「令和」初日のプロ野球、巨人対中日戦のテレビ中継で解説者として元中日投手の山本昌さんが出演していました。プロ初出場が昭和61年で、平成27年、50歳まで投げ抜いたプロ野球の生き字引みたいな存在。

その山本さんが、平成のプロ野球を振り返って、大体こんな趣旨のことを言っていました。

「一昔前にはなかった揺れて落ちるスプリットボールがアメリカから入ってきて大流行り。かっては球速が140kmなら速球派だったが、今じゃ高校生でも160kmを出す時代。科学的トレーニングで体が強くなり、技術も向上したせいだろう。その意味で野球は進化し続けているのです」

ええ〜、もしかして山本さん、最近のウォール・ストリートジャーナル(WSJ)の大リーグ(MLB)に関する記事を目にされたんだろうか、と一瞬、思いました。

そこにはこうあったのです。「技術的、科学的進歩は、以前よりハードに投げ、物理の法則に逆らうように動く球を投げる投手軍団を生み出した」と。山本さんの主旨とそっくり。

で、このWSJの記事は、その結果、2018年シーズンは、歴史上初めて、三振の数が安打数を上回った、MLB全体の打率は昨シーズンは2割4分8厘で1972年以来、最低だった、タイムリーヒットは過去20年で12%減ったーーという興味深い数字を出して、山本さんが指摘するような、投手の能力が上がる中で、打席に入る打者が追い詰められていると指摘します。

WSJの記事が興味深いのは、そこで、MLBで何が起きているかということです。

見出しはこうです。Help Wanted: Baseball Hitting Coach 打撃コーチ求む

で、そのあとにこう続きます。(No Baseball Experience Required)

なんと、「野球経験不問」

日本のプロ野球球団でもそうですが、ステータスの高いMLBの打撃コーチといえば、殆どが往年の名選手で占められていました。

ところが、WSJによるとMLB30球団の現在の打撃コーチ30人のうち、19人は大リーグの試合出場数が100試合以下(”大選手”じゃなかった)、13人は大リーグで全くプレーしたことがなかったそう。

もっと驚くのは、この冬に採用された4人の打撃コーチはマイナーですらプレーしたことがなかったと言います。

なぜ、こういうことが起きてるのか。Jared Diamond記者(あの「銃・病原菌・鉄」などで有名なUCLA教授とは関係ありません)は、こう断じます。

「これまでの打撃コーチは、彼らが現役時代に教わったことを選手に単に伝えるだけというオーラルヒストリーみたいなものだった」ーーもう、かっての大物打者に教わるだけじゃ、進化する投手に太刀打ちできない、というわけです。

そこで、新任の打撃コーチは、「より洗練されたデータ主導のアプローチをとる。Kinetic chain(体の運動連鎖)を理解し、以前は不可能だったスイングメカニズムを解析するための現代のテクノロジーにも通じている」のだと。

とまれ、こうした流れの中で思い出されるのが、あの小説、映画になった「マネーボール」で有名なオークランド・アスレチックスのビリー・ビーン元GMのことです。

General Managerも、かっては殆どが著名な元大リーガーだったそうですが、大リーグ通算1割4分9厘、本塁打3本という選手としては期待外れだったビーン氏がGMとして辣腕を振るって以来、多くの球団のGMは実業界出身者に置き換わったとのこと。

今のMLBの打撃コーチの多くが、選手としての実績が乏しいけれど、データとテクノロジーに強いというのはビーン元GMに通じるものがあります。

果たしてこのトレンド、日本にも波及するかな。