ人は誰だって、私がタイムズを崇敬し、あなた(トランプ)に関するタフな報道を賞賛してることが分かるでしょう」


この行き違いは一体なんなのか?幸い、私は、この件の始まりからウォッチしていたので、整理してみます。

始まりは、トランプ支持で知られるFoxテレビで、番組ホストを務めるHoward Kurtz氏による「NYタイムズ前編集局長、トランプ報道は偏向してると暴く」という1月3日の記事でした。

それは2月5日に発売予定の彼女の新著を入手したカーツ記者がその内容を紹介したもので、その中で、「タイムズが財政的なインセンティブから大統領を叩いているが、その不均衡はタイムズの信頼性を蝕むことになる」と批判しているというものでした。また、この点ではワシントンポストも同罪だとも。

具体的な内容をいくつか挙げると「バケー現編集局長は表向きはタイムズを野党にしたくないと言ってるが、疑いもなくアンチトランプだ」「ニュース分析に分類される記事と同様にいくつかの記事見出しにはナマのオピニオンが混ざっている」「ほとんどがリベラルな読者の元、ほとんど全てネガティブなトランプ記事を出すことは財政的見返りにつながる」「それはトラフィック増大をもたらし、誰も想像できないレベルの新規契約に繋がった」ーーー

なお、現バケー局長への批判ともとれる表現があるのは、彼女がタイムズ始まって以来、初の女性編集局長として注目されながら、当時、局次長だったバケー氏との軋轢からわずか3年で社主のサルツバーガーに首を切られたと取り沙汰された過去があるためと見られるかもしれませんので、その辺りを斟酌して判断するべきかもしれません。(この辺りは当時、朝日の平さんが解説してました

とまれ、この刺激的な記事は、直ちにワシントンDC最大の政治情報紙The Hillはじめ多くのメディアによってフォローされます。特にトランプ支持の保守系サイト、例えばあのスティーブ・バノン氏の率いた Breitbart Newsはじめ NewsMax, the Washington Times, the New York Postなどなどで。

そして、金曜日にはAPがアブラムソン女子へのメールインタビューに成功します。それを伝える記事によると、女史は「FoxNewsの記事は、私の本に満ち満ちているタイムズやポストへの賛辞を無視しており、全体としてコンテキストから外れてる」などと反論します。そして「私の本をFoxifyする記事だ」とも。

余談ですが、この「Foxify」という単語を初めて知ったので調べてみましたら、foxには騙す、かつぐなどの意味があるのですが、それにifyがつくと、「多数の事実を捨て、センセーショナリズムにエンタメの価値を作り上げ記事にすること」と英語ネット辞書にありました。それと時として扇動的なFoxテレビのFoxを引っ掛けたのですね。さすが編集局長!

こんな風に侮辱された形のカーツ記者はAPの電話取材に「ジル(アブラムソン女史)が彼女自身が書いた言葉から逃げ腰になっているのは遺憾だなあ」と答え、侮辱的な表現については「この記事は正確であり、私はどの報道機関で働いていても、この記事のように書いただろう」と答えたそうです。ちなみにカーツ記者は、以前はワシントンポストのメディアコラムニストとして有名でした。

と、まあ、こういう流れの中で、トランプ大統領のツィートが出てきて、アブラムソン女史が反応するという展開になったのですが、これをいち早く報じたThe Hillの記事によると、女史の新著「Merchant of Truth」の抄録が出回っているとのことで(当方はネット上で発見できませんでしたが)、そこではカーツ記者の書いたことがそっくり裏書きされているような印象です。

メディアに対し「フェイクニュース」と叫び続けるトランプ大統領ですが、今度のツィートをメディア側が非難するのはちょっと難しそうです。なお、The Hillの別記事によると、大統領が去年1年間で「Fake News」と書き込んだ回数は193回だったそう。

ま、いずれにしても一冊30ドルのこの新著、きっと売れるでしょうね。